鉄道に生きる

西田 秀人 金沢支社 金沢総合車両所 運用検修センター 助役

培った検査技術で安全・安心な車両品質を支える

機能保全では、運転席の機器の動作が有効かどうかの試験を実施。

 金沢総合車両所運用検修センターは、関西と北陸を結ぶ特急列車「サンダーバード」をはじめ、「しらさぎ」や北陸本線と七尾線で運用される521系などの検査・修繕を担う車両基地。定期検査に加え、運行中の車両トラブルにも即座に駆けつけ対応する。365日列車の安全走行を支える最前線に、西田の姿がある。

先輩技術者から学んだ車両修繕の基本

ネジの不具合を調整して座席下ヒーターの点検窓を修繕。車内環境を快適に保つ。

 西田の入社は1997(平成9)年4月。まず、吹田工場技能訓練センター※1に配属され、鉄道車両の検査・修繕に関わる基礎を1年半かけて学んだ。その後、1999(平成11)年からは金沢総合車両所車両検修センターへ。最初の1年間はモーターの検修業務を担当し、以降は車両の腐食した部分を切り取って新しい鉄板を溶接、研磨するといった鉄工業務に従事した。日々の業務で心がけていたのは、“次の仕事”を意識すること。「例えば、私がモーターの機能検査を終えたら、次はそのモーターを台車に取り付ける人がいます。さらに、車体とモーターを繋ぐ人がいる。時間があればその先の現場に足を運び、幅広い技術に接するように努めました」。当時は職場に若手社員がいなかったため、新人の西田が訪ねて行くと、ベテラン社員は喜んで技術を伝授してくれたそうだ。「先輩方から多くのことを学ぶことができ、ほんとうに恵まれた環境でした」。西田は、技術者としての歩みを感謝の思いで振り返る。

※1.現在の吹田総合車両所。

技術と判断力で安全輸送の使命を果たす

ドアを開閉させる戸閉装置の点検作業。お客様に安全に乗り降りしていただくため、ドアが正常に動作するかを細かく確認していく。

 検修技術を培った現場を離れ、金沢支社運用車両課に異動したのは2009(平成21)年。車両関係の施策はもとより、乗務員の運用・管理を担当するマネジメント業務に従事することになる。溶接機やグラインダーを扱っていた手でパソコン業務をこなす日々に、「戸惑いもあったが、乗務員の声が直接入ってくるので、問題点はすぐ現場に確認できた。情報のつなぎ役としての手応えがありました」と語る。また、会社全体の業務の流れを広く知る機会にもなり、その後のキャリアアップに向けての経験を積み重ねた。

 この運用車両課時代、西田は現場で磨いた鉄工技術を発揮する場面に遭遇した。2011(平成23)年1月、日本海側の地域は記録的な大雪に見舞われ、北陸本線の敦賀駅、今庄駅などでは特急列車が立ち往生する事象が発生した。その対応に多くの社員が現地に出向いていた時、支社に一人残っていた西田は、除雪用のディーゼル機関車DD15が不具合を起こしたという連絡を受ける。現地の倶利伽羅[くりから]駅に駆けつけた西田は、ギアが噛み込んで動けない車両を見て、推進軸※2を切断して無動回送する方法を選択。雪かきをして車両の床下に潜り、直径30cmの鉄製の軸をガスで切断する作業に夜を徹してあたったそうだ。「鉄工技術には自信がありました。日ごろから技術を磨いていたことで迷わずに判断することができました。線路が無事に開通して、朝方に普通列車が走行していったのを見届けたときは安堵しました」と振り返る。

※2.エンジンからの動力を車輪に伝えるため車両の床下に取り付けられた部品。

“検修の精神とともに技術を繋ぐ

作業開始前のミーティングでは、業務の確認とともに安全への意識を高める。

 今、西田は金沢総合車両所運用検修センターの助役として部下を率い、車両品質の維持向上を担う。「センター所属の車両以外にも、金沢支社管内を走行する車両に起きる全てのトラブルに対応する部署です。トラブルなどの連絡を受けた際には、あらゆる事態を想定し、迅速に対応できるように準備をします」。一定周期ごとに実施する「仕業検査」や「機能保全※3」に加え、日々車両を走らせるためのあらゆる業務にセンター一丸となって取り組む。その指針となっているのは、かつて先輩から学んだ「車両検修の基礎」だ。また、西田は、車両情報システム(Ris-e)※4を活用し、「汚れ」や「ゴミ」といった見過ごされやすい機器の不具合原因を探り、見えない部分も含めた清掃を徹底する。「常に機械が決められた動作をするには、本来のきれいな姿を保つことが基本。若手社員には、検修の現場で掃除をする意味を伝えています」。現場で働く一人ひとりに西田はきめ細かく目を配る。「安全に一日の業務を終え、仲間を元気に家へ帰すことも私の仕事。それが車両品質の向上にも繋がります」。若きリーダーは、常に揺るぎない姿勢で安全輸送を担う現場に臨んでいる。

※3.仕業検査は7日周期、機能保全は90日周期で実施される。 ※4.車両品質の向上を目的とした、車両メンテナンス業務を網羅した大規模なシステム。

ページトップに戻る
ローカルナビゲーションをとばしてフッターへ