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広島駅を“語る” Vol.01 人や時間もつなぎ、一日中ゆっくり楽しく過ごせる場に

  • 伊豫田 裕 大阪工事事務所広島駅ビル工事所長
    JR西日本入社後、西日本管内の駅などの建築工事や各種プロジェクトの企画立案、設計、協議、施工監理等まで幅広く携わる。広島関連では、広島駅橋上化工事、新白島駅建設プロジェクト、可部線電化延伸事業などにも関わる。

目次

駅ビルの2階に路面電車が乗り込んでくる構造は全国でも初めて

まずは広島駅の開発プロジェクトがスタートした経緯から教えてください。

伊豫田:広島市はここ20年ほど、コンパクトシティ化を目指し、公共交通の利便性向上や広島駅周辺の都心化を促進してきました。JR西日本でも、広島エリアの鉄道網を便利で快適にする取り組みを始め、「駅からはじまるまちづくり」を進めています。そのなかで広島駅北側の開発に合わせ、駅の改良工事が行われることになりました。

北側から改良されていったんですね。

伊豫田:一方、南側はバスや路面電車に関しても課題があったのですが、敷地の広さに限界があり、個別の施設の改良では解決できない状態だったんです。それらを解決するために、学識経験者らで構成する「広島駅南口広場再整備に係る基本方針検討委員会」による検討が始まって、2013年には大筋の方針が取りまとめられます。そして翌年、関係する広島市、広島電鉄、JR西日本の3者が一体となって改良を行うというプロジェクトの骨格が決まりました。南側に残された築50年を超えた駅ビル「ASSE(アッセ)」や、完成後30年以上経つ駅前広場を再整備するべく、2020年4月から駅ビルの建替え工事を進めています。

かなり大規模なプロジェクトですね。概要を教えてください。

伊豫田:駅ビルの建替えに合わせ、広島市や広島電鉄とともに、手狭だったバスや路面電車の乗り場を拡大し、路面電車の新しいルートを建設するなど、公共交通機関の利便性を高めることも狙っています。
これまで駅前広場にあった路面電車の広島駅が、新しい駅ビルの2階に正面から入り込む構造になるのが最大の特徴です。JRの在来線や新幹線の改札と距離が近くなるだけでなく、屋内で段差なくフラットにつながるため、利便性も快適性も大きく高まります。
同時にこれまで迂回して広島駅につながっていた路面電車のルートが真っ直ぐになり、道路の上を跨ぐ構造になるため、紙屋町・八丁堀などの中心市街地に出る時間が4分ほど短縮されます。

それは便利になりますね。駅ビルの2階に路面電車が乗り入れるというのは、これまで聞いたことがないのですが…。

伊豫田:駅ビルの中に入り込む形は、小倉駅のモノレールなどがそうですし、富山駅など駅下の1階を路面電車が抜けていく構造はあるのですが、2階に路面電車が乗り込んでくる駅は全国でもほかにありません。
新しい駅ビルは地上20階建てで、延べ床面積が11万uもの広さです。ショッピングセンターやシネコン、ホテルなどが入り、当社内では大阪駅や京都駅に次ぐ規模の駅ビルになります。また、バス乗り場も駅ビルの1階部分に拡大して整備し、駅と直結する予定です。

いろんな機能が一体化するんですね。

伊豫田:大きな吹き抜けで構成する2階の中央アトリウム空間には、階段状の「雁木(がんぎ)テラス」というスペースを設け、路面電車が入ってくる様子を座って眺められるようにもなります。雁木とは、雁の群れが斜めに並んで飛ぶ様子から名づけられた階段状の構造物のこと。広島の川でも、かつては船着き場として利用され、今でもまちの風景となっている雁木をモチーフにした、象徴的なスポットになってくれるでしょう。

