「世界が少し違って
見える、
そんな日常の気づきを
与えたい」
金本凜太朗がみつけた尾道の美しさ

広島出身の新進気鋭の写真家である、金本凜太朗さん。
金本さんの映し出すものには、まるでデザイン集を眺めているような構成力と新鮮さがあります。
一目では被写体が何なのか分からないほどに、独自の視点で風景がレイアウトされているのです。
そんな金本さんがなぜか惹かれる場所が、広島県の東部に位置する尾道だと言います。
金本さんの目には、このまちがどんな風に映っているのでしょうか。
ともに尾道を巡って撮り下ろした、日常のかけらたちをご覧ください。
写真は人と心を通わせる一番の手段
「昔から鳥が好きで、鳴き声で鳥の種類が分かるんです。朝、起きたら7種類くらいの鳴き声が聞こえてきて、携帯にメモしました。遠くから造船所の作業音もスーッと聞こえてくるのですが、嫌な音は何もなく、心地のいい空間でした。そもそも、写真を始めたきっかけは鳥。小学生のころは、校庭にある肋木(ろくぼく)という遊具に登って、ずっと鳥を見ていました。そのうち鳥が撮りたくなって、中学1年生のときに貯めていたお年玉で初心者用の一眼レフカメラを買ったんです。ブレの表現を試したり、夢中になったことを覚えています」

金本 凜太朗
写真家。1998年 広島県広島市生まれ。 2020年からフリーランスとして東京を拠点に活動を開始。 WEBや広告など幅広いジャンルで撮影を手掛けるほか、 写真展の開催など自身の制作活動も行なっている。

朝方、日が昇る前の「LOG」。静寂の中に自然と人の営みを感じます。
旅の出発点は「LOG」。千光寺に続く石段の中腹にある「LOG」は、インドの建築家ビジョイ・ジェイン氏率いるスタジオ・ムンバイが手掛けた文化複合施設。1963年に建築されたアパートを自然素材と「人の手」によって改修。ホテルやダイニングをはじめ、ギャラリー、カフェ&バー、ショップなどを併設し、今や地元の人と観光客で賑わう空間へと生まれ変わっています。
「LOG」はまちの日常に溶け込むことを目指し、尾道ならではの景色が見渡せる造りとなっています。一方、客室とライブラリーの窓にはモールガラスを使用し、訪れた人がぼやけた窓から尾道の風景を想像する余白も残しているのだとか。
「写真は限られた枠の中でどんな構図にするのかを考えるのが楽しい。尾道であれば、海や坂道などの要素を入れることで、写真を見た人が尾道かな?と想像できます。『LOG』には窓枠や壁面など、尾道の風景を思い思いに切り取れるようなフレームがいくつもあって、写真を撮ったりトリミングしたりする感覚に近いものを感じました」

「特にモールガラスから見える景色は、海がぼやけたり月が伸びたりしていて面白かったです。昔から言葉で表現することがあまり得意じゃなかったけど、写真なら伝えられる。僕にとって写真は、人と心を通わせられる一番の手段です」

瀬戸内海には特有の空気が漂う
海運倉庫をリノベーションした「ONOMICHI U2」は、尾道が活性化する先駆けとなりました。終戦間近に建てられた海運倉庫の名前は“西御所県営上屋2号”。「U2」はこの“上屋(うわや)2号”から名付けられています。
「外観は倉庫の面影を残しながら、地元の衣・食・住を味わえるホテルやレストラン、雑貨等のさまざまなお店が軒を連ね、国内外から人が集まるサイクリングのメッカとして進化しています。地元の広島市でも農園の跡地を活用し、自然豊かな住宅街やカフェなどが集まったコミュニティ施設を作る『ミナガルテン』というプロジェクトがあります。放っておけば廃れてしまう場所が活気づいていくのは、地元の人間としてやっぱりうれしいです」
尾道の景色に情緒を与えるひとつが、「海の川」といわれる尾道水道。瀬戸内海に面した尾道と対岸の向島に挟まれた幅狭の水道は、古くから重要な交通路として栄えました。




