トップメッセージ
持続可能で活力ある西日本の未来を描いていく―。
「私たちの志」を羅針盤に、直面する社会課題に向き合い、心と未来を動かし、めざす未来に進んでいきます。
JR西日本グループに寄せられるご期待の大きさ、それに応えていく責任の重さ。
めざす未来に進む「仲間」の一員として、皆の思いを代表して経営に臨んでいきます。
代表取締役社長に就任し、改めて、鉄道を中心とする社会インフラを担う企業としての責任の重さを実感いたしました。当社グループにとって、「安全」がすべての事業の基盤であり、安全性を高め続ける取り組みを通じ、お客様に安心してご利用いただき、社会や経済の基盤を守り、その発展に貢献するという使命を果たしていく所存です。
就任後にさまざまなステークホルダーの皆様と対話した中で、地域のにぎわいづくりや交流人口の拡大など、当社グループに寄せられるご期待の大きさを感じました。人口減少や自然災害の激甚化など、社会課題が顕在化していく中で、インフラサービスを提供し、多くのお客様との接点、地域とのつながりを持つ当社グループは、今後ますます役割を果たしていく必要があります。
また、当社グループが事業活動の中で培ってきた種々の組織能力に、対話を通じて改めて気づかせていただくことも多くありました。これらの能力を、未来を動かす具体的な力に変えていくためには、さまざまなパートナーの皆様との「共創」が鍵を握ります。「共創」を通じて、現在の事業領域をさらに広げ、社会課題の解決に「挑戦」することが、「私たちの志」に込めた思いであり、心が動き、未来が動くのだと考えています。この「共創」と「挑戦」は当社グループの成長におけるキーワードとして、今後も大切にしてまいりたいと思います。「挑戦」の担い手である「共に働く仲間」― グループ会社を含めた社員とも、各事業エリアで対話の場を設け、仕事への思いや誇り、将来に向けた期待などを語り合いました。率直に思いを伝え続けることもリーダーの役割の一つであると認識しています。こうした双方向のコミュニケーションを通じて、私自身が、共に働き、めざす未来に進む「仲間」の一員として、的確な経営判断と実行という役割を果たし、皆の思いを代表して経営に臨んでいきたいと考えています。
これからも、鉄道の安全を基盤とし、社員の思いや誇りを大切に、「共創」と「挑戦」により、ステークホルダーの皆様からのご期待にお応えできるよう、全力で取り組んでまいります。
【2024年度の振り返り】
北陸新幹線金沢・敦賀間開業、大阪や広島での開発プロジェクトの開業など、4期連続の増収増益に結実。
地域や社会とのつながりを進化させた1年でした。
2024年度は、「私たちの志」のもと、「JR西日本グループ中期経営計画2025」(以下、「中期経営計画」)をアップデートし、「長期ビジョン2032」(以下、「長期ビジョン」)の実現に向けた取り組みを加速させた1年でした。
経営の最優先事項である鉄道の安全性向上については、福知山線列車事故のような重大な事故を決して発生させないとの決意のもと、組織全体で安全を確保する仕組みと安全最優先の風土の構築に取り組んでいます。実態把握に基づいた安全対策を着実に実行するなど、「お客様が死傷する列車事故」、「死亡に至る鉄道労災」の発生を抑え込むことができました。「JR西日本グループ鉄道安全考動計画2027」(以下、「鉄道安全考動計画」)に基づき、ホームや踏切の安全対策、地震対策などのハード整備を着実に進捗させています。また、「現場の判断を最優先するマネジメント」や「お客様を想い、ご期待にお応えする」ことを意識した考動を推進するとともに、実践的な訓練を積み重ねるなど、ソフト面での取り組みにも力を入れてきました。
また、モビリティサービス分野、ライフデザイン分野の双方において、グループ一体となって進めてきたプロジェクトが数多く開業を迎えました。
2024年3月に北陸新幹線金沢・敦賀間が開業し、1年間で816万人(金沢〜福井間)のお客様にご利用いただくなど、新たな流動が生まれ、北陸地域内外での交流の促進につながっています。
2024年7月に大阪駅西部エリアで「イノゲート大阪」と「THE OSAKA STATION HOTEL」、2025年3月には、うめきたエリアで「うめきたグリーンプレイス」も開業しました。各エリアは歩行者デッキで結ばれ、西日本最大のターミナルである大阪駅周辺の新たなまちのにぎわいを創出しています。
