10月定例社長会見
まず簡単に、上半期の振り返りをいたします。今年度は「中期経営計画2017」、「安全考動計画2017」をスタートさせました。春先は地震、夏は猛暑と豪雨、台風と災害の多い半年でした。ご利用のお客様にも大変ご迷惑をおかけしましたが、安全をしっかりと確保しながら、お客様にご迷惑をおかけしないために、地震の際の運転規制のあり方や安全確認の手続きを一部見直しました。
それから一点、ご報告をさせていただきます。9月30日未明、大阪府吹田市の東海道線支線にある上神崎川橋梁において保守作業に携わっていた協力会社の作業員の方が川に転落し、お亡くなりになられました。尊い命が失われたことは痛恨の極みです。「安全考動計画2017」の到達目標のなかで、「死亡に至る鉄道労災ゼロ」を掲げていましたが、残念ながら達成できない状況になりました。あらためて、この目標が高いハードルであるとともに、ぜひ達成しなければならないものであることを痛感しました。これからの4年半、具体的なアクションやプロセスを充実させていき、継続して取り組みを進めてまいります。平成25年9月30日の尊い犠牲を除き、その他の目標については、全て達成できたと宣言できるよう、全員でしっかり取り組んでまいりたいと考えております。
1 最近の営業・輸送状況
(1) 運輸取扱収入の状況
上期の運輸取扱収入は前年比 102.2%、券種別では、近距離券 104.4%、中長距離券 102.2%、定期券 100.3%でした。定期券については、9月30日が月曜日、10月1日が火曜日ということで、購入時期が9月にずれ込んだのではないかと見ております。
対象期間 | 収入計 | 近距離券 | 中長距離券 | 定期券 |
---|---|---|---|---|
上期 | 102.2% | 104.4% | 102.2% | 100.3% |
9月 | 104.4% | 105.5% | 103.8% | 104.7% |
10月(14日まで) | 99.8% | 104.2% | 101.8% | 94.9% |
※注釈 駅などでの取扱高を示します。
※注釈 直営の速報値です。
(2) 新幹線・在来線特急・アーバンネットワークのご利用状況
上期のご利用状況については、新幹線が 前年比102%、在来線特急が 101%、アーバンネットワーク102%でした。4月、5月は少し悪く、夏には豪雨の影響などもありましたが、8月以降は堅調に推移したのではないかと考えております。
対象期間 | 新幹線 | 在来線特急 | アーバンネットワーク |
上期 | 102% | 101% | 102% |
9月 | 106% | 101% | 103% |
10月(14日まで) | 101% | 101% | 102% |
※注釈 10月の数値は速報値です。
(3)ICOCA10周年の取り組み
平成15年11月にサービスを開始したICOCAが11月1日で10周年を迎えます。おかげさまで多くのお客様にご利用いただいておりますが、一層のご利用拡大に向けて、10周年キャンペーンを実施しています。これまでも、「スマートICOCAポイントキャンペーン」を7月から実施しておりますし、「ポケモンICOCA」の発売についてもすでに発表しておりますが、11月からは券面デザインを変更いたします。
ICOCAを含むICカードのご利用者数は、昨年度が1日当たり190万人で、今年度の目標を200万人としておりましたが、9月までにこれを大幅に超える205万人のペースで推移しており、9月のIC利用率も定期・定期外あわせて昨年に比べて3ポイントアップの64%となっています。
また、11月1日から大阪環状線にてICOCAのデザインを施した列車を運行いたします。車両にカモノハシのイコちゃんなどを描いた温かみのあるかわいらしいデザインで、車内の中吊りなどもICOCA関連のポスターなどでジャックします。車内でも多くのお客さまに興味を持っていただければと考えております。
今年は交通系ICカードの全国相互利用がスタートした年です。現在、関西の私鉄各社とも連携して、各社を乗り継いでの観光のご案内も行っていますが、ICカードの利便性をご理解いただき、ICカード利用がさらに活発化するよう、努力してまいります。
2 山陰線・山口線の一部区間運転再開の見込みなど
7月28日および8月24日の豪雨において、山陰線、山口線、三江線の一部区間におきまして、橋りょうが流されるなど大きな被害が出ており、現在も不通となっています。
これまでの運転再開の経緯をご説明しますと、山口線では、7月29日に新山口〜宮野駅間、8月5日に宮野〜地福駅間を復旧しました。山陰線については、8月4日に長門市〜奈古駅間、8月25日に出雲市〜江津駅間、8月27日に浜田〜益田駅間、さらに9月25日に江津〜浜田駅間を復旧しました。三江線については、9月1日に三次〜浜原駅間を復旧しました。
このたび、山陰線・山口線でさらに一部区間の運転を再開します。山陰線については、益田〜須佐駅間で11月9日(土曜日)の始発列車から運転を再開します。これに伴い、バス代行の区間を須佐〜奈古駅間に変更します。
また、山口線については、津和野〜益田駅間を11月16日(土曜日)の始発から運転再開し、バス代行区間を地福〜津和野駅間に変更します。山口線の場合は、信号機やポイントを制御するCTCケーブルが橋梁の流失などにより寸断されておりますが、他の線区に敷設している既存ケーブルを迂回して遠隔制御を行います。
