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広島駅を“語る” Vol.11 劇場≠フようなエンターテインメント性と広島の自然美にあふれる空間に人が集う!

  • Sequence Studio inc.(シークエンススタジオ)
    代表・建築家 前田大輔さん
    大分大学大学院工学研究科を修了後、SUPPOSE DESIGN OFFICE CO.,Ltd(広島市)や(株)村田相互設計(広島市)を経て2024年7月にSequence Studio incを設立。新しい広島駅ビルプロジェクトとしては、SUPPOSE DESIGN OFFICE CO.,Ltd在籍時に担当者となり、中央空間や屋上空間のデザインを監修。

目次

自然を取り入れたデザイン・空間設計力を培い、生かす

まずはSequence Studio incを設立される前のことについてお伺いします。お勤めだった2社はデザイン・設計の会社でしたが、そこで得られたことや、今に生かされていることをお聞かせください。

前田:SUPPOSE DESIGN OFFICE CO.,Ltd(以下サポーズ)時代は、空間の作り方やデザインのことはもちろんのことですが、設計・デザインをするには運営や企画をする人やプロジェクトの管理をする人、設計する人、工事の管理をする人、施工する職人さんなど複数の人が関わるため、一つのチームとして考え方やアイデアを共有し、同じ方向を向いていくことの大切さを学びました。サポーズには多いときで40人ぐらいのデザイナーがいて、管理建築士という立場で全ての建築設計の図面チェックを行っていて、その品質管理をしていたことも今に生かされていると思います。村田相互設計では公共事業のデザイン・設計を学び、サポーズに戻った際は、そのときの公共建築の設計経験を生かして図書館(山口県柳井市・みどりが丘図書館)のデザイン・設計を担当しました。

図書館を拝見しましたが、美術館のような、オシャレな書店のような雰囲気でとても素敵でした。ブライダル施設も手掛けていらっしゃいましたね。

前田:公園に囲まれているような図書館にしませんか?とご提案し、歩いていると森の中を散策している気持ちになれる図書館を造りました。日本の公共建築は白い建物が多い印象ですが、わざと暗いインテリアと柔らかい光の組み合わせで落ち着いた雰囲気にし、誰もが安心して本を集中して読めることを意識しながらデザインしました。結婚式場(広島市南区宇品)は、「ラグジュアリーリゾート」をテーマにご依頼をいただき、宇品に残る自然の森や海を生かした建物にしています。
いずれも、「その場所」や「そこに関わる人々」じゃないとできないものをどのように造るのか、関係者とコミュニケーションを取りながら考えを共有し、実現することを身に付けることができたように思います。

「広島らしさ」の提案が求められた新しい広島駅ビルプロジェクトへの参加

サポーズに在籍されていたときに新しい広島駅ビルプロジェクトの話があったそうですが、いつごろから関わっていらっしゃいますか。

前田:サポーズの代表で私の師匠でもある谷尻誠さんが、さまざまな業界で活躍する人を招いてトークセッションする「THINK」というイベントを行っていたのですが、それをご覧になった新しい広島駅ビルプロジェクトの関係者の方が「この事務所は面白い」と思われたそうです。ちょうどそのころ、プロジェクトの草案が作成され、基本設計にもっと「広島らしさ」を加えたいという話が挙がっていたそうで、2019年春、サポーズにお声がけいただきました。私自身もやりたいと思っていたところ担当に選ばれ、提案内容も認めていただき、そこから関わっています。

どのような提案をされたのでしょうか。

前田:@広島を表現する、A人の居場所を生み出すときに人工的空間にするのではなく地形を意識してデザインする、B自然現象の美しいシーンをモチーフに取り入れるという3つのコンセプトを元に提案しました。広島は川の街、その川の美しさを伝えることが広島を表現することになると思い、水の都とも言われている広島の美しい風景が伝わるような空間を造ることを目指しました。