また、2025年3月に広島駅の新駅ビル「minamoa」がオープンし、さらに8月には新駅ビル2階に広島電鉄が乗り入れ、JRと路面電車の乗り換えの利便性が高まるなど、まちづくりにも貢献することができました。広島市のみならず近隣の地方自治体の皆様からも地域の新たな核として注目していただいていると受け止めています。
このようにグループ全体で、地域や社会とのつながりを進化させることができました。足元の業績については、各種施策によってインバウンドを含む需要を確実に取り込んで、4期連続の増収増益を果たし、中期経営計画の達成に向けて確かな手応えを感じています。
【大阪・関西万博】
大阪では55年ぶりの国際博覧会。公共交通機関の第一の使命である安全なアクセス輸送に注力するとともに、JR西日本グループを挙げて関西の盛り上げに貢献することができました。
2025年度は、大阪では55年ぶりとなる「大阪・関西万博」が開催されました。開催期間中には国内外から2,500万人を超える方が来場され、大変な盛り上がりをみせました。
当社グループは、公共交通機関の第一の使命として、鉄道やシャトルバスによる万博会場へのアクセス輸送を担いました。乗り換え駅となる西九条駅と弁天町駅の駅改良や、新大阪駅からの直通列車の運行、各駅でのご案内など、お客様に安全に、安心してご移動していただくために、あらゆる事態に備え、即応できる体制を整え、実践してまいりました。パートナーの皆様のご協力も得ながら、社員一人ひとりの考動により、無事にその役割を果たせたことについて、関係者の皆様に心から感謝するとともに、安堵しています。
また、当社グループにとっては、「大阪ヘルスケアパビリオン Nest for Reborn」への出展参加やオフィシャルストアでの当社グループならではのお土産の開発、販売など、グループを挙げてさまざまなパートナーの皆様との連携を深めながら、未来に向けた価値創造に携われたことも大きな財産です。最終日には、ファイナルイベントを主催し、万博を盛り上げていただいたスタッフの皆様に感謝の気持ちを伝えることができました。万博を訪れるお客様をおもてなしし、関西の盛り上げとにぎわいの創出に取り組んだ経験を活かし、当社グループの成長につなげていきたいと考えています。
私としては、万博の出展やイベントを通じて、いのち輝く未来社会のデザインをテーマとして世界各国から集まる未来への想いや創意に新鮮さを感じ、さまざまな刺激を受けました。私たちにはもっと可能性が広がっている、私たちもこれから頑張っていける、というような心持ちにしていただき、感謝しています。
【経営環境と課題】
さまざまな課題に直面する、厳しさを増す経営環境。
しかし、それはリスクばかりでなく、新しいチャンスでもあると捉えています。
人口減少の加速、物価や金利の上昇、自然災害の激甚化、インフラの老朽化など、さまざまな課題に社会が直面する中、消費者の嗜好も多様化しています。一方で、急速に進歩する生成AIの社会実装など、技術革新により新たな機会も生まれています。社会インフラを担う当社グループにとっても、経営環境は厳しさ、複雑さを増していきます。リスクが増していることも確かですが、これまで鉄道事業など当社グループの事業を通じて培った組織能力やさまざまな資本を活かすことにより、新しいチャンスを生み出すこともできると捉えています。
例えば、人口減少に対しても、地域とのつながりや鉄道ネットワークを活かすことで、その地域に継続的にかかわり続ける関係人口などの新たな需要を生み出し、にぎわいにつなげていくことも可能だと考えています。西日本エリアの各地域の魅力を発掘する「『ふるさとの光』発見プロジェクト」も各地の主要紙と協働して進めています。万博を契機として、デジタル化やキャッシュレス化の流れも日本社会全体で加速してきました。今後も新たに顕在化する社会課題に対して、私たちの強みを活かし、解決に向けていく中にチャンスはあります。さまざまなパートナーの皆様との共創により、社会課題の解決に挑戦してまいります。
その中で、社会的価値と経済的価値の双方を両立させることが、サステナビリティ経営であり、「私たちの志」のもと「長期ビジョン」の実現をめざす、当社グループの経営そのものであると認識しています。
現在、2026年度から始まる次期中期経営計画について検討を行っていますが、その中でもこの認識をしっかりと織り込んでいきます。加えて、その先を見通すと、「統合型リゾート大阪IR」や「なにわ筋線新規開業」など、関西を大きく変えるプロジェクトが進んでいます。経済の活性化に寄与するとともに、この機会を当社グループの成長につなげていく準備を進めてまいります。
