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輝く匠

安全・安心を支える技術(第37回)

鳥取駅 奥本 洋一 専門主任

昭和52年国鉄入社。最初の配属は湖山駅で、智頭駅、用瀬駅、郡家駅、西明石駅を経て、平成4年に鳥取駅に配属される。平成20年4月に専門主任となり、現在に至る。駅営業の専門主任だが、駅輸送も経験し、その卓越した知識と温厚な人柄で営業と輸送、若手とベテランの架け橋となっている。
 

「専門主任が誤った対応をしてしまうと、士気が下がり、周りが不安になります。だからこそ私は駅社員の模範とならなければならないと思っています。言い換えれば、専門主任であることが、私のモチベーションでもあるのです」。こう語るのは鳥取鉄道部の駅営業でただ一人の専門主任、奥本だ。「背中を見せて育てる」が信条の奥本は、いっときたりとも手を抜くことはない。今月はいつまでも情熱を失わず、次代を育て続ける匠を追った。

相談されるうれしさと葛藤

現在は駅営業のスペシャリストとして鳥取駅で働く奥本。出札、改札といった駅業務のほか、勉強会など、若手の育成にも精力的に取り組んでいる。豊富な知識と経験から絶大な信頼が寄せられる奥本のところには、自分の取り扱いが正しいのか社員が確認しに来ることがしばしばある。相談を受けるたびに奥本は頼られるうれしさを感じる反面、「私に甘えてはいないだろうか」と葛藤を覚える。こう思う理由は、奥本には周囲のサポートが得られない状況下でも、自らの力で困難を乗り越えてきた経験があるからだ。過去に奥本は、人数規模が小さく一人勤務の時間帯が発生する駅や、智頭急行開業を控えた鳥取駅で、駅輸送として働いたことがある。「やるしかない」と、とにかく必死で仕事を覚えた。昔と今とでは時代も違うため自分と比較することは正しくないかもしれないが、若手にはもっと必死になってほしいと思ってしまうことがある。

自分で判断できる社員に育ってほしい

奥本は若手を教育する時、自分で考えることができる人に育てることを意識している。例えば毎月行う勉強会では、若手が講師となって教えるコーナーを設け、講義に向けての自学自習を促すとともに自信を持たせるように工夫している。また、若手とは日常的に会話をし、自分の経験を伝えて判断力を養えるよう心掛けている。奥本が育成に力を入れる理由は、社員が知識を身に付け、経験を積むことで、質の高いサービスを提供してほしいためだ。一方、駅の実情に目を向けると、新入社員や異動が多く組織の代謝が激しい。その環境下でもサービスレベルを維持、向上させるため、自身が先頭になって教育するだけでなく、奥本の後継者が若手社員を育て、いずれその若手が次の世代を育てる…という、育成サイクルの構築に尽力している。「知識は自分で身に付けるもの。私は判断力の基になる経験を伝えています。最近の社員は、マニュアルを覚えることに終始してしまっている気がします。しかし駅営業においては係員の判断に一定の裁量が与えられています。お客様のご事情をしっかりとうかがい、真の意味で最善の判断ができるようになってほしいです」と、社員の自立を促す。

社員の成長を信じ続ける

最近になって、うれしい出来事があった。これまでは聞く一方であった社員が、「この場合は?」と、聞き返すようになってきたのだ。それは自分でさまざまなケースを想定して経験を積もうという姿勢の表れに他ならない。社員の成長を実感した時、奥本はこの上ない幸せに包まれる。「育てる立場の私たちは、育てることを諦めてはいけません。いつか必ず社員は応えてくれます」と、奥本は社員の成長を信じる。

鳥取駅は第三セクターである智頭急行と若桜鉄道の列車が乗り入れているため、制度上複雑な知識が求められる。そのため奥本は配属されたばかりの社員に「ここで一人前になれば、どこでもやっていける」と激励する。専門主任となって9年目、社員と職場を成長させたいという思いは強くなるばかりだ。「自らの存在が社員の甘える原因になっているのではないか」と自問する日もあるが、日々成長する社員、奥本の教えを受けて鳥取駅を巣立った後も笑顔であいさつしてくれる社員を見ると、「自分にしかできないことをしよう」と決意を新たにする。惜しみない愛情と情熱を注ぐベテランとそれに応える若手が、今日もお客様を笑顔で出迎える。

  • 勉強会で講師役になる若手に寄り添い、ともに講義内容の準備を行う。
  • 改札でお客様を温かく出迎える。その姿勢は、確実に次の世代へ引き継がれている。

未来の匠

梔i 一浩

奥本主任は、駅営業の深い知識と豊富な経験に基づいた判断力で、若手の指導と職場全体のレベルアップに日々尽力されています。特に異常時やトラブル発生時の判断は的確で、どうしても取り扱いに迷った時は奥本主任に聞くと、丁寧に親切に指導してくださいます。
奥本主任にはよく「しっかり確認しろ、よく考えろ」と言われます。私はこれから職場を支えていく中堅社員として機器やマニュアルばかりに頼るのではなく、何か確認漏れはないか、どうすれば良いのかを常に考え実践していきます。そしていつかは奥本主任を超えられるように考動していきたいと思います。

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