エッセイ 出会いの旅

高田 明

ジャパネットたかた創業者、(株)A and Live代表取締役。1948年生まれ。長崎県平戸出身。大阪経済大学卒業後、機械メーカーに就職しヨーロッパ駐在の経験を経て、1974年平戸に戻り父が経営するカメラ店に入社。観光写真販売から事業を拡大、1986年に独立し(株)たかた設立。1990年からラジオ、1994年からテレビショッピングに参入し通販事業を展開。1999年ジャパネットたかたに社名変更。2015年1月社長を退任しA and Live設立。2016年1月番組MCを卒業。2017年4月〜2020年1月Jリーグ「V・ファーレン長崎」の代表取締役社長としてクラブ再建に貢献。

「人生を最高に旅する」

 列車の旅で思い出すのは学生時代。大学のあった大阪から郷里の平戸まで鈍行列車で17時間かかった。座席がなければ通路に座り込んだり寝転んだり。当時はそんなことがあたりまえで、遠いとも辛いとも思ったことはなかったが、あるとき大学の友人を連れて帰省したところ、あまりの長旅に「もう二度と行きたくない」と言われてしまった。

 大学ではESSクラブの活動に熱中した。他大学で行われる英語の討論会に参加することも多く、和歌山や東京へも遠征した。ある夏休み、ESSクラブの合宿で岡山県の美作[みまさか]に数日滞在したあと、そのまま友人と気ままな旅に出た。普通列車を乗り継いで北へ北へと北上し、青森でねぶた祭を見て、青函連絡船で北海道に渡り、函館から札幌、層雲峡から網走、知床半島へ。青森で食べたカツ丼が120円、札幌の宿が素泊まり700円。そんなことまでよく憶えている。宿代を浮かせるため時には野宿もしながらの旅だったが、層雲峡ではたまたま出会った五島列島出身の人と仲良くなって、家に泊めてもらうという幸運な体験も。辿り着いた知床で見た夕景は、半世紀も昔のことなのに、今も鮮やかに思い出せる。

 現役の頃はほぼ毎日スタジオに立ち、長崎を離れたのは年に何度かの東京出張と、年に一度の社員旅行ぐらい。社員旅行はまだ会社が小さかった頃から始め、私が退任した現在も大切な社内行事として続いている。ほとんどが海外で、アメリカやフランスなど何カ国も訪れた。社員には折に触れ「旅先で景色を眺めることも人生の勉強」と言っている。これは、大学卒業後に勤めた会社の社長とイタリアをバスで移動していたとき、眠っていた私に社長がかけた言葉だ。そのときは分からなくても意識して見聞きすれば、自分の知識にもなるし、いろんなことに繋がってくる。何かを学べると思って旅行をする人とそうでない人では生き方が違ってくるし、こういう積み重ねが人生を豊かにしていくのではないだろうか。数年前に読んだ本の中にこれに通じる言葉を見つけ、書き留めた。「人生を最高に旅せよ」という哲学者ニーチェの言葉。限りある生の時間を余すことなく燃焼し尽くそうという気概が感じられ、私が色紙を頼まれたときに書く「夢持ち続け日々精進」とも繋がるものがあると思えて心に残っている。

 ジャパネットをやめてから講演をする機会が増えた。この5年で約400回。北海道から沖縄まであちこちに出かけている。たいてい日帰りだが、訪れる土地の地図を広げたり歴史を繙[ひもと]いたりするので勉強になる。講演での出会いから交流が続いたり、広がることもある。

 テレビ通販のMC出演を卒業してもひとつだけ、日本各地を訪ねて人や風土に触れ、その土地のいいモノを紹介する「田明のいいモノさんぽ」は不定期で続け、全国18カ所を訪れた。西日本豪雨のあとは被害が大きかった広島へ。古くから酒造りが盛んな西条地区で7つの酒蔵を回り、とびきりの日本酒を紹介した。岡山県のデニムのまち井原、カバンの産地である兵庫県の豊岡、日本製メガネのシェア9割を誇る世界的な産地・福井県の鯖江では、メガネの製造工程をつぶさに見せてもらった。仕事の旅には違いないが、現地に1〜2泊し、旅らしい時間を味わえた。

 サッカーJリーグのV・ファーレン長崎の社長を務めた約3年間は、応援のため遠征試合にも行った。ホームでもアウェイでも必ずやることがある。それはサポーター、ファンの方と触れ合うこと。相手チームのサポーター席に行き挨拶することも。前代未聞のことらしく、皆驚いて一瞬静まりかえることがあってもすぐに歓迎の声援に変わり、大いに盛り上がる。話せばみんないい人。ホーム戦では、相手チームのサポーターをV・ファーレン長崎のサポーターで大歓迎し、敵味方を超えた交流に発展している。人との交流も旅を楽しむひとつではないだろうか。私の寿命は117歳と勝手に決めている。そう思えばまだまだいろんなことに挑戦できる。あと46年あるので、学生の頃のような先を急がない鈍行列車の旅や好きな歴史の舞台を訪ねる旅もしてみたい。地元の長崎はもちろん地方を応援する活動もなんらかのかたちで続けたい。いくつになっても夢を持ち続け、日々精進。人生を最高に旅しよう。

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