【モビリティサービス分野の展望】
事業を取り巻く環境が厳しさを増す中、安全を基盤とし、鉄道の持続的進化に向けて取り組んでいきます。
安全の取り組みに終わりはなく、今後も福知山線列車事故を原点とした鉄道の安全性向上が最重要の経営課題であることは変わりません。引き続き「鉄道安全考動計画」に掲げた一つひとつの施策を着実に前に進め、お客様から安心、信頼して、繰り返しご利用いただける鉄道を築き上げてまいります。
経営環境が厳しさを増す中でも、鉄道の持続的進化を果たしていくことは、重要な経営課題です。新幹線を中心とした鉄道ネットワークを活かし、交流人口や関係人口を創出し、地域社会の発展に貢献していきます。数多くのパートナーの方々と連携して、新しい旅のスタイルを提案する「動け、好奇心。」のキャンペーン展開や年々拡大しているインバウンド需要に対しても、受け入れ体制の整備や「せとうちパレットプロジェクト」などを通じて、地域の皆様と西日本エリアの魅力向上を図り、広域誘客を促進させる施策にも取り組んでいきます。
一方、働き手の減少という課題に対しては、需要想定を踏まえた柔軟なダイヤ構築やAIを活用した車両運用の最適化といった運行オペレーションの変革、CBM(Condition Based Maintenance)の活用や多機能鉄道重機の導入といった保守メンテナンス手法の変革など、技術を活かした生産性向上に取り組んでいきます。さらには、装置・部品の共通化、外国人の雇用や人財育成をはじめ、同業他社と共通する課題の解決に手を組んで取り組むなど、さまざまな挑戦を開始しています。
鉄道の持続的進化に関しては、ローカル線の今後のあり方も大きな課題です。道路網の整備や道路を中心としたまちづくりの進展などの環境変化もあり、一部の地域においては人口減少のペースを上回る速度で鉄道のご利用が減少しており、大量輸送という観点で鉄道の特性を十分に発揮できていない現状があります。地域のビジョンを踏まえながら、発展につながる、持続可能で最適な交通体系を、地域の皆様とともに模索し、実現していきたいと考えています。
また、コロナ禍より進めてきたコスト構造改革は効果が出ているものの、物価や金利の上昇は経営に深刻な影響を与えています。サプライチェーン全体の人財確保に向けた人的資本投資と成長を両立させ、公共交通機関としての使命を持続的に果たしていくためには、コストの増加を鉄道の運賃や料金へ適切かつタイムリーに転嫁できる仕組みが必要であると認識しており、引き続き国に対して規制緩和に向けた要請を重ねていきます。
【ライフデザイン分野の展望】
持続的に成長する企業グループとなるために。
JR西日本グループの強みを活かした挑戦を加速させていきます。
コロナ禍の経営危機を踏まえて、必ずしも移動と連動しない事業分野であるライフデザイン分野を拡大させ、最適な事業ポートフォリオを構築していくことが、当社グループの持続的な成長に向けて重要な課題であると認識しています。
不動産、まちづくり分野では、大阪や広島の大規模プロジェクトの効果を最大化していくとともに、市場規模が大きな首都圏での流動性の高い資産の拡大や、私募ファンド、私募リートの有効活用などに取り組むことで、さらなる成長をめざしていきます。
また、顕在化する社会課題の解決にも挑戦しています。当社をはじめ、金融やDXに関するパートナーなど幅広い連携のもとに進める総合インフラマネジメント事業である「JCLaaS(ジェイクラース)」を2024年2月からスタートしています。近年、道路や上下水道といった社会インフラの老朽化が大きな社会問題となっており、地方自治体の皆様と対話していても、その課題の深刻さがしばしば話題にのぼります。当社グループが保有する鉄道をはじめ、道路や橋など、インフラ設備の建設や維持における多様なスキルとノウハウを活かし、インフラを守る事業に参画することで、民間企業として地域の基盤を支えるところで役立てればと考えています。
デジタル戦略について、当社グループの強みは、リアルとデジタルの両面で豊富な経営資源を有していることです。日々500万人のお客様がグループのサービスを利用され、これらのサービスが共通IDをもとに、お一人おひとりのニーズにあったマーケティング活動につなげることが可能であるということです。こうした強みを活かして、「WESTERアプリ」、「モバイルICOCA」、さらに今年度新たにスタートしたコード決済サービス「Wesmo!」を連携させた展開を進めていきます。
