沿線点描 絶景美を求めて 赤穂線 播州赤穂駅〜西大寺駅(兵庫県・岡山県)

絶景

吉井川橋梁を渡る観光列車「ラ・マル 備前長船」。吉井川は旭川、高梁川と並び岡山三大河川の一つ。(大富駅〜西大寺駅)

播州から備前焼の里を訪ね、瀬戸内の多島美を望む

赤穂線は兵庫県の相生[あいおい]駅から岡山県の東岡山駅を結ぶ57.4kmの路線。この旅では『忠臣蔵』ゆかりの播州赤穂駅から備前焼の里を経て、瀬戸内を西に進み、西大寺駅をめざした。

絶景

日生駅からほど近い楯越山にある「みなとの見える丘公園」から見渡す瀬戸内海。重なる岬のように見えるのは、沖合の独立した島々。眼下の日生湾には多くのカキの養殖筏が浮かぶ。

忠臣蔵ゆかりの赤穂を経て、穏やかな日生湾を眺め

 赤穂線の起点駅は兵庫県の相生駅で、相生はかつて造船建造量が世界一を誇った造船の町だった。駅を離れた列車は山陽本線と分かれ、千種川[ちくさがわ]を渡って坂越[さこし]駅を過ぎるとまもなく播州赤穂駅に到着。駅構内では、人形浄瑠璃や歌舞伎で有名な『忠臣蔵』の赤穂浪士たちのレリーフが迎えてくれる。

 駅の南にあるお城通りを行くと、赤穂城跡の白亜の櫓や大手門が姿を現す。赤穂は、1645(正保2)年に常陸国笠間から53,500石で入封した浅野長直[ながなお]が、築城に13年もの年月を費やし、城下町を整備した。城内には大石内蔵助[くらのすけ]をはじめとする四十七義士を祀る赤穂大石神社が建立されている。

 さらに南側の瀬戸内海の沿岸には温泉街が広がる。赤穂温泉の開湯は、1970(昭和45)年と新しいが、その泉質は療養に適し、「よみがえりの湯」とも呼ばれている。

 列車は進路を西に大津川を渡り、備前福河駅を過ぎると岡山県に入る。楯越山[たてこしやま]の山肌にあしらわれた「ひなせ」の字が見えると、日生[ひなせ]駅だ。日生町は小豆島への玄関口で、日生港は駅からすぐ近く。港から徒歩で行ける楯越山の山頂にある「みなとの見える丘公園」からは、鹿久居島[かくいじま]をはじめ日生湾に幾層にも浮かんだ日生諸島が見渡せ、無数のカキ筏や船の往来が絵葉書のような風景を彩っている。

 日生町はカキ養殖が盛んで、岡山県の生産量の50%以上を占めている。そのカキをお好み焼きに加えた通称「カキオコ」は町おこしに活用され、現在14店舗で提供されている。その始まりは、商品にならないカキを近所のお好み焼き店に持ち込み、食べるようになってからだという。現在では県外の人も足を運ぶ人気商品で、ぷりっぷりの食感に舌鼓を打つ地元の一品だ。

絶景

赤穂温泉のある瀬戸内海国立公園 赤穂御崎。温泉は神経痛やリウマチ、慢性消化器病などの効能がある。

せとうちエリアで運行する観光列車「La Malle de Bois(ラ・マル・ド・ボァ)」は、フランス語で「木製の旅行かばん」。旅の楽しさが詰まった列車は岡山駅を拠点に、全4コースが設けられている。岡山駅と日生駅を結ぶ「ラ・マル 備前長船」のエンブレムのデザインは、備前焼や日本刀に欠かせない「炎」がモチーフ。

日生町の台所「五味の市」と、日生名物「日生カキオコ」

「五味の市」の愛称で親しまれる日生町の魚市場。場内では特産品のカキや、瀬戸内海産にこだわった旬の魚介類が並ぶ。

「地域振興でカキオコをはじめて20年。冬場は特に忙しく、お客さんのほとんどは隣町や県外からです」と話す、「もりした」のお母さん。

 岡山県と兵庫県の県境に位置する日生町は、古くから漁業と海運で栄えた。カキの養殖は、岡山県は全国で第3位の水揚量を誇る。そのカキをはじめ、瀬戸内海で水揚げされた魚介類を直売するのが、日生町漁協の魚市場「五味の市」だ。市は地元漁師のおかみさんによって活気に溢れている。

 また、日生町では「日生カキオコ」が地域振興に貢献し、その活動は今年で20周年を迎えた。

「もりした」のカキオコはカキ以外に豚肉を入れる。2つに切りわけた片方にオリジナルソースと一味とうがらしを、もう片方には醤油と山椒を加える2種の風味。

備前焼の郷から、古刹 西大寺の門前町へ

絶景

邑久(おく)の広大な田園の中を走る列車。大雄山からの眺望。(邑久駅〜大富駅)

