鉄道に生きる

宮本 哲也 大阪工事事務所 うめきた工事所 助役

培った技術を誇りに軌道工事の明日を拓く

まちづくりと鉄道アクセスの両面で注目を集めるうめきたエリア。新駅設置の広大な工事現場では、毎日地道な作業が続けられる。

 大阪駅の北側、うめきたエリアでは、現在2期開発事業※1が進む。東海道線支線の地下化と合わせて2023年春の開業を目指す新駅設置の工事現場。大阪の未来を創造する一大プロジェクトにおいて、軌道新設を担う宮本は、長年培った技術と経験でチームを率いる。

※1.うめきた開発は、大阪駅北側の旧梅田貨物駅跡地を整備し、周辺地域との一体的なまちづくりを進めるプロジェクト。

保線の経験を軌道建設に活かす

 宮本は、国鉄時代の1977(昭和52)年に入社した。最初に配属されたのは尼崎保線区(当時)。線路に上がり、列車が走行する合間を縫って行う保線業務は緊張する場面も多く、安全に仕事をやり終えるために、身体のコンディションを万全に整えて現場に臨むよう心がけていた。「仕事は見て覚える」という当時の現場で、宮本は先輩のやり方に学びながら、マクラギ交換など線路保守の基本を身に付けていった。その後、神戸保線区では保守検査を行う軌道検査係を担当。さらに保守の管理や工事の発注などを手がけ、保線業務全般の知識や技術を習得した。

 1990(平成2)年、神戸工事区(当時)に異動した宮本は、以降、甲南山手駅やさくら夙川駅、JR総持寺駅などの新駅工事をはじめ、片福連絡線(現JR東西線)工事、嵯峨野線複線化工事などの大規模な軌道新設に携わる。今ある線路のメンテナンスが中心の保線業務から、線路の新設や改良を担う建設業務へ。「新しい線路が完成すれば、それを保守に引き継ぎます。保線の経験は、完成後のメンテナンスを考えて線路を作るという、軌道工事に活きています」。

携わった線路に注ぐ安全への視線

うめきた工事所は総勢14名。ミーティングでは各工区の進捗状況などを図面で確認し、情報共有を図る。

 工事は、夜間、最終電車から始発電車までの時間帯に行われることが多い。周辺地域への騒音や振動に配慮しながら、限られた時間内で安全に終えることが求められる。宮本は、「線路の配線変更の工事現場で、事前に移動させておくべきトークバック※2がそのままだったので、工事に支障を来さないよう一時的に撤去しておいたところ、置いた場所が悪く、重機が壊してしまうといったトラブルもありました」と当時を振り返る。現在は、大きな工事の前にはさまざまな系統の関係者が一堂に集まり、作業の分担や時間配分などを確認する切換会議が開かれる。さらに、1週間前には現地シミュレーションも実施されている。「事前準備に時間をかけ、工事に関わる人たちがチームとして連携することが、当日のスムーズな進行と安全面を支えています」。

 どの工事も安全第一で臨むという宮本。規模の大小にかかわらず、自身が工事に携わった線路には、どれも同じように思い入れがあると語る。「終わった仕事とはいえ、やはりその後も気にかかります」。無事に工事が完成すると、ほっとするという宮本。それ以上に、携わった線路上を列車が安全に走行することを常に気にかけている。

※2.工事現場から信号扱い所に連絡するための通信設備。通常、線路脇に設置されている。

次代を担う人材に技術のバトンを渡す

「迷った時はすぐに相談する」という若手社員は多い。経験に裏付けられた的確なアドバイスで問題解決に導く。

 宮本は、現在うめきた2期開発プロジェクトにおいて、特急「はるか」「くろしお」などが走行する東海道線支線を東側に移設して地下化し、大阪駅に近接する新駅(うめきた(大阪)地下駅)を設置する大がかりな工事に取り組んでいる。完成すれば、新駅は梅田エリアの新たなまちづくりの拠点となるほか、特急「はるか」の乗降駅となり、関西国際空港とのアクセス向上にも期待が高まる。2023年の開業を目指し、今は地下化するための仮線を作っている。現場では、毎晩線路下を掘削し、バラスト(砕石)に置き換えてから線路を下げていく軌道低下の地道な作業が続いている。工事は、これからが本番という。「大きなプロジェクトであっても、事故を起こさず安全にやりきるという基本は同じ。土木の担当者とも連携し、より安全な工法を考え進めていきます」。

 今、宮本が楽しみにしているのは、若い人材が成長していく姿を見ることだという。「若手は非常に優秀です。ただ、始めの1歩は誰も不安があります。私自身の現場の経験も交え、マニュアルに書いていないことも伝えていきたいです」。そんな宮本の背中を追いかける仲間の1人はこう話す。「私たち若手を成長させようという熱い気持ちが伝わってきます。期待に応えながら、ともに完成を目指します」。技術は、確実に未来へと受け継がれている。

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