鉄道に生きる

山中 靖夫 米子支社 米子運転所 運転士

自分に厳しく人に優しく 常に高みをめざす

真剣な眼差しで前を見つめ喚呼を行う。

 JR西日本の運輸部門では「実務レベル認定試験」が実施されており、在来線運転士業務については、知識編、技能編の両試験に合格し1級を取得すると「運輸技術管理士」として認定される。米子運転所 山中 靖夫運転士は運輸技術管理士である上、さらに在来線指導操縦者業務についても1級を取得した運転士で、全社的にも3%ほどしかいない。

新米運転士の自分が花形列車を運転 重圧に打ち克つために

列車到着後、車内に異常やお忘れ物がないか入念にチェックする。

 加古川駅、大阪車掌区を経て米子運転所の運転士となり、現在に至る。米子運転所は気動車の運転が多いため気動車の免許を先に取得することが通例であったが、山中は先に電車の免許を取得した。米子運転所の乗務区間を走る電車は普通列車のほかに、ある程度経験を積んだ運転士が乗務できるいわば花形の特急「やくも」があり、山中は経験が浅いながらも「やくも」に乗務することがあった。「ほぼ新人が花形列車を運転するわけですから、プレッシャーはありました」。重圧に打ち克つためには知識・技能を習得し自信を持つしかなかった。「運転がうまくなりたい」という一心で、できることにがむしゃらに取り組み、線路の形状を確認するため山道に自家用車を止めて自分の目で確認したこともあった。

ワンマン列車のため、運賃の収受も仕事。柔和な表情が印象的だ。

 新たな知識や技術の習得に喜びを感じるようになった山中は着実に運転士として歩みを進め、気動車、電気機関車、ディーゼル機関車の免許を取得し、これら全ての車種を運転できる運転士、さらには指導操縦者として成長した。「駅、車掌でもそうでしたが、できることが増えると自信とやりがいに繋がっていきました」。

見習いが主役 見習いの試験の日は自分のほうが眠れない

 現在山中は運転士としての業務に加え、指導操縦者として後輩の養成も担う。後輩のためになればと、区所の勉強会や訓練で自ら講師を名乗り出て自身の経験や知識を余すことなく伝えている。

 養成において山中が重視するのが、「見習いが主役」という考え方。その運転士がどのような考えでどのような運転をしているか、たとえ山中なりの答えがあっても、押し付けるようなことはしない。見習い自身の考え方を尊重するのに加え、悩んではいないか、分からないことを抱え込んでいないか、寄り添って兄弟のように接する。その根底には、自分が見習い時代に苦しんだ経験があった。「周りの仲間は自分のことに一生懸命で人のことまで気が回らず、なかなか相談できる状況ではありませんでした。そうした思いをさせないよう、自分なりに気を配っているつもりです。試験の日は、心配で私のほうが眠れないほどです(笑)」。見習いが無事に運転士に合格した後も関係は続く。「後輩には、不安になったらいつでも電話していいよと伝えています。独り立ちした後、経験したことのない事象が起きた時の不安は相当だと思いますので、その時の支えになりたいと考えています」。

見習い運転士とともに敬礼。指先まで力が入った、運転士の模範の形だ。

 見習いから学ぶこともある。「学科講習を終えた直後の見習いは、細部について自分より詳しい場合があります。『よく知ってるね』とほめますが、内心悔しいですし、かっこ悪いと感じます。これが『負けてはならない』と自らの知識欲へと繋がっています。いつまで経っても勉強です」。

 めざすのは区所全体で安全性を高めていくこと。そのための努力は惜しまない。「特に失敗を伝えることは大切だと考えています。乗務中は一人であり、自分しか知り得ない情報が多々あります。自分が経験した失敗は他人もする可能性がありますので、そのような情報こそ共有することが大切だと思います」。

めざすはお召し列車の運転士

 自身の夢を聞くと、「お召し列車を運転したいです。過去、米子運転所がお召し列車の運転を担当したことがあり、その時私はお召し列車の前を走り安全を確認する列車を運転しました。来るべき時に選んでいただけるように、弟子たちにも負けないよう、技術を高めて口だけでなく背中でも語れる運転士をめざします」と力強く語った。山中の夢が叶う時、また一つ、運転士として高いステージに上る。

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