雄大な太平洋の波が間近に打ち寄せる露天風呂「崎の湯」。江戸末期から明治にかけて「湯崎七湯」と呼ばれ親しまれた自然湧出の外湯のうち、唯一同じ場所に残る。南紀白浜温泉は、愛媛県の道後温泉、兵庫県の有馬温泉に並ぶ「日本三古湯」の一つ。

日本は世界有数の温泉大国だ。温泉街をそぞろ歩き、時を忘れて湯に浸かり、その地ならではの名物を楽しむ。六感まで癒やす大地の恵みを、西日本の名湯と秘湯で。

白浜温泉 和歌山県西牟婁郡白浜町

和歌山の南紀白浜温泉は、「日本三古湯」の一つ。
今からおよそ1300年前に完成した『日本書紀』には、すでに歴代の天皇がこの地に来訪した物語が記されている。海辺で自然湧出する外湯が愛された万葉の時代から1000年以上経た今も、日本を代表する温泉地だ。

大阪駅から約2時間半で繋がる南紀白浜温泉の玄関口、白浜駅。構内や改札口では、愛らしいパンダのモニュメントがあちこちでお出迎えしてくれる。

【紀勢本線「白浜駅」からバスで約15分】

白浜のシンボルの一つ、円月島(えんげつとう)を望む「御船(みふね)足湯」。円月島の正式名称は高嶋。波で削られた島中央部の穴に、夕日がおさまる瞬間がある春と秋の夕景は、特に感動的。

千年の時を超えて愛され続ける、美しき海辺の湯治場

湯めぐりが楽しい、多彩な泉質とオーシャンビュー

 和歌山県の南西部に広がる南紀白浜温泉は、太平洋のオーシャンビューとともに楽しめるのが魅力だ。太古の昔から海岸で無色高温の温泉が湧出した湯治場で、『日本書紀』には斉明[さいめい]、天智[てんじ]、持統[じとう]ら歴代天皇が行幸[ぎょうこう]したと記される。657(斉明3)年には、斉明天皇の甥の有馬皇子がこの地に滞在。白浜の景色と温泉に癒やされたという甥の話を聞いた斉明天皇も、その翌年には白浜へ向かった。この旅には中大兄皇子が数百人の宮人と共に同行し、2カ月半も逗留。飛鳥時代の宮人も訪れた「崎[さき]の湯」は、現在も海にせり出した岩場に広がっている。

鉛山(かなやま)湾に面した弓状白砂の「白良浜(しららはま)」。石英の砂からなる白浜が、延長約620mに渡って広がる関西屈指のリゾートビーチ。

大正時代の崎の湯。当時の南紀白浜温泉は、海岸に自然湧出する温泉に共同で浸かる「外湯」だけ。現在も男湯には万葉の時代から残る「湯壺」がある。

源泉を汲み上げる白い鉄塔「源泉やぐら」。この行幸(みゆき)源泉は、白浜で最も古い源泉といわれ、現在も「崎の湯」に湯を引いている。

外観、内観とも昔ながらの銭湯を思わせる「白良湯(しららゆ)」は、2階に浴場がある外湯。お湯に浸かりながら白良浜と太平洋の風景が眺められる。

 古く知られる湯治場ながら、南紀白浜温泉は大正時代まで自然湧出の温泉だけだった。初めて人員掘削した温泉を引いた「白浜館」が、白浜初の内湯旅館として1922(大正11)年に開業。1933(昭和8)年に白浜口駅(白浜駅)が開業し、阪神地方からの観光客を迎えると、華やかな海の湯治場として賑わい始める。

 火山帯のない紀伊半島で、なぜ豊富な温泉が湧き出るのか。近年の調査・研究で、フィリピン海プレートが日本列島の下に沈み込む際、一緒に巻き揉まれた海水がマントルに熱せられて滞留。それが地底に広がる岩石の節理を伝って湧き出ていると判明した。白浜の場合、滞留場所が比較的浅いため、湧出場所も多いという。

 昭和初期には100カ所以上の源泉が掘削され、現在使われている源泉だけでも約50カ所に及ぶ。源泉が豊富なら、泉質や泉温もさまざま。海に近い源泉は、ナトリウム塩化物炭酸水素塩泉や硫黄物泉など塩分が多く、湯冷めしにくい泉質。海から少し離れた源泉では、美肌効果が期待されるアルカリ性のお湯が湧出する。場所によっては2つの泉質を一つの内湯で楽しめる場所もある。宿泊客には「湯めぐり札」が配付されるので、泉質多彩な南紀白浜温泉の醍醐味を満喫できる。

山の幸の、華やかな香りと味わい「梅のワイン」

西日本最大級の海鮮マーケット「南紀白浜とれとれ市場」。毎日入荷する鮮魚や和歌山特産品のショッピングのほか、購入した魚介、肉、野菜をその場で楽しめるBBQコーナーも完備。

「とれとれ酒店」の店長で、地酒ナビゲーターの竹原範充さん。「梅ワインの良さは、食の和洋を選ばない汎用性の高さ。焼き魚など日常的な食事と楽しんでいただけます」

緑茶や蜂蜜、柚子などを加えるなど、梅酒も種類豊富に。飲み比べが楽しめる飲み切りサイズも。

和歌山産青梅でつくった糖抽梅果汁を、日本醸造協会のワイン酵母で発酵し醸した「梅のワイン」。甘味が少なく、梅の香りとキリッとした風味の余韻が楽しめる。

 和歌山の名産品の一つ「南高梅[なんこううめ]」は、白浜町に近いみなべ町が発祥の品種だ。大粒で肉厚、柔らかな果肉は、梅干しや梅酒、梅シロップなどにして楽しまれている。山海の幸に恵まれた和歌山の特産品が揃う「南紀白浜とれとれ市場」内の「とれとれ酒店」で、近年販売数が伸びているのが「梅のワイン」。南高梅から抽出した糖抽果汁にワイン酵母を加え、低温発酵・醸造させたもので、赤・白・ロゼはなく、梅の実の琥珀色のみ。華やかな香りとドライな口当たりは、洋食はもちろん、刺身などの和食にも最高のマリアージュを演出する。よりシャープな口当たりを楽しむなら冷たくして、ロックにしても美味。湯の心地と、和歌山の海鮮とともに、琥珀色の余韻を楽しみたい。

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