さらに、SLの新山口〜地福駅間での運転再開を考えております。SLは、地元の皆様方、山口県、島根県ともに津和野観光のシンボル的存在として捉えていただいており、かねてより山口県知事をはじめとして運転再開に向けた強いご要望をいただいておりました。これらのご要望を踏まえ、技術的な課題について検討した結果、一部区間である新山口〜地福駅間でのSL運転を再開することといたしました。
11月2日と3日には、「SLがんばろう山口・津和野」号を、12月21日には「SLクリスマス」号を、平成26年1月1日から3日までは「SL津和野稲成」号を運転します。地福〜津和野駅間は現在、代行バスが運行されておりますが、地元にご用意いただく無料の観光アクセスバスなどでSLと津和野駅を接続します。ただし、転車台が津和野駅にしかありませんので、運転は新山口駅から地福駅へ向けての片道だけとなり、復路は回送列車となります。
SLの運転に加えて、津和野をはじめとする山口線沿線のご旅行をさらに促進することを目的に、中国JRバスが新たに新山口〜津和野駅間を直通ノンストップで運行するバス路線を津和野行き3便、新山口行き4便設定する予定です。
今回のSLの一部運転再開や直通バス路線の開設でお客様に選択肢を広げていただき、当社も一層のPRおよび送客に努めることにより、できる限り多くの方にお越しいただけるよう応援させていただきたいと考えています。ぜひ関西からのご利用をお願いいたします。
今後は、現在検討中の豪華寝台列車や観光列車を組み合わせ、地元のご協力もいただきながら山口県内全体の観光ルートの整備、さらには面的な観光の活性化に向けて、当社としても取り組んでいきたいと考えています。
残る不通区間の山陰線の須佐〜奈古駅間、山口線の地福〜津和野駅間、三江線の浜原〜江津駅間の3区間につきましては、山口県・島根県をはじめとした自治体の皆様のご協力をいただきながら、運転再開に向け全力で取り組んでいきたいと考えております。
3 「Think-and-Act Training」の取り組み
これまで、異常時対応能力の向上としてマニュアルやチェックリストの整備などを進めてきました。その中で、東日本大震災が発生し、その後、当社も多くの取り組みを実施してきました。これまでご紹介してまいりましたが、耐震工事の追加や津波対策工事の実施、運転士と車掌に現地での判断を任せることを定めたマニュアルである「津波避難誘導心得」の制定、飲料や食料の備蓄、あるいは津波避難訓練や帰宅困難者対応訓練などを行ってきました。こうした訓練を行う中で、社員からの提案を受け、携帯電話を利用した誘導が可能な避難誘導アプリを作成し、配布いたしました。
さらに、乗務員が現地で判断し行動することの重要性も改めて認識しました。いざという時には、現地の乗務員による判断が重要であることから、会社が責任を持つことを前提に、乗務員に判断を任せるようマニュアルを変更しましたが、これは乗務員が訓練を受けて判断能力が高まっていることが前提となります。また、乗務員からの声もあり、この度、安全研究所の知見を借りて、「Think-and-Act Training」という訓練が完成しました。
今回は地震・津波をテーマとして全乗務員への訓練を行っております。8月まで試行で、9月1日から全乗務員区所で訓練を行っているところです。
訓練の目的は、大規模な自然災害などが発生した場合に、マニュアルだけでは対応できないため、必要な情報を乗務員が自ら取り、集まった情報をもとに最善の判断ができるようにすることです。状況に応じた柔軟で最適な行動が取れるように、ということで、乗務員も訓練に関心を持っており、一緒に取り組もうということで始まりました。安全考動計画2017にも「緊急事態に直面した際の人命最優先の考動をより確実に行えるように訓練を行う」ことを掲げておりますので、これにも基づいた訓練です。
一般的に、図上シミュレーション訓練と呼ばれる訓練を基にしており、これまで体験したことがないような緊急事態に直面し、刻々と状況が変化する中で、必要な情報を集め、状況把握をした上で、乗務員が協力してより安全な行動を判断していく、場合によってはお客様のご協力も仰ぐというものです。
安全研究所の知見を取り入れた体験型トレーニングということで、全乗務員に訓練しているところです。
新幹線、在来線含め全ての運転士、車掌と乗務員区長の8500名に対し、3カ月間で一通りの訓練を実施することとしています。
心得やマニュアルに加え、実践的な訓練を求める乗務員の声に応えた訓練ですが、これは航空業界で取り入れられている「クルーリソースマネジメント(CRM)訓練」に安全研究所の研究成果を加えて作ったものです。訓練では、「コントローラー」という、乗務員の情報収集や状況判断が十分かどうかを都度把握し、是正する役割がおります。例えば、乗務員が5分から10分間で状況判断を行わなければならない状況でも、列車の前進・後退などの判断や、お客様に列車を降りていただく場所の判断などをする際に、状況把握が十分かどうかをチェックされ、不十分であれば是正しなければならないので、結果として30分、40分が経過し、後がない状況での判断を迫られる、といった状況となります。
訓練を終えた乗務員からは、「いざという場合にパニックにならずに落ち着いて行動できるか考えさせられた」、「情報収集や状況把握の重要性を認識した」、あるいは「お体の不自由なお客様や体調を崩されるお客様、さまざまな年齢層のお客様がいらっしゃるので、乗務員だけではなくお客様にもご協力いただく必要性を感じた」など、色々な声がありました。
今回は第一段階として、地震・津波を題材に訓練を行っておりますが、今後は別の緊急事態も想定しながら繰り返し訓練を行う予定です。乗務員や社内外の皆様の知見をいただきながら、レベルを上げていきたいと考えております。