トップメッセージ
ステークホルダーの皆様の心と未来を動かし、めざす未来へと進む。
「私たちの志」「長期ビジョン2032」の実現を加速していきます。
【長期ビジョンの実現に向けて】
「それで私たちの心は動くのか?」
「私たちの志」を、共に働く仲間に、そして自分に問いかけてきました。
JR西日本グループでは2023年4月、未来社会における当社グループの存在意義を「私たちの志」として掲げ、「長期ビジョン2032」(以下、「長期ビション」)とともに公表しました。
策定にあたっては、当社グループの将来を担う若い世代の社員が中心となって自由に議論を重ねました。「私たちの志」という言葉も、そうした議論の中から生まれてきたものです。当社グループで働く誰もが身近に自分ごととして考えられる、めざす姿をつくりたかったのです。
「私たちの志」は、「心を動かす。未来を動かす。」という言葉で結ばれています。私はこの「心を動かす」には、私たち自身の心が動くという意味もあると考えています。JR西日本グループで働く一人ひとりに、心が弾むくらいの熱い気持ちを感じながら、人々の心を、そして未来を動かすような、やりがいのある仕事をしてほしいと思っています。
また、この言葉は私自身に向けられたものでもあり、経営にあたっての羅針盤として機会あるごとに意識しています。共に働く社員、役員にも「それで私たちの心は動くのか?」と語りかけるとともに、この言葉を自問自答してきた1年でもありました。
【2023年度の振り返りと中期経営計画アップデート】
コロナ禍からの回復を捉えた需要創造、構造改革により、想定を大きく上回る業績を達成。
長期ビジョンの実現を加速させるべく中期経営計画をアップデートしました。
2023年度は、「私たちの志」と「長期ビジョン」の実現に向けて、「中期経営計画2025」(以下、「中期経営計画」)、「JR西日本グループ鉄道安全考動計画2027」(以下、「鉄道安全考動計画」)をスタートした年でもありました。中期経営計画では、鉄道や駅ナカ事業などの「モビリティサービス分野」と、人の移動に依らず、お一人おひとりの暮らしに寄り添う「ライフデザイン分野」という2つの領域に事業を捉え直しました。コロナ禍を経て、暮らし方や働き方など社会は大きく変化しています。ポストコロナにおける事業環境を考えたとき、当社グループの強みを活かし、これまで以上に幅広い領域で社会に価値を提供していくため、いまこそ新しい視点が必要だと考えたのです。
1年を振り返ると、まず、経営の最優先事項である鉄道の安全においては、鉄道安全考動計画の初年度として、「お客様を想い、ご期待にお応えする」ことを強く意識して具体的な取り組みを進めるとともに、大きな輸送障害や労働災害等の発生を踏まえて認識した課題の改善を図りました。
また、地域のさまざまなパートナー、グループの仲間と共に、2024年1月の令和6年能登半島地震を受けた鉄道の復旧や3月の北陸新幹線金沢・敦賀間の開業に向けて取り組み、改めて地域・社会とのつながりを実感する機会となりました。さらに、今後の成長の礎となる各分野のプロジェクトにおいても、大阪駅うめきたエリアの開業、奈良線の複線化開業、「WESTER(ウェスター)ポイント」や「モバイルICOCA」といった新サービスの展開など取り組みが着実に進展しました。
これらも活かしつつ、インバウンドを含めた需要回復の機会を捉えてグループ一体で需要創造に取り組み、またコロナ下で進めてきた構造改革の成果もあり、計画を上回るペースでの業績回復を果たすことができました。
このような進捗、今後の事業環境の見通しなどを踏まえ、2024年4月に中期経営計画をアップデートし、「長期ビジョン」の実現を加速させるため、2027年度までの設備投資を約2,100億円積み増し、重点施策への追加の資源配分を行いました。
【モビリティサービス分野〜鉄道事業の安全性向上・持続的進化】
鉄道の安全性向上が最重要の経営課題であり、これからも変わることはありません。
アップデートした中期経営計画においても、福知山線列車事故を原点とした鉄道の安全性向上が最重要の経営課題であり、それはこれからも変わりません。鉄道安全考動計画に基づき、ホームや踏切の安全性向上、地震対策をはじめとする防災対策といったハード対策に加え、現場第一線の社員にとって最適な安全確保の仕組みやルールの改善といったソフト対策の両面で、安全性向上に継続して取り組んでいきます。