「朝、中学生たちが登校のためフェリーに乗り込む光景は新鮮でした。彼らにとってはこれが当たり前の生活なのかと。彼らが体感しているだろう空気の質感をそのまま表現できるように意識して撮りました。
18歳から東京を拠点に活動していますが、広島弁が聞こえてくると安心します。最近は仕事やプライベートで2カ月に1回ほど広島に来ていて、そのバランスがちょうどいい。東京には仕事があり便利さを享受できるけど、広島は鎧を脱いで、ありのままの自分に戻れる場所。髪の毛がボサボサでもパジャマでも大丈夫かなって。東京で生活しながらも、時々瀬戸内海特有の穏やかな空気を吸いに来たくなるんです」



尾道は、古いものを生かして
変化し続けている
尾道では「LOG」「ONOMICHI U2」をはじめ、「空き家再生プロジェクト」や「アーティスト・イン・レジデンス」など、まちのあちこちで尾道の風景を未来へつなげようとする取り組みが行われています。スクラップアンドビルドでどこにでもあるまちを作るのではなく、元々持っている資源を活かす。そうした活動は国内外の人を巻き込みながら発展し、その意思と努力の結果が現在の街並みを作り出しています。
「尾道は、毎年夏に家族旅行で来ていた思い入れのある場所。千光寺公園の展望台に登って、売店でアイスクリームを買って食べるのが定番コースでした。大人になってからも毎年のように来ていて、なぜか惹かれるものがあるんです」

尾道で見られるささやかな風景。このまちのあたたかさが感じ取れます。

千光寺頂上展望台「PEAK(ピーク)」は、2022年に建て替えられました。旧展望台の特徴でもあった螺旋階段の形状を引き継ぎつつ、開放感に溢れた新名所となっています。
「尾道は変わり続けているけど、より良い形で変化していますよね。懐かしい場所がなくなってしまうのは悲しいけど、こんな素敵に生まれ変わるなら、また訪れたくなる。何より、まちが変化しても、土地に根付いた人たちの生活が脅かされず、平和な暮らしが守られていることが大切だと思います」

見過ごされている面白さを捉えたい
JR尾道駅は、2019年に125年ぶりとなる建て替えが行われました。初代駅舎の瓦屋根や深い軒を残しながら、海と山をつなぐ開放的なコンコースや尾道水道が見渡せる展望デッキなど、尾道の風土を存分に活かした設計となっています。
「尾道駅に電車で来るとき、車窓から見える景色がすごく良くて、こういう記憶を残したいなと思いました。特に時間帯がマジックアワーに被るとうれしい。新しい尾道駅は『尾道駅』のフォントが独特で好きです。ホーム壁面の緑色のタイルに黄色の車体が映るのが面白くて、納得いく一枚が撮れるまで何度もチャレンジしてしまいました。一度気になると、こう撮ったら面白いのではないかという考えが止まらなくて、なかなか終えられないんです」

尾道といえば、JR尾道駅から東に1.2km続く尾道本通り商店街も印象的。5つの商店街がひと続きとなり、約400店舗が並びます。
「尾道の商店街にはチェーン店がほとんどなく、個人商店ばかりなのがいいなと思います。僕は観光地でも、すでに世の中に溢れている写真は撮りたくないんです。みんなが見過ごしているものや忘れ去られているものに惹かれるということも関係しているかもしれません。例えば、光のゆらぎや反射しているものに美しさを感じるのですが、それは肉眼では気づけないような些細なもの。それを写真だったら、気づきを増幅させて表現できます。だから僕が撮る写真では、地元の方にとっても観光客の方にとっても新しい視点を提示したい。子どもの時に『どう?面白いでしょ?』と遊んでいた気持ちが、写真を撮り続ける根本にあるのかもしれません」

いい明日ってなんだろう?
金本さんにとって、カメラは子どものころから遊び道具であり、
友達とのコミュニケーションツールだそうです。日常の面白さに気づく目を養い、
そして写真というかたちで見る者に新鮮なまなざしをお裾分けしてくれます。
素敵なものはすでに目の前にある。それを素通りせずに正面から見つめられたら、
見慣れた景色も少し違って見えるのかもしれません。
そういった日常の中に隠れている地域の魅力を再発見することで、
「人」と「まち」がつながれば、より良い明日につながるはずです。
金本さんが撮る尾道の景色には、西日本にとってもより良い未来へのヒントが詰まっていました。

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