このページの本文へ移動

匠への道

技術を受け継ぐ旗手たち(第20回)

広島支社 下関総合車両所 広島支所 千葉 崇史 係長

広島支社 下関総合車両所 広島支所 千葉 崇史 係長

3月のダイヤ改正で、広島シティネットワークを走行する電車が全て227系に置き換えられた。227系は新たな保安システムD-TAS車上装置を搭載した車両で、今回の主人公 下関総合車両所 広島支所の千葉 崇史係長はD-TASの開発にも携わり、現在は227系をはじめとした車両の保守を担う係長。「導入時から227系には携わっていますが、いまだに勉強中です」と、謙虚に学ぶ姿勢を崩さない。

※信号機の位置や制限速度などの情報を含むデータベースを車両に搭載することで、適切なブレーキ操作などさまざまな運転支援機能を備えた車上主体式の運転保安システム。

千葉崇史の経歴図

一人前として認められるうれしさと責任

プロフェッショナル採用3年目となる、1999年の入社。鷹取工場(当時)に配属となり、最初の1年は同工場の訓練センターで仕事の基礎を学んだ。その後網干総合車両所を経て下関車両センター(当時)へ異動し、車両の空制機器および配管の定期検査や改造作業を担当する。この頃から、一人で仕事を任されるようになった。「それまでは先輩のお手伝いが主でしたので、一人前として認めてもらったようでうれしかったです。一方で自分が担当であるという責任感が生まれ、緊張しました」。改造作業では配管や配線が図面通りになっておらず微調整が発生することがあり、対応方法に苦労することもあったが、周りにいる経験豊富な上司と先輩を頼り、一つずつ知識と感覚を身に付けていった。

2つの脱線復旧と西日本豪雨 その場で判断できる係長になるために

机上だけでなく現場に赴き作業状況を確認する。

入社13年目を迎えた2011年に本社 保安システム室(当時)に配属となり、D-TASに携わる。保安システム室での出来事は千葉にとって初めての連続だった。「そもそも初めての間接部門の仕事でしたので、仕事を始める段階の苦労もありました」。仕事の進め方を覚え始めたものの、系統や部署を超えて仕事をすることにも戸惑った。「D-TASは乗務員、施設、電気という、車両以外の系統が関わって成立するシステムです。私は車両しか知らなかったので、列車を動かすために必要なことは何なのか、そして他系統の社員がどんなことをしているのか、初めて考えるようになりました」。

2013年からは下関総合車両所 広島支所の係長となり現在に至る。2016年から2018年にかけて、大雨に絡む災害対応が連続して発生した。

2016年6月、山陽線において雨が降り続き土砂崩れが発生、土砂に乗り上げた列車が脱線した。千葉は復旧班の班長の一人として現場に急行した。お客様の状況確認、避難誘導、その後の復旧計画と、訓練を思い出して一つずつ対応し何とかやり遂げた。「作業内容はおおむね想像していたものでしたが、報道機関の方や社外の方の視線が多く、緊張しました」。息つく間もなく、同年7月に今度は芸備線で同様の事象が発生。「経験がある。何とかなるだろう」と向かうと、付近の道路が狭く復旧機材を運べないなどの問題が次々と発生、結局復旧は夜中まで時間を要した。そして2018年に発生した西日本豪雨災害では、不通区間に取り残された車両の検査修繕を現地で行う経験もした。「通常通りではない状態、まさに異常時の対応では、その場その場で判断を求められます。脱線の復旧は過去に作業員として向かったことはありましたが、指示をするという係長の役割の難しさと重要性を痛感しました。また、西日本豪雨での留置車両の検査修繕では架線の停電が必要など、他の系統と連携して行わなければできない作業もありました。これらの経験を次の場面で活かさなければなりませんし、これからもたくさん経験を積んで最適な判断を下せるようになりたいです」。

明確なビジョンを持つことでさらなる成長を

今後の目標を聞くと、「働きやすい職場づくり」を挙げた。千葉の言う「働きやすさ」とは、自信を持って仕事に取り組める環境だ。「私は今も昔も人と環境に恵まれ、いろいろなことを現場で丁寧に教わってきました。そのおかげで自信を持って仕事をすることができていると感じています。自信を持つということが仕事の楽しさにもつながっていくと思いますし、とても大切なことだと考えています」。

そして自身の20年間の会社人生を振り返り、後輩への言葉と自身の決意で締めくくった。「今は車両も環境も変わり、昔と同じやり方を完全に模倣することはベストではないと思います。一方で、昔から変わらずに必要とされる技術や考え方も必ずあるとも思っています。この20年でも変化の速さを感じますし、これからも目まぐるしく物事が変化していくはずです。その中で『自分はこれなら負けない』という強みを見つけることができれば、変化が激しい時代でも自信と仕事の楽しさ、自分の存在価値を感じて働くことができると思います。それが自分の『こうなりたい』という将来像にもつながると思います」。

影響を受けた言葉「後確認の大切さ」

先輩から言われ続けた言葉で、最近でも思い出すことがあります。後確認とは、文字通り作業の後に機器類やスイッチなどが正常かどうかを確認することで、それができていないがゆえに失敗をしたことがありました。227系はD-TASに対応するため、信号機の位置や曲線、分岐器の位置と制限速度の情報を保有するデータベースを搭載しています。ある時、落雷でD-TAS機器に不具合が起きた可能性があったため予備機に交換をしました。ところが、予備機のデータを最新のものに更新していなかったため設計通りの機能を発揮することができず、列車が止まってしまう事象がありました。それまで経験がない事象だったとはいえ、機器を交換した後に更新状況を確認すれば防げていたと思います。同じ失敗を繰り返さないよう、何を後確認すべきなのかを誰が見ても分かるようにリストを作るなどして再発防止を図るようにしています。

バックナンバー検索

カテゴリー

ローカルナビゲーションをとばしてフッターへ

鉄道事業
(安全の取り組み)