 列車は何度もトンネルを抜け、伊里川を渡るとさらに西をめざす。西片上[にしかたかみ]駅を過ぎ、伊部[いんべ]駅に近づくと煉瓦造りの煙突が見えてくる。伊部町は備前焼のふるさとで、駅の北側に通る西国街道沿いには作家の窯元やギャラリーが、いくつも点在している。不老[ふろう]川のほとりにある茅葺き屋根が印象的な「茅葺ギャラリー陽山居」は、作家の伊勢創[そう]さんの窯元だ。「備前焼は一切、釉薬[ゆうやく]を用いません。素焼きが基本のため、“土”へのこだわりはどこにも負けません」と、伊勢さん。熟練の手つきで轆轤[ろくろ]を回し、あっという間に次々と仕上げていく。登り窯に移した作品は、1,200度で2週間も焼きしめる。

日本六古窯の一つ、備前焼の郷 伊部を歩く

西国街道沿いに鎮座する天津神社。境内には備前焼の屋根瓦や狛犬が設置され、参道の敷石もまた備前焼が用いられている。

伊勢さん所有の登り窯。年に一度の窯焚きでは、1,000〜2,000点の作品がこの窯で仕上がる。

 備前市は、岡山県南東部に位置する「備前焼の郷」だ。備前焼の歴史は古く、平安時代から鎌倉時代初期にまで遡るとされている。釉薬を用いずに焼き上げた素朴なたたずまいが特徴で、桃山時代には茶器の名品が数多く焼かれたという。「戦後の最盛期には、伊部周辺に窯元が300を超える賑わいでした」と話すのは、作家の伊勢さん。

 備前焼は、瀬戸焼、常滑焼、越前焼、信楽焼、丹波焼とともに「日本六古窯」に数えられる。

「ひよせ」と呼ばれる伊部の土で作陶された伊勢さんの備前焼。

(写真提供:備前長船刀剣博物館)
備前刀を中心に刀剣を展示している備前長船刀剣博物館。鍛刀場では月に一度、1,200度の高熱で玉鋼を打ち延ばす「古式鍛錬(こしきたんれん)」が行われている。

築約250年の家屋を作品とともに公開している「夢二生家記念館」。奥の間や土蔵なども展示室として開放し、ふるさとをテーマにした所蔵作品を季節ごとに展示している。

竹久夢二《童子》
(夢二郷土美術館蔵)

西大寺で催される「会陽(えよう)」。「宝木(しんぎ)」と呼ばれる木札を取り合う奇祭だ。会陽の語源は、厳しい冬が過ぎ、やがて陽春を迎えるという吉兆の意味。(写真提供:おかやま観光コンベンション協会)

 再び列車は西に向かい進路を南に変えて長船[おさふね]駅へと向かう。長船町は古くから日本刀の生産地で知られる。鎌倉初期よりこの地に刀工[とうこう]集団が興り、室町時代にかけて備前刀作りが発展した。そうした歴史を現在に伝えるのが、「備前長船刀剣博物館」だ。館内には約40振りの日本刀が展示され、刃に波打つ波紋の美しさに魅せられる。海外の日本刀ファンにも人気だ。

 そして、隣の邑久[おく]駅で下車し、「夢二生家記念館」に足を運んだ。邑久町は大正ロマンを代表する詩人画家 竹久夢二の生誕地だ。抒情的な美人画で知られる作風は独自に学んだものだ。その原点である茅葺母屋の生家で16歳まで過ごした。現在は夢二の作品や生涯の変遷が紹介されている。さらに南へ、「日本のエーゲ海」と呼ばれる牛窓へ足を延ばした。牛窓町は国内有数のオリーブの産地で、その拠点が「牛窓オリーブ園」だ。高台のオリーブ園からは瀬戸内海に横たわる前島や小豆島が見渡せる。眼下には県内唯一のヨットハーバーも望め、どこまでも穏やかな風景が広がっている。

 列車は大富[おおどみ]駅を経て、吉井川を渡ると西大寺駅に到着。この地域は駅の南側に位置する「西大寺」の門前町として発展し、江戸時代には高瀬舟によって水運の集積地として栄えた。目抜き通りには乾物商が軒を連ね、人や馬車の往来で大いに賑わっていたという。

 播州赤穂駅から西大寺駅まで約1時間。赤穂線は播州と備前の歴史文化に触れ、瀬戸内の島々の景勝美を満喫する旅であった。

牛窓オリーブ園と「瀬戸内国際芸術祭」の舞台 犬島

絶景

牛窓オリーブ園からの瀬戸内海の眺望。手前が前島で、奥が小豆島。

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犬島も会場の一つ「瀬戸内国際芸術祭・秋」。島内には煙突のある製錬所の遺構を活用した「犬島精錬所美術館」をはじめ、犬島「家プロジェクト」の作品が点在する。(犬島精錬所美術館 写真:阿野太一)

 岡山県瀬戸内市の牛窓町は、香川県の小豆島に次ぐ日本オリーブの産地。江戸時代に財を成した豪商が小豆島の知人からオリーブの苗木を譲り受け、温暖な牛窓の丘陵地に植樹したことに始まる。約2,000本のオリーブの木が植えられ、オリーブ油は化粧用や食用として利用されている。

 また、犬島を含む瀬戸内海の12の島と2つの港では、「瀬戸内国際芸術祭2022」が開催され、秋季は9月末から11月初旬にかけて催されている。

牛窓オリーブ園のオリーブオイル。ショップには、食用やご当地コスメとして人気の商品などが取り揃えられている。

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