奥能登、珠洲市の「宝立七夕キリコまつり」。約100人の若衆で担ぐキリコは高さが約14m。能登最大クラスのキリコで、打ち上げ花火を合図に海に入り沖合いに設けられた松明の周りを巡る。

特集 灯り舞う半島 能登 〜熱狂のキリコ祭り〜 〈石川県七尾市・輪島市・珠洲市・志賀町・穴水町・能登町〉 神をいざなう能登の祭り

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さまざまに個性を競う能登のキリコ

 能登のキリコ祭りは、能登半島の中部以北に集中し、七尾市、志賀町[しかまち]がその南限だ。そんなキリコ祭りは地域によってそれぞれ趣向が違う。大きさ、豪華さ、優美さ、勇壮さ、機動性など、他の地区にはない個性を競い、どこも一番を自負している。

 種類は大きく分類すると、輪島市に残る子供用の「笹キリコ」、直方体で吉祥文字だけを墨書した「レンガク」、武者絵を競う「武者絵キリコ」、正面を提灯で飾った「提灯キリコ」、色とりどりの短冊を飾りつけた「短冊キリコ」。人形を飾り付けた「人形キリコ」。「額キリコ」は胴体上部の張りでた行灯が額のように見える。幟旗[のぼりばた]に厚みを持たせた形状の「旗キリコ」、御幣[ごへい]に厚みを持たせた「御幣キリコ」、朱塗りの高欄付の台がついた「高欄キリコ」…。キリコの数だけその種類も千差万別だ。

 そんな個性さまざまなキリコ祭りの中でも代表的な祭りを紹介すると、まず珠洲市宝立町の「宝立七夕[ほうりゅうたなばた]キリコまつり」だ。夜空に花火が打ち上げられるなか、吹き流しや風鈴で飾ったキリコを上半身裸の若衆が担いで海の中で激しく乱舞する。同じく珠洲市の「飯田町燈籠山[とろやま]祭り」は、燈籠の一番上には豪華絢爛な人形が掲げられ、青森の立佞武多[たちねぷた]の起源ともいわれる。

 穴水町の「沖波大漁祭り」は夜でなく日中に祭りのクライマックスを迎える。漁師町らしく海にキリコを担ぎ入れて暴れ回る。志賀町の「西海[さいかい]祭り」は珍しく女性が担ぎ手。そして和倉温泉に近い七尾市石崎町の「石崎奉燈祭[いっさきほうとうまつり]」は町内6地区の個性的なキリコが勇猛さを競って練り歩く。担ぐキリコとしては能登最大級である。

珠洲市の「飯田町燈籠山祭り」。灯籠山は青森の立佞武多のような山車。

穴水町の「沖波大漁祭り」。能登のキリコには珍しく、祭りのクライマックスは日中。若衆が胸まで海に浸かってキリコを暴れ回す。

志賀町の「西海祭り」。西海神社と松ケ下神社の祭礼で多くの女性が担ぎ手として参加。女性中心だが、祭りは男性顔負けに勇ましいとか。

和倉温泉に近い漁師町、七尾市石崎町の「石崎奉燈祭」。重量約2t、高さ13mの山車を100人で担ぐ。夜には勢揃いして練り回り、漁師町らしく豪快だ。

能登の風習、ヨバレ。祭りの日には特別に用意した料理でもてなす。親戚縁者のほか、他人までももてなす。
写真提供:「能登の里山里海」世界農業遺産活用実行委員会

石崎奉燈祭奉賛会の大松会長は、「石崎ではキリコでなく、あくまで神様に捧げる奉燈です。奉燈はまさにこの町の魂で、誇りです」と語る。

七尾北湾穴水町の夕景。波静かな入り江に浮かぶのはこの地方の伝統漁法である「ボラ待ちやぐら」。やぐらの上で仕掛けた網にボラが入るのを待って引き上げる。現在では使われていないが、その光景は能登の穏やかな風土に似合っている。

 ただし石崎ではあえてキリコと呼ばず、「奉燈」と呼ぶ。「神様に捧げる燈[あかり]だからね」と話すのは石崎奉燈祭奉賛会の大松[おおまつ]博一会長だ。重量2t、高さが13mもあるキリコを100人の漁師町の若衆が「サアーイヤサカサー、ソリャ」と威勢のいい掛け声とともに通りを激しく練り回り、迫力満点だ。

 打ち鳴らされる太鼓が腹の底に響く。笛、鉦の囃子が祭りを盛り上げる。夜の帳[とばり]が降りると奉燈に灯りがともり闇の中に奉燈が幻想的に浮かび上がる。周囲の見物客から「おーっ」と歓声がもれる。この日ばかりは、能登を離れた家族をはじめ、親戚縁者に知人友人までが一堂に揃う。祭りは人々を結ぶ絆だ。

 そんな客人たちを、特別のご馳走でもてなすのは女性たちだ。能登には「ヨバレ」という、祭りに育まれたもてなしの風習が根付いている。女性たちは祭りの裏方に徹してもてなす。ある女性は「嫁いで以来一度も祭りを見物したことがない」と話した。女性たちの献身が陰で祭りを支えているのだ。

 会長の大松さんは苦笑してつぶやいた。「奉燈祭は能登の生活の基準です。一番の誇り。でも伝統を継承していくのに、子供らが少なくなっていくのは、本当に悩ましい問題です」。母親の胎内で太鼓や囃子を覚え、物心がつくと法被をまとって祭りに参加する。五穀豊穣に豊漁祈願、自然を通じて信仰心が自然に育まれる。

 能登とはそんな土地だ。「能登は優しや土までも」という言葉がある。能登は土まで優しい、ましてや人はもっと優しい。伝統のキリコ祭りを通じて培われた人々の優しさもまた伝統かもしれない。七尾湾の入り江が夕日に染まっていく。なんと優し気な風景だろう。

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