また追加投資を活用し、老朽化した車両の更新を前倒しで進めます。安全性や快適性に加え、メンテナンスコストの削減という面でも有効な施策です。
なお、モビリティサービス分野の中核をなす鉄道事業については中期経営計画策定時、コロナ禍前に比べ9割までのご利用回復を見込んでいましたが、すでに2023年度にその想定を上回りました。さらにインバウンドをはじめ観光・旅行需要を着実に取り込んでいくために、ハード・ソフトの両面から鉄道サービスの充実に取り組んでいきます。
鉄道の持続可能性に関しては、ローカル線の今後のあり方やコストの上昇といった課題もあります。ローカル線では、人口減少・少子高齢化、道路を中心としたまちづくりの進展などの環境変化の影響を受けて、地域の移動ニーズにお応えできずにご利用が大きく減少しています。再構築の議論が本格化しつつある中、地域の皆様と課題認識を共有しながら、持続可能でご利用しやすい最適な交通体系を、共に模索・実現していきたいと考えています。
また、物価をはじめコストの上昇傾向が顕著です。まずは技術を活用した生産性の向上、構造的なコスト削減に引き続き取り組み、深掘りしていきます。一方で、当社は会社発足以降、消費税増税に伴う改定を除き、国の認可を伴う抜本的な運賃改定(値上げ)を実施していません。このような中、持続的に公共交通機関としての使命を果たし、多様化するニーズにお応えしていくためには、価格への転嫁のあり方についても検討していく必要があると考えています。加えて、運賃料金制度の柔軟化、シンプル化などの規制緩和も必要と認識しており、引き続き、国へも規制緩和に関する要請を重ねていきます。
【ライフデザイン分野〜不動産・まちづくりの展開】
「イノゲート大阪」「THE OSAKA STATION HOTEL」が開業。
大阪、三ノ宮、広島といった大規模な拠点はもとより、各地で地域に根ざしたまちづくりを展開していきます。
2024年7月、「イノゲート大阪」と「THE OSAKA STATION HOTEL」がいよいよ開業しました。「うめきたエリア」とともに、生まれ変わる大阪駅エリアを象徴するプロジェクトです。また、2025年に広島駅新駅ビル、2029年度には三ノ宮駅新駅ビルの開業を予定するなど、複数の大規模プロジェクトを進めており、駅を起点に地域のまちづくりと連携し、地域価値の向上に貢献していきます。
中期経営計画のアップデートにおける追加資源配分では、ライフデザイン分野に対して約1,100億円、そのうち約970億円を不動産・まちづくりに追加投資する計画です。中核市である兵庫県明石市と連携して西明石駅周辺で共同住宅を含む再開発を進めるなど、プロジェクトも多様化しています。今後は大規模な拠点はもとより、各地で地域に根ざしたまちづくりを進めていきます。なお、営業利益ベースで、ライフデザイン分野の比率は現在25%程度ですが、2032年度には40%にまで高めていく計画です。
【グループ事業全体でのシナジー発揮】
グループの事業全体でのシナジー発揮に向け、その共通基盤となるのがデジタルサービスです。
若手や現場からの提案も活発化しています。
これからの当社グループの経営を考えるにあたっては、事業分野間のシナジーの発揮という視点が欠かせません。鉄道、物販・飲食、ホテル、ショッピングセンター、不動産といったそれぞれの事業の力を高めていくことは重要ですが、加えて当社グループ全体としてお客様にどのような価値ある体験を提供できるかが大切です。
この共通基盤となるのが「WESTERアプリ」や「モバイルICOCA」といったデジタルサービスです。当社グループは鉄道を中心に1日あたり約500万人ものお客様との接点があるほか、ホテルやショッピングセンターなど多彩でリアルなサービス提供の場を有しています。これは、一朝一夕には築くことができない当社グループの強みの一つであり、たとえば新幹線を予約されたお客様に目的地にあるホテルをご案内する、鉄道のご利用で貯めたポイントをショッピングセンターでご利用いただくキャンペーンを展開する、といったグループ内の事業の相乗効果にとどまらず、こうして蓄積したビッグデータに基づいてデータドリブンなマーケティングを行うことで、需要創造やライフデザイン分野の新しい事業を生み出せる可能性もあると考えています。