「広島らしい」空間になりそうですね。

前田:広島らしさを面白い感じに表現できていると思います。また、ビル内に路面電車が入ってきて、ショッピングモールに囲まれるという特徴的なコンテンツなので、どのようにして賑わいを生み出すかということも課題でした。そこで3階に広島の川沿いにある雁木のようなテラスを設け、人が滞留し、ゆっくりできる場所を提案しました。ビル内でテイクアウトしたコーヒーなどを飲みながら路面電車を眺めたり、おしゃべりしたり。そんな場所を設けることが、広島らしさに繋がるんじゃないかと思っています。

企画を提案したとき、プロジェクトメンバーの反応はいかがでしたか。

前田:反応はとても面白かったです(笑)。というのも「屋上に行きたくなるような仕掛けがほしい」というご要望もいただいていたので、実は最初に「屋上に山を造りませんか」って提案したんですよ(笑)。屋上庭園があるだけなど少しの仕掛けではなかなか屋上に行かないですが、駅前通りから路面電車が入ってくる様子が見えるという、かなり特徴的な場所なので、それらが見渡せる眺めの良い山のようなものがあると人が行きたくなるだとろうし、面白いなと思って提案しました。結果、山ではなくなりましたが、山のような大きな階段を造ることになりました。

イメージパースでも屋上の大階段は印象的でしたが、そのような背景があったんですね。たくさん人が集まる場になりそうですね。

前田:例えばローマのスペイン階段は同じような役割を果たしていて、階段自体が人が集まる場所になったり、物語の一部のようになったり、そんな「劇場感」のある場所になっています。屋上の大階段の前でイベントを開いたら観客席にもなる。ライブなどで賑わっているのが見えると「あそこで面白いことをやっていそう」と人を引き付けるきっかけにもなる。それに、走る路面電車を背景にしたステージって、めちゃくちゃカッコイイなと。それこそ広島らしい風景でもあり、魅力になると思います。

「やまなみ」「しまなみ」に桜や紅葉、イベント満載の屋上広場

今お話に出た屋上(7〜9階)と2・3・4階を担当されたと伺いました。どのようなコンセプトでデザイン・設計されましたか。

前田:屋上は人が集まる場所であり、ホテルグランヴィア広島サウスゲートのフロントとも繋がっています。地元の方の日常使いと、旅行や出張でホテルに泊まる方も想定した、両方の方が楽しめる空間を作りたいという思いがありました。
9階は真ん中に人工芝の大きな広場があり、マルシェやキッチンカーなどのイベントが行われる予定。ただ囲むだけではフラットで単調になり、遠くで何が起こっているか見えなくなってしまうため、一部を丘状に傾斜させています。コンセプトの中の「地形を生かした造り」がそれで、高い所や低い所といった多様な視点場(ビューポイント)ができ、劇場のように高低差があることで視界が開けて周りが見えやすくなるため、「向こうでは何か面白そうなことをしている」というのが相互にわかるようになります。緑に囲まれたテラスにして、休憩すると「落ち着く居場所」になり、周りの出来事が見える「楽しさ」もある。その両方があることが賑わいに繋がるだろうなと。「地形」としては、東側に向かって上がっていくようになっていますが、その先には黄金山などの山なみが見えます。広島らしい風景「やまなみ」「しまなみ」の多島美の風景と屋上が繋がるようにしたいという思いでデザインしました。

大階段がある7、8階はどのような空間になりますか。

前田:大階段を造らずフラットなスペースにすることもできたのですが、路面電車が見えるこんなにいい視点場のある場所をフラットにするのはもったいないなと。みんなで路面電車や駅前通りを見ることができたら楽しいだろうし、「写真を撮りたい」と思えるような場所にすることで人が集まると思います。それから、広島駅北側にある二葉山などの山へと連続する山を作るイメージで大階段を設けました。空へのスカイライン、山に溶け込むように感じていただけたらいいですね。
大階段の両サイドには桜を植えます。広島の川沿いの桜のある風景と繋げたくて、桜を提案しました。新しいお花見スポットになるといいなと思っています。桜の緑が駅前通りまで連続するように見えるのが望ましいので、これから駅前通りの環境づくりにも地元の設計事務所、デザイナーとして働きかけていくつもりです。というのも今、駅前周辺のデザインにも関わらせていただいているため、広島駅周辺が公園のようになり、駅前通りも公園の中にいるような気持ちになる快適な歩行者空間を作っていきましょうということを広島市やJR西日本、広島電鉄と話し合いながら進めています。

広島駅周辺が公園のような雰囲気になるというデザインはいいですね!

