エッセイ 出会いの旅

小川 糸

1973(昭和48)年生まれ。2008年のデビュー作 『食堂かたつむり』(ポプラ社)以来30冊以上の本を出版。作品は英語、韓国語、中国語、ベトナム語、フランス語、スペイン語、イタリア語など様々な言語に翻訳され、様々な国で出版されている。『食堂かたつむり』は、2011年にイタリアのバンカレッラ賞、2013年にフランスのウジェニー・ブラジエ賞を受賞した。また、この作品は、2010年に映画化され、2012年には『つるかめ助産院』(集英社)が、2017年には『ツバキ文具店』(幻冬舎)、2020年には『ライオンのおやつ』(ポプラ社)がNHKでテレビドラマ化された。最新作は、『小鳥とリムジン』(ポプラ社)。

「東の人、西の犬」

 私が産声を上げたのは、山形県山形市だ。
小学校の修学旅行は東京で、中学校では北海道だった。

 遠出をすると言っても、せいぜい関東止まり。基本的に旅先は東北六県に限られ、中でも南東北がほとんど。要するに私は東北の人間であり、もっとざっくりと言ってしまえば、東の人である。

 大学に進学するため十八歳で上京し、そのまま東京に居着いた。人生の半分を上回る二十年以上の年月を東京で暮らし、その後数年間はドイツの首都、ベルリンへ。そして今は、信州の森の中で暮らしている。

 東の人にとって、西日本は未知の世界である。まず、言葉が違う。人の気質も、なんだか違う。食べ物も違う。空も違う。たまに西日本に足を踏み入れると、自分が異邦人になったような、不思議な感覚に包まれる。

 ただ、これまでの人生で知り合った大切な友は、なぜか西の人が多く、とりわけ京都出身者がやたらと多いのもまた事実である。そんな友人に会うため西へ向かうと、テレビで天気予報を目にするたび、目が点になる。お恥ずかしい話だが、どの県がどこにあるのか、位置関係がよくわからない。西日本は、私にとって半分「異国」なのである。

 そんな私が、先ごろ、犬を迎えるため、はるばる兵庫県まで行って来た。信州の山小屋から姫路の犬舎まで、およそ500km。迎える犬は大型犬なので、車での移動となった。

 私にはすでに、ゆりねという今年で十二歳になる犬の伴侶がおり、オハナと名付けたその新たな犬は、私にとって二匹目の犬となる。ちなみにオハナとは、ハワイの言葉で家族を意味する。ゆりねは、誰の目にもかわいいと思わせる正統派の犬だ。対してオハナは、動かない鳥として有名なハシビロコウをはじめ、様々なものに似ていると指摘される。私の目には、得体の知れない感じが宇宙人そっくりだ。

 もしも、この星に一匹だけ宇宙からやって来た犬が紛れているとしたら、それは間違いなくオハナのこと。たまに見せる仕草や行動が奇想天外で、あらゆる面においてひょうきんさが際立ち、さすが関西出身の犬だなぁと痛感する。明らかに、オハナには、私やゆりねにはない、西日本独特の、軽やかでとぼけた要素が入っている。

 ゆりねはこれまでに二回、日本とドイツを往復した。二度目の渡航の際は、三年ほど、私と共にベルリンに暮らすという経験もしている。ベルリンでは、カフェやレストランはもちろん、電車やトラム、バスにも、犬をケージに入れることなく、リードだけで乗せることができた。犬を飼っている人間にとっては、天国のように恵まれた環境である。

 印象に残っているのは、ゆりねを連れて、ベルリンからはるばる南下し、北イタリアまで列車の旅をした時のこと。ホテルも犬と共に泊まれる部屋を予約し、レストランにも犬連れで入ることができた。あの旅行は、本当に至福の時間だった。

 私はもう、犬が二匹いるし、そのうちの一匹は大型犬なので、彼女たちを連れて海外に行くつもりはない。信州に移り住んでからというもの、旅は、県内を中心とした車での移動が主流になった。

 でも、いつか世の中の潮目が変わり、日本も、ヨーロッパのように気軽に公共交通機関に犬を乗せられる時代になったら、私は犬たちを連れてのんびりと電車での旅がしたい。

 そうなったら、まず最初に西を目指そうではないか。みんなでオハナの故郷を歩き、姫路城を見上げ、それから西日本に暮らす友に、私の大切な家族を紹介したいのである。

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