さらに現在、スマートフォンを利用した新しい決済・ウォレットサービスである「Wesmo!(ウェスモ!)」の導入に向けた準備を進めています。すでにこの分野にはいくつか競合がありますが、いまお話ししたような当社グループならではの強みがあれば、十分に競争優位を築けると考えています。それになによりも、グループ全体のシナジー発揮という視点においても、当社グループの価値を持続的に高めていく鍵となる戦略です。
また、グループ横断的な基盤の構築が進むにつれて、最近、グループ内の空気が変化してきたように感じています。「WESTERポイント」などのグループ共通基盤を核に、モビリティサービス分野とライフデザイン分野の各部門が議論する機会が増えてきました。そんな場がきっかけとなって、部門横断的な新サービスの企画など、各事業で若手や現場からの提案が活発になりつつあります。
かつては、事業部門をまたいで仕事をする機会は今よりも少なく、やはりどこかに意識の壁のようなものがあったように思います。事業ポートフォリオを組み直した狙いの一つには、さらなる価値の創出に向けてシナジーを発揮しつつ、円滑に相互補完できる関係をつくりたいという思いもありました。この改革は私自身が先頭に立って引っ張っていかねばならないものと考えていましたが、早くもグループ内の各所で若手メンバーたちが自ら考え、走り始めている様子を目の当たりにして、とても頼もしく感じています。
2024年1月には、本社にマーケティング本部を新設し、モビリティサービス分野とライフデザイン分野のシナジーをさらに発揮させ、グループ横断のマーケティングを推進していく体制をスタートさせました。
【ライフデザイン分野の新事業「JCLaaS」の展開】
当社グループならではの経験とノウハウを活かし、社会課題の解決につながる新事業を展開していきます。
2024年2月、ライフデザイン分野の新たな事業として「JCLaaS(ジェイクラース)」を立ち上げました。当社が中核となり、NTTコミュニケーションズ様ならびに、みずほ銀行様、三井住友銀行様、三菱UFJ銀行様および日本政策投資銀行様の4つの金融機関が提携した総合インフラマネジメント事業です。
近年、道路や水道といった社会インフラの老朽化は大きな社会課題となっています。当社グループが持つ、鉄道のみならず道路や橋など、インフラ設備の建設・維持における多様なスキルとノウハウを活かし、さまざまなパートナーとの協業のもと、社会課題の解決につながる新しい事業を展開していきます。
特に地方においては、人手不足や財政難などのため、重大な課題だと認識しつつも課題解決に取り組めないという悩みを抱えている自治体が多くあります。「JCLaaS」では、工事の請負にとどまらず、従来自治体が担ってきた計画立案や発注業務なども引き受け、社会インフラの維持・管理、更新に関する業務の全体を通じて自治体の機能をサポートします。このような官民連携の取り組みにおいて、当社グループが地域に根ざすパートナーとして培ってきた信頼は大きな推進力となるはずです。
すでに事業は動き始めており、京都府福知山市では、自治体やパートナーの皆様から信頼を得て、上下水道事業に参画しております。各地の自治体からの関心の声も増えており、2030年までに100を超える自治体において事業を展開することを目標にしています。
社会インフラの更新・維持にかかわる市場規模は年間約10兆円ともいわれます。社会課題の解決はもちろん、ビジネス的にも大きなポテンシャルがあり、社会的価値、経済的価値の両面で、私は当社グループの新しい柱になりうる事業だと期待しています。
【人財への想い】
昨日よりも今日、今日よりも明日と、共に働く仲間一人ひとりが前向きに創意工夫する環境を整えていきます。
経営テーマの1つである「変化対応・創出力の向上」の原動力となるのは、人財であることは言うまでもありません。当社グループで共に働く仲間一人ひとりが意欲を持って仕事に取り組む環境を整えることは、経営者としてなによりも重要な役割です。
