鉄道に生きる

安田 隆晴 金沢支社 敦賀電気区 副区長

電車線技術の継承を使命に現場力育成に力を尽くす

現場では自身が培った技能、知識を惜しみなく伝授するという安田。指示するだけでなく、ともに取り組む指導スタイルが若手の成長を支える。

 鉄道の安全・安定輸送の要となる電気設備。安田は、多岐にわたる電気系統の中でも、列車に電気を供給する電車線設備の保守管理に長年携わってきた。培った自身の技術や知識を次世代へと繋ぎ、安全への思いを共有するため、安田は日々若手に寄り添いながら現場指導にあたる。

学びを活かし電気技術者の道を進む

電車線が規定の高さ・振れ幅に収まっているか、専用の測定装置を用いて検査を実施し、安定した集電性能の維持・管理に努める。

夜間作業時には若手と一緒に梯子を登り、架線上でのマンツーマン教育を実施。個々の能力向上を図る。

 安田は1980(昭和55)年、旧国鉄に入社した。まず配属された敦賀第一機関区は、当時、北陸本線の運行を支える車両検修の拠点。安田は気動車の全般(エンジンや足回り、運転台等)の制御にわたり、幅広い点検・整備業務に携わった。「昔はマニュアルもなく、手取り足取り教えてはもらえないため、先輩の作業を“見て覚える”ことに徹していました」と話す。先輩からは、正常な状態が当たり前ではなく、不具合が潜んでいる前提で調べなければならないという、検査・修繕に携わるプロとしての姿勢を教え込まれたそうだ。

 転機となったのは1987(昭和62)年。敦賀電力区(当時)へ異動になった安田は、学生時代に身につけた電気の知識・技術をもとに、鉄道電気設備の保全を担うことになる。その中でも、変電所から送られてきた電気をパンタグラフ※1を介して車両に供給する電車線設備を専門に、保守管理の現場で技術を磨いた。

※1 電車の屋根に取り付けられている集電装置

積み重ねた経験を若手育成の糧とする

鉄道輸送に欠かすことのできない電気が正常に配電されているかどうか、電灯電力設備の点検・検査は月1回実施している。

 安田の技術習得の場は、その後も新たな環境へと広がっていく。1995(平成7)年には設備工事を専門とする西日本電気システム※2に出向。昼間は工事の設計や費用積算について学び、夜間の作業現場では指揮をとった。「何もかもが勉強で刺激を受け、向上心も芽生えました。電車線技術をひたすらに磨いた時期でした」と振り返る。主任となってJR西日本に戻ったのは1999(平成11)年。さらに、5年後には草津電気区に助役として着任する。ここでは直流で走る京阪神からの新快速電車が敦賀駅まで延伸されるのを前に、長浜駅〜敦賀駅間、永原駅〜近江塩津駅間の交流区間を直流に切り替える大掛かりな事業に携わった。安田は徹底して事故防止に努め、切り替え工事当日は近江塩津駅構内の責任者として現場を指揮し、直流での送電開始を見届けた。

 数々の現場で培った経験をもとに、若手の技術指導にも取り組んだ。2008(平成20)年から出向した西日本電気テック※3滋賀メンテナンスセンターでは、主に検査業務の指導に従事し、それまでは行っていなかったトロリ線※4の張り替えや、可動ブラケット※5の取り替えといった一連の電車線工事も指導。事業の幅を広げるとともに、指揮者養成にも力を注いだ。「日々若手の成長を実感でき、やりがいがありました。現場でともに手を動かし、意見を交わしながら指導するという、私自身の育成スタイルの土台を築くことができました」。

※2 現 JR西日本電気システム株式会社 ※3 現 JR西日本電気テック株式会社 ※4 パンタグラフに電力を供給する電線 ※5 電柱と架線を繋ぐ支持金具(電柱付属部品)。温度変化による架線の伸縮に対応し断線を防ぐ。

現場に臨む姿勢とともに技術を育てる

架線の摩耗測定の計測結果をもとに行われるミーティングでは、データの読み取り方や注意すべきポイントを指導する。

 現在、安田は敦賀電気区 副区長の要職を担う。信号通信・電力・企画からなる約30名の組織において、区長を補佐し管理指導の実務にあたる。平均年齢30代前半という若い職場では、コミュニケーションの取り方に悩むことも多いというが、異常時にも迅速、的確に対応できる現場力を養成するため、若手を率いて訓練の反復に励んでいる。現場育成に力を入れるきっかけとなったのは、2020(令和2)年の北陸本線上り線の深坂トンネル内で起きたトロリ線断線事故。「復旧に手間取り、長時間運行を止めてしまいました。事故経験に乏しい若手がほとんどで、現場が十分に機能しなかったことが復旧を遅らせた要因の一つでした」。この時の反省から、電気部門では専門分野のベテランが1年目社員を直接指導し、実践力を鍛えているそうだ。安田は、「夜間の訓練であっても昼間から材料・工具を準備し、手順を確認して作業に臨む“段取り八分”を徹底させています」と話す。また、常に設備に触れ、設備に愛着を持つ大切さも伝えるという。「設備を好きになれば仕事を好きになり、向上心も高まります」。若手から「安田塾」と呼ばれる技術継承の場では、電気技術者としての精神が受け継がれている。

*この記事は2026年5月取材のものです。

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