「川」と「平和」を彷彿とさせるデザインで、広島のまちを象徴

駅にいながらにして、川を感じられるデザインになるんですね。

伊豫田:プロジェクト全体としてデザインコンセプトは大きく二つあり、その一つが「川」。市内には6本の川が流れているなど、広島は川との距離が近いまちです。それらの川は瀬戸内海の大きな干満差により、流れたり止まったり、鏡のようになったりと、呼吸をするように表情が変化します。
地元の方々にとっては当たり前でも、世界の方々に知って欲しい美しい風景なので、その様子を随所で感じられるようにしています。たとえばビルのタイルも、さまざまな色味のものを組み合わせ、太陽がキラキラ反射するようにします。中央アトリウム空間でも、ルーバーと言われる縦の格子も均等ではなくランダムに並べ、歩いていくと揺らぎながら奥が見えたり、太陽の光がランダムに反射してきたりと、水面(みなも)を感じるようなものにしています。

「川のまち」を印象づけることになりそうですね。もう一つのデザインコンセプトはなんでしょう。

伊豫田:もう一つは「平和」です。平和都市・広島を連想させる白をベースとし、平和への祈りを具象化した折り鶴から、「折り」という形をテーマにしています。紙を折ったような風合いを外壁のモチーフにしたり、天井を折りが連なったような形状にしたり、折り鶴を開いた折り目の形を床にデザインしたりと、駅ビルの至るところに取り入れました。
また、駅ビルだけでなく南北自由通路の整備や駅の改良工事も二つのコンセプトをもとに行ったので、駅全体で川と平和が感じられるデザインになっています。

広島を象徴する拠点になるわけですね。

伊豫田:駅の近くにはマツダスタジアムという広島カープの本拠地もありますし、駅前の再開発ビルとも歩行者デッキでつながっていきます。駅周辺の再開発地区では、さまざまな施設が建設されていて、オフィスビルやホテル、マンションやショッピングセンター、百貨店やスポーツ施設などもそろってきています。
さらには、駅ビルの屋上にもイベントができるスペースを設けるなど、集まったりくつろいだりできる場をいくつも設けることで、広島駅に来られた方が、映画やショッピング、スポーツ観戦などを楽しみつつ、ゆっくり時間を過ごしていただけるようになる計画です。

利便性や快適性を高め、賑やかだけどくつろげる笑顔いっぱいのまちに

今回のプロジェクトに対する、地域の皆さんの反応はいかがでしょう。

伊豫田:駅周辺にお住まいの方には、変化に対する不安もおありでしょうが、それよりも新しいものができる期待感をお寄せくださり、工事にも前向きにご協力いただけていると感じています。県内全域の方々からは、「駅ビルの2階に路面電車が入るなんて、考えただけでワクワクする!」といったお声もたくさん頂戴しています。

2023年9月の報道公開では、広島市の松井一實市長が電車博物館のようだと仰っていましたね。

伊豫田:広電さん(広島電鉄)の路面電車にはたくさん車種がありますので、駅に入ってくるところを眺めるだけでも楽しいと思いますよ。ホテルの上層階からは瀬戸内海が見渡せますので、その眺望が非常に楽しみだというお声もいただいています。「かつて駅ビルにあった映画館が復活するのもうれしい」と仰る方もいらっしゃいました。

いろんな楽しみ方ができるスポットになりますね。

伊豫田:県外の方には「広島に来た」と感じていただけるような建物やお店、そして空間を提供できると思います。広島市内に向かわれる方は、路面電車やバスの乗り換えが便利になり、中心市街地もグッと近くなります。新駅ビルにはいいお店がたくさん入りますので、これまで通過点にされることが多かった駅自体が目的地にもなりますし、地元の方も生活に彩りを加えていただけるはずです。
楽しく過ごせる施設にすることで、周辺エリアと物理的につながるというだけではなく、買い物や食事などの時間的な隙間をつなぎ、人と人とをもつなぐ場になると思います。