前田:ランドスケープデザインの専門の方と一緒に取り組んでいます。豊かな緑があってベンチがある、それだけで気持ちよくなり人が集まる。そんな居心地がいい場所になるよう、話し合いを進めています。

7階はホテルグランヴィア広島サウスゲートのフロントと繋がっていますが、どのような空間になりますか。

前田:ホテルの入り口の近くに出雲大社の分祠を設けることが決まっていまして、参道のデザインも任されました。ホテルから見ても気持ちの良い庭園のデザインにするため、あえて鳥居などは設けずに、紅葉のトンネルで鳥居の代わりになるような参道を造るようにしました。秋になると紅葉の赤いトンネルができ印象的な場所になって、人気の場所になってくれるといいなと思います。参道の周りにはベンチがあって、それ以外の季節も多様な緑あふれた気持ちの良い場所になります。

春は桜、秋は紅葉が楽しめますね。大階段も雁木をイメージされていますか。

前田:私はあの大階段を山だと思っていますが、プロジェクトが進んでいくうちに、プロジェクトメンバーの方が3階の雁木テラスと結びつけて「トップオブ雁木」とおっしゃってて(笑)、正式名称がまだ決まっていないのでいろいろな呼び方がされています。

出雲大社の分祠以外で工夫された点はありますか。

前田:イベントなども行いやすいように、ホテルのフロント前のスペースはかなり余白のある造りにしています。それでも7階から9階まで緑を連続させた方が気持ちが良いと思うので、ベンチと緑のあるファニチャーを配置してはどうですか?と提案しています。利用の仕方は中国SC開発さんで検討されているところです。出張などで広島に来られた方に興味を持っていただけるようなイベントなどができるといいですね。

広島駅北側にあるエキキタパークでは、屋上の活用を探るためのさまざまな催しが行われました。この事業を担当した中国SC開発とはどのように話し合われましたか。

前田:中国SC開発とは初期のころから何度もコミュニケーションを取りました。フットサルコートの広さを決め、さらにフットサルコートのみならず、他のイベントにも使えるように工夫しています。駅ビルには映画館も入るので、7〜9階の屋上広場が待ち合わせの場所になったり、ホテルのレストランで食事をしたり、周囲と連動できる感じにしたいですね。フットサルコートでは子どものサッカー教室が行われると聞いています。送迎に来た保護者が大階段に座り、広島の風景を眺めながら待つ…みたいなシーンもあると良いですね。

アイデアは街の中にある!広島の美しい風景をデザインに投影

2階の中央空間はどのようなコンセプトでデザイン・設計されましたか。

前田:全体が白い空間というのは決まっていました。その中で@賑わいを作ってほしい、A平和都市・広島が感じられるような空間デザインを、というご依頼をいただきました。広島らしさということで、先ほど話した「川」をモチーフとして、広島の美しい風景を投影できないかと考えました。壁面は板の形状と組み合わせ方を工夫して川のゆらめきを、天井はキラキラ光る水面を感じられるデザインとしています。天井には人や電車も映り込むので、例えばカープの試合がある日は真っ赤に染まるかもしれませんね(笑)。

広島には多くのスポーツチームがあります。どんな色が生み出されるのか楽しみですね。また、2階は南からの陽光が差し込みます。そのあたりは意識されましたか。

前田:それが全てなんじゃないかと思うほど、陽光との関係を大事にしてデザインするように心がけました。光を受けたときの陰影を考慮し刻々と変わるように、壁面は部分的に光が反射してキラキラする仕掛けにしています。実際に現場に行って見てきましたが、光の入り方で表情が変わるので、楽しい感じになりそうです。また、平和都市・広島の祈りも意識して柔らかい光に包まれた雰囲気に仕上げ、祈りの崇高なイメージと日常感が溶け合う空間になると思います。

