三朝温泉の象徴的景観、三朝橋の袂にある露天の河原風呂。湯は世界屈指のラドン泉で数多くの効能があるといわれている。

特集 六根清浄と六感治癒の地〜日本一危ない国宝鑑賞と世界屈指のラドン泉〜〈鳥取県東伯郡三朝町〉 山岳修験の霊山と癒しの湯

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三徳山参拝の禊と癒しの三朝温泉

温泉本通り。射的やスマートボールのある娯楽場は、旅館組合が復活させた。ラドンは町中にも放散され、歩くだけでも身体に良いそうだ。

株湯は三朝温泉発祥の元湯。公衆浴場と足湯があり、三朝温泉開湯の縁起である「白狼伝説」の碑と像がある。

薬師の湯(足湯)。すぐ横に三朝温泉の守護神として町を守る「薬師さん」を祀る薬師堂がある。健康祈願に訪れる人が絶えない。

 日本遺産登録のテーマは「六根清浄と六感治癒の地」とある。六根清浄とは修験道の要諦だが、六感治癒の地とは三朝温泉を指している。三朝川の河畔に旅館が連なる鳥取県を代表する温泉地の三朝温泉は、約850年前のその開湯の縁起にも深く関わるほど三徳山信仰と関わりがある。

 三朝温泉の開湯は平安時代。今も語り継がれているのは「白狼[はくろう]伝説」だ。平安時代の1164(長寛2)年、源義朝(頼朝の父)の家臣の大久保左馬之祐[さまのすけ]という武士が源氏再興を祈願するために三徳山へと参拝に向かった。三朝での滞在中、年老いた白い狼を見かけるが、参詣の途中で殺生はいけないと白い狼を見逃してやる。

 その夜、左馬之祐の夢枕に妙見大菩薩が現れ、白狼を助けたお礼に湯が湧き出る場所を教えたという。そこには一本の楠の巨木があり、根元からこんこんと温泉が湧き出していた。大菩薩はその湯で人々の病苦を救うようにと告げる。「これが三朝温泉の始まりで、温泉発見の場所を株湯と言っています」。

 説明してくれたのは日本遺産三徳山三朝温泉を守る会の藤井文典さんだ。三朝温泉発祥の株湯は温泉街の少し外れにあるが、今も根っこから温泉が豊富に湧き出て、公衆浴場になっている。平安時代には三徳山信仰のご利益は都にも聞こえ参拝に多くの人が訪れ、三佛寺参拝前の禊や清めに、また参拝後に三朝の湯で身体を癒したという。

江戸時代から続く湯治宿の「油屋」の浴場。掘り起こした湧き出る源泉の上に直接、湯船を作っている。油屋での宿泊は3泊以上からで、病を癒すため長逗留する常連客が多く、全国各地から訪れる。

「油屋」のご主人藤井さんは「日本遺産三徳山三朝温泉を守る会」の会長。「せっかく日本遺産に登録されたのですから、この機にかつての賑わいを再びと意気込んでいます。そのための知恵を募っているところです」。

 「温泉が湧き出るのも神仏の力のなせることと考えていたのでしょうね。実際、温泉の治癒効果があったはずです」と話す藤井会長。三朝とは「三晩泊まって三回朝を迎えると元気になる」という評判がその名の由来だそうだが、これは地元で伝わる話。が、それほどに三朝温泉には効能があるという例え話のようだ。

 湯は世界屈指の高濃度のラドンを含む放射能泉である。ラドンとはラジウムが崩壊する時に生じる気体で、放射線量は自然界で生じるごく微量なレベル。人体に無害で、微量の放射線はむしろ細胞を活性化させ、免疫力を高める効果があり、ラドン泉は健康に良い影響を与えるということは、岡山大学などの研究で科学的にも検証されている。

 三朝温泉の効能は名の由来のように、治癒効果があり、古くから湯治の湯として知られ、今も湯治治療を目当てに訪れる人が少なくない。藤井会長は江戸時代から続く「油屋」の主人で、今では少なくなった湯治宿の伝統を守る。油屋には、病気治癒や療養のために自炊で長期逗留する人が全国からやって来るそうだ。

老舗旅館に明かりが灯ると三朝川にぽつりぽつり明かりが映る。山に囲まれた河畔の温泉の情緒。カジカガエルの生息地としても知られ、軽やかで涼し気な鳴き声が耳に心地いい。

 三徳山三佛寺の山岳修験の「六根清浄」と、三朝温泉で心身を癒す「六感治癒」とは一対のように響き合う。感性を研ぎすます「六根清浄」に対し、「観、聴、香、味、触、心の六感を癒すのが六感治癒です。世界的なラドン泉に、旅館のおもてなしと味覚、それに豊かな自然環境で心身を癒す。同時に三朝温泉の活気を取り戻すための願いでもあります」と藤井会長は熱く語った。

 開湯から850年を経て、人々はずっと大切に温泉を守ってきた。禊と清めの湯の伝統を守り、大菩薩のお告げどおり、人々の病苦を救う湯治の伝統を守っている。川のせせらぎ、カジカガエルの鳴き声も守り継がれてきた三朝の自然だ。そして三朝温泉を去る日、再び三徳山へと向かった。麓の遥拝所から山を仰いだ。

 峻険な断崖に建つ文殊堂、地蔵堂、そして投入堂。山の険しさと冷気でその姿は一層、峻厳で気高く見えた。

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