エッセイ 出会いの旅

兵動大樹

1970年、大阪市生まれ。1990年、矢野勝也さんと漫才コンビ『矢野・兵動』結成。コンビとして2009年第44回「上方漫才大賞」大賞受賞。日常生活の中で出会った特異なエピソードの数々を『人志松本のすべらない話』(フジテレビ)で披露するや、トークのスペシャリストとしてその名は全国区へ。90分間喋り続ける、ひとり喋りのイベント『兵動大樹のおしゃべり大好き。』は初回から20年続くライフワークとなっている。

「移動は、はなしのネタの宝庫」

 どうも、兵頭大樹です。仕事でいろんなところに行きますが、その時は新幹線での移動が多いです。延伸した北陸新幹線にも乗ってます。先日は追加料金を払ってグランクラスに乗り換えて帰りました。ゆったりした独特の座席、北陸の銘酒と品のいいお弁当も出てきて、もう最高でした。「えっ、もう着いてまうの!」と思ったほどです。敦賀駅からサンダーバードに乗り換える、あの移動時間が僕は大好きで、みんな「急いでません!」みたいな顔して、ものすごい早歩き。僕もその流れに乗って、急いでない顔して早歩きしてます。

 先日、僕のトークイベントで富山公演の翌日に高知公演13時というスケジュールがありました。富山を17時半の新幹線に乗れば、その日のうちに高知に辿り着くことがわかったんですが、到着するのは深夜0時過ぎ。「着いてもご飯食べるとこないですよね?」って高知の人に聞くと、さすが酒処。「開いとるわい!」と。「よし行くか」ということで、イベントに出ていただいている先輩と一緒に高知へ向かいました。敦賀駅で降りて、急いでないフリ・・・・・・・してサンダーバードに乗り継いで、新大阪から新幹線で岡山へ。そこから高知行きの電車に乗り換える頃にはもうヘロヘロ。でも「すごいなぁ! 富山から高知まで6時間半で行けるんや!」と、あらためてびっくり。おかげでその夜は、美味しいカツオのタタキをいただけて、電車さまさまでしたね。

 日曜日の博多で漫才3本やった後、その日のうちに名古屋入りする日もありました。1日のうちに大阪〜博多〜名古屋の移動は体力的に不安なので、博多に前日入りしようと調べたんですが、週末の博多のホテルはどこも高い! でも調べ続けていたら1万円くらいで泊まれるホテルを見つけたのですぐに予約しました。博多駅に着いて、ホテルからのメールを見てみると、備考欄に『学生証の提出をお願いします』って書いてある。僕『学生プラン』を予約してたんです。あっ、もう、終わったなと…。夜の8時。博多駅筑紫口で、空を見上げてる僕の顔、見てほしかったです。新喜劇に出てくる学生みたいに「花月大学2回生です!」って言おかなとも思ったんですけど、ホテルに連絡したら、一般の人もプラス料金で泊まれることがわかった。ドキドキしながらプラス料金聞いたら「200円です」て。もっと学生さんに割引してあげてって思いました。

 若い頃の移動時間は眠たさが勝っていたんですが、歳を重ねてくると、車窓から見る景色の違いや電車を降りた後の空気の違いも感じられる。若い時に楽しめなかった分、旅の良さを噛みしめようと思うようになりました。そんな心境になったのは、コロナ禍に観た映画『The Father』の影響もあります。記憶が曖昧になっていく老父とその娘の話なんですが、「人間は老いていく、それはしゃあないこと。それまでにいろんなことを楽しまないと損やな」と。そう気づいてから、地方での仕事を増やしてもらったり、ちょっと大きな仕事にも挑戦したりするようになりました。

 「一度、大注連縄[おおしめなわ]を見たい」と言う後輩を連れて、島根の出雲大社に行ったことがあります。参道をまっすぐ歩いて行くと注連縄を飾った拝殿がありました。「これや」「……この注連縄、ちっちゃくないですか? ○○○さんで見た時はもっと大きかったですよ」「それマンガやないかい」と。拝殿前で写真撮って帰ったんですけど、翌日「あの注連縄、やっぱり違いました!」と後輩から電話がありました。大注連縄があるのは、境内の隣にある『神楽殿』だったんですよね。拝殿を拝ませてもらったのは本当に嬉しかったけど、やっぱりあの大注連縄は見ておきたい。今度は特急やくもに乗って後輩を連れて行きたいです。えっ、新しい車両になったんですか!? そら絶対行かんと。今から楽しみですね。

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