中国SC開発の事前調査で、休憩できる場所を求める声も多かったと聞きます。3階の雁木テラスなどはそこを考えて設けられたのでしょうか。

前田:今までの駅というと人が通るだけの通行機能を重視していたと思いますが、最近は居心地のいい場所にしていこうという流れになっていると思います。それをどうやって広島らしくするか。そこで誕生した雁木テラスは面白い仕掛けになると思います。雁木テラスに座って路面電車や行き交う人々を眺めていると、劇場で演劇を見ているような感覚になるかもしれません。

オススメスポットはありますか。

前田:楽しいのは、3階の東西にある雁木テラスを繋ぐブリッジだと思います。天井がキラキラしていて、下には路面電車が出入りし、駅前通りからその奥の稲荷町交差点の電停まで見渡すことができ、感動ものです。屋上からの視点を含め、高い視点、低い視点の両方を合わせて見るとかなり楽しめるのではないでしょうか。

路面電車が出入りするということで、広島電鉄とはどのようなことを話し合われましたか。

前田:毎月1回、広島電鉄、広島市、JR西日本の3社によるデザインを議論する会が設けられていて、私もその会に参加しています。せっかく路面電車が出入りするので、路面電車がよく見えるような造りにしました。先ほど、壁面がキラキラする仕掛けにしたと話しましたが、実は私、路面電車のレールがキラキラする広島の風景がキレイだなと思っていて、それがヒントになったんです。夜中にレールがキラッと光っているのがカッコイイなと。それを壁面デザインに生かして変化を持たせました。

そういえば、広島の街を歩いてアイデアを得られることがあるそうですね。

前田:職業柄だと思いますが、キレイな風景などを何が構成しているかを心にとどめるようにしています。新しい広島駅ビルのデザインを担当することになり、かなり意識するようになりました。通勤は自転車で川沿いを通るのですが、そのときに「広島の川にはどんな表情がある?」と考えながら走ったり。そこから自分が知っている広島の穏やかな川の風景をイメージしながら、壁面のゆらめきや天井のキラキラを作る形やパターンを決めていきました。

世界中の人から憧れられるような新しい広島駅ビルと街づくりに関わる幸せ

大きなプロジェクトで皆さんの意見をデザインに落とし込んでいくのは大変だったのでは?

前田:いろいろな意見が出て議論を交わしましたが、熱意のある方が集まり、新しい広島駅ビルを良いものにしたいという同じ目標に向けて歩んでいるので、その感覚や思いを共有できたことはとても素晴らしいことだったと思います。さまざまな指摘や課題も出てきますが、その度に前の案を乗り越えた、より良いと思える改善案を提案し、粘り強くデザインしていきました。最初に思い描いたコンセプトがずれなければ、形は変わってもいい。常に柔軟な考えを持ち、改善しながら良いものを造るという感じで進めています。大変だったことはたくさんありますが、天井のことが印象に残っています。元々は一枚の大きな水鏡のようなものを提案していましたが、コスト面や施工性など難しい点がいくつかあり、結構悩み苦しんで生み出したのが、キラキラする天井です。当初の案から変更する形になりましたが、その結果、思い描いていたよりもよい表情の天井になったと思います。意見をいただいて、その中でできることを探す、そこから新しい方法が生み出せるのかなと。

ご出身は長崎県ですが、広島に来られて20年以上と伺いました。建築士の立場から見て、広島駅の移り変わりをどのようにご覧になりますか。

前田:昔は車などのモビリティー機能を優先した街の構造でしたが、今は人間らしい暮らしや居心地の良い場所の作りを取り入れたデザインへと変化が見られ、時代が大きく変わっていると感じます。今回も歩行者空間を人の単純な通路としてではなく、賑わいや居心地の良い場所がある、人が中心≠フ新しい広島駅ビルや街づくりになっているのではないでしょうか。

どんな広島駅ビルになってほしいですか。

前田:まずはみんなの人気スポットになってほしいですね。そういうみんなが惹きつけられる魅力的な場所になっていくと、広島自体の魅力が上がっていくと思います。そして世界中の人から憧れられるようなスポットになってほしいですし、そんな新しい広島駅ビルと街づくりに関わっていけることはとても幸せな事だと思っています。

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