【JR西日本グループの原動力となる人財への想い】
多様な社員がそれぞれに創意工夫できる環境を整え、それを未来へと向かう大きな力にしていきたいと考えています。
当社グループの事業運営において、人財こそがすべての根幹であり、未来に進む原動力です。急速に変化する経営環境においては、これまでの事業を着実に深掘りして進めていくことに加え、デジタルの領域を含めた新しいビジネスモデルの構築など、さまざまな挑戦が必要になってきます。
未経験の仕事に挑戦していくためには、情熱や創意工夫が重要であり、私たち経営者は、自らチャレンジ精神を発揮するとともに、社員一人ひとりが挑戦しながら活躍できる環境を整えていく必要があります。デジタルツール環境の整備や諸制度の改正など、社員の挑戦を後押しし、業務を通じて社員が成長を実感できる仕組みを整えていきます。また、事業領域が拡大する中では、ジェンダーや国籍、採用形態などにとらわれない、さまざまな価値観を持つ人財が結集し、多様性を発現していくことが事業活動の基盤になります。
社員が健康で、働きがいを感じられなければ、力を発揮できません。それぞれのライフスタイルに応じた働き方を進めるとともに、それに対応できる場所を実現するため、有志によるワークショップを通じて社員たちの声を採り入れたオフィス改革にも取り組んできました。
社員との対話においても、資源は有限ですが、創意には無限の可能性があることを伝えています。多様な社員がそれぞれに知恵を出し合い、創意工夫をし、それを未来へと向かう大きな力につなげていきたいと考えています。
【気候変動への対応と事業とのかかわり】
世界的に深刻さを増す気候変動。
環境にやさしい交通モードである鉄道の特性を活かし、地球環境の保護に貢献していきます。
気候変動に起因する大災害が発生するなど、世界的にその脅威が増し、我が国においても今夏の猛暑など、人々の行動に影響が出ています。
地球環境保護への取り組みは、サステナビリティ経営の観点からも非常に重要です。当社グループは、環境長期目標「JR西日本グループゼロカーボン2050」を策定するとともに、今回新たに2035年度、2040年度の中期目標も定め、鉄道の運転用電力のうち再生可能エネルギーの比率を高めるなど、2050年度のカーボンニュートラルに向けた取り組みをこれからも着実に進めていきます。
また、鉄道は他の交通機関と比較して、CO2排出量が極めて少なく、環境にやさしい交通モードです。その環境特性をお客様に広くご認識いただき、他の交通モードからの転換など社会行動変容につなげることができれば、地球環境保護に大きく貢献できると思っています。具体的には、東海道・山陽・九州新幹線では法人契約に基づくCO2実質ゼロ化サービスである「GreenEX」の導入や、鉄道事業者と沿線自治体による地域脱炭素推進コンソーシアムである「関西まちWe’ll(ウェル)」を通じた沿線地域への再生可能エネルギー電源の普及促進など、社会の行動変容に向けた取り組みを進めています。
当社グループにおける環境目標はもとより、鉄道の特性を活かしながら、脱炭素社会の実現に向けて貢献してまいります。
【ステークホルダーへのメッセージ】
JR西日本グループ一丸となった「共創」と「挑戦」を続け、未来を動かしていきます。
当社グループの未来を思い描くとき、私の中に必ず浮かんでくる言葉があります。それは「私たちの志」の中で語られている、「心を動かす。未来を動かす。」という言葉です。この「未来」には、当社グループの未来と、共に歩んでいく社会や地域の未来が重ねられています。そこに私たちの存在意義があると考えています。
改めてこの一年を振り返ると、リアル、デジタルでのさまざまなプロジェクトを通じ、人、まち、社会とのつながりが進化し、こうした取り組みが業績面にも結びついたと感じています。その結果、社員の待遇改善など人的資本の充実や株主の皆様にお約束してきた配当や自己株式取得による還元を行うことができました。
私たちは、持続可能で希望が持てる社会づくりに貢献し、その先の一人ひとりが思い描く暮らしを実現することを「私たちの志」という羅針盤によって、社会にお約束しています。これからも「共創」と「挑戦」により、直面する社会課題に向き合い、心と未来を動かし、めざす未来に進んでいきます。