そのためには、社員たちが日々の仕事の中で創意工夫する姿勢を後押しする仕組みづくりが大切です。たとえば鉄道の保全作業においても、新しいデジタルツールを活用して業務の改善にチャレンジするなど、昨日より今日、今日よりも明日と、いつでも前向きに仕事と向き合い、変革するマインドを醸成していきたいと考えています。
そこで重要となるのがDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進です。これまで、現業機関を含めハード面の整備のほか、社員が自分の手で事務作業を自動化することやアプリを制作することができるツールを導入するなどソフト面の充実も図ってきました。社員の間でも、そうして開発したアプリを社内のネット上で共有し、水平展開する動きも出てきています。
人財の確保においては、採用・育成も重要な課題です。少子高齢化による労働力不足が顕在化するなか、その重みはますます増しています。新卒一括採用といったスタイルにこだわることなく、社会人や外国籍人財の採用なども含め柔軟に対応していきます。
そして、一人ひとりがいきいきと働くには、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(多様性・公平性・包摂性)の推進が大切です。ライフデザイン分野の拡大とともに当社グループの事業は今後さらに多様化していきます。それを支えるうえで、多様な価値観を持つ人財の活躍が欠かせないのです。国籍や性別だけでなく、育児や介護、病気や障がい、LGBTQ+といった生活や個人に関する多様な背景を持つ人財が互いに尊重し合いながら存分に能力を発揮できる環境づくりが重要です。「相互理解、敬意と共感」がベースとなる組織こそが強力で優れた創造性、柔軟性を持つと私は信じています。
【サステナビリティの取り組み】
サステナビリティの取り組みは将来の企業価値のポテンシャル向上につながると考えています。
長期持続的な価値創造をめざすとき、人的資本、人権、環境といったサステナビリティ分野の取り組みは、将来の企業価値のポテンシャルを高めることにつながります。
人財に関してお話しした、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの推進はもとより、人権の面では、グループで働く一人ひとり、また取引先といったサプライチェーンにおいても、あらゆるハラスメントをなくしていくことを宣言しています。
また、環境の面では、将来にわたりお客様に選択していただける企業グループであるために、新幹線や大阪環状線、JR京都線・神戸線といった主な線区の運転用電力や、大阪駅エリアをはじめとする主要な施設へ再生可能エネルギーを導入し、CO2排出量の削減を進めています。社会的に環境への意識が高まるなか、お客様からも、よりCO2排出が少なく環境に優しい移動サービスのニーズが高まっており、再生可能エネルギー由来電力を用いたCO2フリーの出張サービスの提供などを開始しています。
【ステークホルダーへのメッセージ】
グループ一丸となって、長期ビジョン実現へのチャレンジをさらに加速していきます。
2025年度にはいよいよ「大阪・関西万博」が開催されます。当社グループでも、万博アクセス輸送の一翼を担うほか、うめきたエリアの「JR WEST LABO」で連動したイベントを展開するなどさまざまな形で万博の成功に貢献していきます。インバウンド需要の拡大も契機として、西日本エリアの魅力を国内外に発信する絶好の機会であり、各地域とも連携しながら、プラスワントリップとして西日本エリアを訪れていただけるように取り組んでいきます。
改めてこの1年を振り返ると、2023年度の業績回復は私の予想を上回る成果でした。コロナ禍という厳しい環境のなか、グループ一丸となって取り組んできた構造改革や新しい事業の基盤づくりが大きく実を結び始めたと感じています。また、これらを成し遂げられたのは、株主の皆様をはじめ各ステークホルダーからの信頼に支えられてこそであり、今回の中期経営計画アップデートの進捗を見極めながら、約1,000億円の自己株式取得を行い、資本コスト低減、EPS(一株あたり利益)の回復を図っていく計画です。
私たちは、長期ビジョンの実現に向けた歩みを加速し始めました。人と人、人とまち、人と社会をつなぎ、そして「心を動かす。未来を動かす。」チャレンジに、JR西日本グループが一丸となり力を結集して取り組んでいきます。