鉄道に生きる

安井 正義 中国統括本部 岡山保線区 津山保線管理室 助役

会話によって育むチーム力が鉄道の安全と品質を支える

モーターカーでレールを現場に運ぶ前の実践的な訓練。安全バーの位置など、作業上の注意点を指導していく。

 津山保線管理室は、津山線の福渡[ふくわたり]駅から津山駅までの山間線区をはじめ、姫新[きしん]線の上月[こうづき]〜月田[つきだ]駅間、因美[いんび]線の智頭[ちず]〜東津山駅間という広範囲に及ぶ路線の保守点検を担う。線路上での作業は危険と隣り合わせ。日々の作業前ミーティングでは、現場へ向かう保線員の安全確保のために、安井はきめ細かな指示を出す。

現場で培った保守点検の視点

安全で快適な鉄道を提供するという使命とともに、線路の保守点検を担うチーム全員の安全確保にも取り組む。

 線路のわずかな異変を見逃さず、常に良好な状態を維持する保線業務。安井は、鉄道の安全を支える保守点検のプロを目指し、2000(平成12)年に入社した。まず、1カ月間は社員研修センターにおいて、線路に入る前の準備、検査の種類や作業の手順など、保線員としての基本を学んだ。最初の配属先は大阪保線区 大阪保線管理室。「土地勘がまったくなく、徒歩巡回検査では、先輩の後を付いて線路を毎日5kmほど歩いていました」と話す。現場ではベテラン社員から直接技術指導を受け、保守点検の基本を実践的に学ぶことができた。

 その後安井は、岡山保線区をはじめ、備前保線区、倉敷保線区の業務に従事し、保線一筋に経験と技術を積み重ねる。どの現場でも心がけていたのは「駅名と地形をまず頭に入れること」。さらに、線路には「線路等級※1」という分類があるため、それぞれの路線に合わせた保守点検の視点を持つように意識したそうだ。「例えば、1級線の山陽本線の点検周期は短く、磨耗などの基準値も厳しくなる。4級線の津山線とでは見るべきポイントが異なります」。安井は、線路と向き合う真摯な姿勢も同時に育んでいった。

※1.輸送上の特性に応じた鉄道線路の分類。点検や保守計画は路線の等級によって定められる。

コミュニケーションをチームの力に

テーマを決めて定期的に行う勉強会。「時間に追われる現場では聞けないことも、この場では聞きやすい」と若手は話す。

 現在、安井は津山保線管理室の助役として、若手からベテラン社員までの総勢13名を率いる。一定周期で実施する徒歩巡回検査には責任者として同行するほか、線路脇の樹木の伐採作業にも加わる。「技術を身に付けるには現場での体験しかない」が信条の安井は、常に若手に目を配り、作業の安全を守るために道具の使い方や気をつけるべき点を細かくアドバイスする。また、ブレーキ操作が難しい軌道自動自転車※2は、現場で走らせながら実践的に学ばせるそうだ。歩く目線では分からない線路の起伏、高低狂いなども、現場での「拝見※3」を繰り返し指導し、高度な技術の習得に繋げている。

 安全最優先の職場において、安井がもう一つ大切にしているのがコミュニケーションだ。保線の仕事は、チームでの検査や作業が基本。コミュニケーション力は保線員として不可欠なスキルなのだという。「自分から進んで話かけ、相手の話をよく聞き、それを自分の技術に役立てる。会話ができないと何も始まりません」。安井は、話が苦手な若手には何気ない話題で声をかけ、ベテランも交えて雑談するなど、職場のコミュニケーションづくりを心がけている。「普段の会話から信頼関係が生まれ、現場での作業の安全に結びついています」。

※2.線路巡回や災害時の緊急連絡用に使用する作業用自転車。 ※3.レール位置まで目線を下げ、波形や高さを確認する作業。

“人脈を培い、技術を高め合う

部下が作成した工事計画書は、時間配分なども細かくチェックするという安井。安全のため無理のない作業を指示する。

 会話を通して互いに理解を深め、良好な人間関係を築く。その大切さを安井は自らの経験から学んだという。2006(平成18)年に配属された備前保線区。その1年目、和気[わけ]駅にある「岡山総合実設訓練センター」の訓練線の改良工事を設計から担当することになった。分岐器の新設や線路に曲線を入れるといった大掛かりな工事だ。「初めてのことばかりで、何から手をつけていいのか途方に暮れていました」と当時を振り返る。そんな中、職場の先輩やグループ会社の担当者が現地に出向く安井に同行し、現場調査の方法や工事費用の積算などまで丁寧に教えてくれたそうだ。安井は、支えてくれる人たちと会話を重ねながら、一つひとつの工事の指揮をとった。「半年間に及ぶ改良工事を完遂できたのは、社内外の方のサポートのおかげ。仕事における“人脈”の大切さを実感した業務でした」。

 今、職場では月1回「業務研究の日」を設け、チーム全体で技術の向上に取り組む。安井は、技術指導を受ける若手にはその場で必ずメモを取らせている。後で何度も読み返せば、自分の知識となって定着するからだ。内容を理解し、次の実践の場で活かすことができれば、若手の成長に繋がり、教える側にとっても励みになるという。人と人とのつながりを大切にする細やかなやりとりが、技術継承の礎になっている。

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