『立花之次第九十三瓶有』第三十二図 寛永六年閏二月廿一日於紫宸殿池坊専好立之。(池坊総務所蔵)
二代専好の作品は貴重な図絵として保管されている。 「二代専好立花復元作品」三浦友馨作。
二代専好は、たびたび宮中に招かれ立花の指導を行なった。二代専好の活躍によって、立花は公家や武家のみならず町人社会にも広く普及したという。

特集 一木一草一花の命を慈しむ日本人の心 いけばな

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草花の命の輝き、美を生かす心

 十二世池坊専慶から数えて550年。六角堂入り口の柱には、現家元である華道家元四十五世の表札が掲げられている。「貫主池坊専永」。同じ敷地に池坊会館があり、家元道場や、いけばな資料館もある。この場所から日本全国へ、世界に向けて「いけばな」の文化が発信されている。

 1989(平成元)年に得度し(法名:専好)、女性初の次期家元に指名されている池坊由紀さんに550年の池坊の伝統と「いけばな」の心を尋ねた。「形を受け継ぐのでなく、道を極めようとして注がれた多くの先人の心を生かす。それが伝統ではないでしょうか。そして池坊の心は、『専応口伝』で〈枯れた花にも華がある〉という言葉に集約されているように考えています」。

 それは、見た目に映る形とか鮮やかさといった美を否定し、すべての生命に輝きがあり、美があるとみなし、それぞれの草花の命の輝き、美を見いだして生かすことである。しかも、ただ草花を生かすだけではない。草花を生ける人も、生けることによって生かされる。それが「いけばな」の心であり、華道という言葉には、禅の求道的な礼儀作法、心の修練を含んでいることはいうまでもない。

華道家元池坊次期家元 池坊由紀。花展、講演、シンポジウムほかいのちを生かすという池坊いけばなの精神に基づいた多彩な活動を行っている。アイスランド共和国の名誉領事も務める。専好(四代)の名を襲名する予定。

数多くの先人のなかでも由紀さんは二代専好に惹かれるという。「立花[りっか]」の大成者である。「型にはまらず、おおらかで、のびやかな作風が好きです。少ない素材で大きな効果を生み出しています。素材の出生や個性を生かして自由に、絶妙の構成と空間演出です。窮屈でなく、ふわりとしている。お人柄もきっとおおらかな方だったのだと想像できます」。

「立花新風体」池坊由紀作。立花新風体は、床の間のない現代の住宅空間に合うよう考案された様式で、伝統美と新しい感性を合わせ持つ。

 二代専好の作品は『専好立花図』に残っており、現代でも親しみやすいということもある。立花図を眺めながら、二代専好がどんなことを考えていたのか、あるいは「いけばな」はその時の社会状況とどう関係していたのだろうか、などと想像を膨らませるというのである。そして自らの作風を「足でいける心です」と話す。むろん比喩である。

 「野山を、自然の中を歩いて、どのような環境でどのような草花があるのかを自分でよく見極め、知っておくことが大切だと思っています。人間の勝手な思いで生けるのではなく、あくまで自然にある草木の姿を生かすことです。枯れた葉、朽ちた枝にも美は存在する。その心を忘れず、精進しています」。池坊の「いけばな」の心は、550年の時を超えて、その精神はまったく揺るぎない。

 由紀さんは最後に一言。理想は「見る人の心を揺さぶるようないけばなです」と優しい声で囁いた。

「2012年旧七夕会池坊全国華道展」池坊由紀作。江戸時代に宮中で後水尾天皇が催されてから今日まで続く、池坊伝統の「花会」での作品。

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