鉄道に生きる

丸橋 昭彦 和歌山支社 新宮列車区 車掌

お客様と心を通わせ、快適な旅をサポートする

「信号よし!」。列車の発車時における指差喚呼は、ベテランの丸橋でも緊張する瞬間という。ドアを閉める際には、常に全神経を集中させて臨む。

 京都・新大阪駅〜新宮駅間を結ぶ特急「くろしお」。丸橋は、雄大な太平洋に面し変化に富んだ海岸沿いを巡る「きのくに線」の区間に乗務する。「ご乗車ありがとうございます」の言葉に笑顔を添えて車内を回り、心の通う接客でお客様の旅に寄り添う。

※紀伊半島を巡る全長384kmの紀勢本線のうち、和歌山駅から新宮駅までの区間の愛称。

車掌業務のキャリアと誇りを培う

車内放送にはタブレットなどを活用し、海外からのお客様への情報提供に努める。

 丸橋は、1979(昭和54)年、旧国鉄に入社。当初は、和歌山貨車区における貨物車両の検修係として、部品の交換や修繕作業を担当した。2年後、列車掛に異動になったのが、自身が車掌をめざすきっかけとなる。列車掛とは、貨物列車の最後部に乗務し、貨車の連結や切り離し、組成作業を担う業務をいう。当時、大阪の竜華操車場から新宮駅まで、片道7時間以上かけて乗務した経験は、「鉄道の役割や安全の大切さを学ぶ大きな機会になりました」と振り返る。1986(昭和61)年に配属された天王寺建築区では、設計・施工を一から学び、駅やホームなど施設の維持管理にも携わってきた。

 そんな中、列車に乗務するという体験が忘れられず、車掌の登用試験に挑み合格を果たす。1994(平成6)年11月、和歌山列車区に配属された丸橋は、阪和線の乗務を中心に新たなスタートを切った。以来、車掌として約25年、運転士と共にお客様を安全に目的地までお送りするという重責を担う。現在は、新宮列車区に在籍し、特急「くろしお」と特急「南紀」に乗務。「この線区だけの特別な車両に乗務できることをうれしく思っています」と、車掌としての誇りと列車への愛着を語る。

お客様の旅に安心と感動を提供する

お客様と視線を合わせるように行う車内改札業務。きっぷの確認とともに、乗り換えなど必要なご案内を添える。

 車掌の業務は、信号確認やドアの開閉操作といった運行の安全を司る業務をはじめ、乗車券類を確認する車内改札、停車駅や乗り換えのご案内など多岐にわたる。風光明媚な海岸線を走る特急「くろしお」では、車窓からの眺望をアナウンスすることもあるそうだ。「車内放送は真心を込め、ゆっくりと聞き取りやすくを基本に、特に、異常時は丁寧なご案内を心がけています」と話す。「きのくに線」は、台風や豪雨などの影響を受けやすい路線でもある。風速や雨量が規制値を超えれば、指令からの指示に従って列車を止め、お客様の安全を守らなければならない。そんな時、丸橋は積極的に車内に出向く。「放送だけではお客様も不安です。直接状況をお伝えすれば安心していただける。また、代行バスの案内など、気持ちよく旅行していただくための選択肢をご提示するように努めています」。

 お客様の旅をサポートさせていただくことは、車掌業務を行う上での大きな魅力でもあり、やりがいでもあると丸橋は言う。車内改札時にはきっぷの行き先を確認し、必要な場合にはお声をかける。「那智の滝に行かれるのですか?」。那智駅までのきっぷをお持ちのお客様にそうお声かけし、紀伊勝浦駅の方がバスやタクシーもあって観光に便利なことをアドバイスしたことがあった。3日後に乗務した列車で偶然にもその時のお客様に再会。那智の滝に行って来たことを告げられ、「ありがとう。あなたのおかげでいい旅になりました」と、感謝の言葉をかけていただいたという。「車掌としてのやりがい、喜びを実感した出来事でした。あの時の“ありがとう”の言葉は、日々の励みになっています」。

情報共有とチームワークで安全への意識を育む

ミーティングでは同僚と共に活発な意見交換で安全意識を育む。

運転士、車掌がその日の業務での気づきを書き込むノート。情報共有を図り事故防止に繋げる。

 丸橋が車掌としてキャリアを積む中で培ってきたのは、安全に対する真摯な姿勢だ。業務の中で最も緊張するという、発車時の信号確認とドア扱い。「車掌が一番集中しなければならない瞬間です。特にドアを閉めるタイミングを誤れば、お客様のケガに繋がることもあります。車側灯が消えるまで開扉ボタンに手を添えて備えるなど、最大限の注意を払っています」。1日を無事故で終えるためには、こうした基本動作を確実に行うことが大切と話す。毎月、運転士と車掌が合同で行う「安全ミーティング」では、業務を通じた安全への気づきを活発に意見交換する。この場では1人のミスも全員で情報共有し、仲間が同じ失敗を回避するための対策に役立てられる。

 新宮列車区では、地域との繋がりを大切に、さまざまな取り組みを行っている。今後、発生が予測される南海トラフ巨大地震や津波に備えた避難訓練もその一つだ。新宮駅が主体となって実施する津波避難訓練には、地域住民や電車通学の地元高校生も参加する。「学生の皆さんには率先避難者として、避難はしごの使い方や高齢者の誘導方法などを体験してもらっています」。差し迫る課題に地域と共に取り組み、お客様の命を守るために訓練を重ねている。

ページトップに戻る
ローカルナビゲーションをとばしてフッターへ