完成が期待されますね。今後のスケジュールや展開について教えてください。

伊豫田:工事は7割方、終わっていて、駅ビルは2025年の春にオープンし、あわせて路面電車の新ルートも開業する予定です。歩行者デッキも含めた改良は引き続き工事を行い、さらに2年ぐらいかけて駅前広場が完成することになりそうです。最終的には駅から200mほど歩いたところにある猿猴川(えんこうがわ)まで上空通路でつながる構想です。
駅ビルの広場や川辺でくつろいだり、観光客の方が記念撮影をする横で家族がお弁当を広げたり、恋人同士が愛を語る横で会社帰りのファンがカープ愛を飛ばし合ったりという、賑やかだけどくつろげる、笑顔いっぱいのまちになることを願っています。

感謝と笑顔、そして真意を大切にしながら、魂を吹き込んでいく

伊豫田所長が広島に関わり始めたのはいつからなのでしょう。

伊豫田:20年近く前、広島駅の改良工事を企画する初期の頃からですね。これまでに広島駅の隣に新白島駅という新しい駅をつくる工事や、可部線という路線の電化延伸という形で、線路を延ばして新しい駅をつくる事業などを手がけてきました。広島駅という大きな拠点駅に向かう環境を整えてきた中、今回の駅ビル開発プロジェクトと、それにつながる広島駅改良などにも、企画段階から携わっています。

プロジェクトを進めるうえで、心がけていることはありますか。

伊豫田:広島市や広島電鉄をはじめ、ビルを運営するグループ会社や工事に関わる設計会社、施工会社など、多くの人々が関わっているプロジェクトです。それぞれ立場は違いますが、「チーム広島駅ビル」として一丸となって進めていきたいというのが大きなスローガンです。
そこには二つのポイントがあり、一つは「感謝と笑顔」。1日あたり700人を超える工事関係者の方々の努力に支えられていることに日々、感謝しつつ笑顔でいることを大切にしています。笑顔でいられるのはいい仕事ができている証拠でもありますし、笑顔は伝播するとも思っていますからね。
もう一つは、「相手の真意をしっかり聞く」こと。落としどころとなる中間点を探るのではなく、意見のなかの本音の部分を聞きだして、より良い解決策に着地したいと常々考えています。

丁寧な話し合いが重要だと。

伊豫田:たとえば、さまざまな施設が入り混じる中央アトリウム空間をより良い場とするために、関係者が集まってデザインや設備などを決めている会議があるのですが、タイル一枚一枚や照明一つひとつの色味など、すべてが調和していくように、日が暮れてからみんなで集まって照明の色を決めるなど現物を見て議論を重ねることも多いです。
それぞれの立場や言い分があるのですが、それらを理解しながら、やはり最後には個人個人が言い分を通すのではなく、何が一番いいものになるかという知恵をみんなで出し合うことにこだわりをもって進めています。まさにプロジェクトに魂を吹き込んでいく作業だなと感じています。

利用される皆さんに喜んでいただきたいという想いは共通のものですからね。

伊豫田:各所との連携や地域とのつながりを通じて、我々自身が得られるものも大きいです。一昨年には、地元の小学生を招待した駅ビル工事見学会を行ったのですが、お子さんたちの屈託のない笑顔がとても印象的でした。まだ小学生なので行動が読めませんし、怪我をしないよう細心の注意と準備が必要でしたが、それらを乗り越えて喜んでもらえましたし、説明する若手社員のはつらつとした笑顔を見て、我々も成長させてもらっているなと実感できました。

それもまた素敵なつながりですね。最後に、今回のプロジェクトに対する想いを聞かせてください。

伊豫田:出身ではないのですが、私は広島というまちがとても好きです。東京や大阪とは違い、都会ながらコンパクトで自然が共存している環境がとてもいい。山も海も近く、食べ物もお酒もおいしいですし(笑)とても魅力的なまちです。10年ほど前に家族で住んでいましたけど、山ではスキー、とびしま海道では山盛りの刺身、近くの公園ではバーベキュー。その時の地元の友人とは今でも仲良しで、家族全員広島が大好きです。大好きなまちのプロジェクトに関われているのは、やはり非常にうれしいこと。訪れた方には駅に降り立った瞬間、広島・瀬戸内は良いところだと感じてもらいたいですし、地元の方々には、ますます広島を好きになってもらい、おこがましいですけど自慢したくなるようなまちになればうれしいです。