エッセイ 出会いの旅

南 伸坊
1947年東京生まれ。イラストレーター、装丁デザイナー、エッセイスト。近著に、『おじいさんになったね』(海竜社)、『本人遺産』(文藝春秋)、『ねこはい』『ねこはいに』(青林工藝舎)、共著に『老人の壁』養老孟司×南伸坊(毎日新聞出版)などがある。

神戸に鉄人に会いに

 旅行するのはたのしい。でも旅行した思い出を、当人同士で話すのもたのしいものだ。そんなにたのしいのなら、のべつに思い出してたらよさそうだが、そうしないからたのしいのかもしれない。

 TVに、以前に旅行した先が映っていたりすると「あ、出雲だって、いったね、いったね。」のように思い出すのだ。出雲にいったのは仕事でだった。私が大国主命になっていったのだった。

 なんとかという海岸で、ウサギのぬいぐるみに話しかけてる写真とか撮ったねー、撮った撮った、バカだよねー、などのように話す。たのしい。

 先日、インターネットで「鉄人28号」を検索していたら、「鉄人、新色で塗り変えてます!」ってポスターみたいなのが出てきた。

 知らない人は、知らないだろうが、鉄人28号は、いま神戸にいる。2009年10月からだから、かれこれ7年間、いまにも飛んでいきそうな格好で、新長田商店街のアーケードんとこをぬけた公園にいるのである。

 7年経って、ペンキがはげたりしたので、塗り変えるそうだ。いぜんはやや落ち着いたブルーグレーだったが、今度はコバルトブルーの「新色」で塗り変えるらしい。

 ツマが「鉄人28号!行ったねえ神戸」といった。「ああ、行ったな、何年たつかなあれから」と、私がいった。パソコンに、その時の写真が入っているからすぐわかる。

 「2012年てことは4年前かあ」
あの時はまだ、ペンキは全然新品同様だったな、それでもできて3年はたってたわけだよな、なかなかよくできてたよな、そうそう。

 と、われわれは、鉄人のできに関しては、かなり好意的だ。もともと鉄人、鉄人だったのはツマの方だ。ある日「鉄人28号に会いに行こう!!」とツマから提案があったのだ。

 そういえば、阪神・淡路の震災の後に、神戸に鉄人28号(ホンモノ大)ができたって話は聞いていた。ツマは、でかい像が大好物。大仏も蔵王大権現も好きだ。映画『シン・ゴジラ』では、ゴジラがそのまま凍結されてたけど、ほんとなら、あれも見に行きたがる。

 神戸に2泊して、1日目は新しくできた横尾忠則さんの個人美術展を見に行くことにした。はりきって早く出すぎて、まだ開いていないから、となりの神戸文学館で、時間をつぶしたが、まだ開いていない。

 そこで隣の動物園に入っていったところ、なんと、入ってすぐにパンダがいる!しかもそのパンダがあまりに気さくなパンダなもんで、われわれは感激してしまった。なにしろ、パンダなのにわれわれを見つけると、笹をもって近づいてくるなりそこでパンダ座りをして、コッチを見てる。「写真、いいんすか?笹、食いましょうか?」みたいな様子だ。ものすごくサービスがいい。もちろん写真は撮った。が、私がツマを撮ろうとした頃には、ちょっと性格がせっかちなのだろう「ほな、よろしか?」くらいなようすで、さっさと奥の方へ帰ってしまった。ツマがポーズした写真には、パンダの去っていくとこが写っている。

 美術館も食べ歩きも、マンゾクして帰ってきた夜。ホテルでツマが咳をする、喉も痛い、熱も出てきた。どうも風邪を引いてしまったらしいのだ。とにかく、明朝までになんとか治して、と早めに寝た。

 翌朝ツマの風邪が、さらにひどいことになっていた。声もかすれている。顔がボーッとしている。思わず私が「じゃ、無理しないで、鉄人はこの次ってことにするか」というと。

 「何いっちゃってんの?何のために来たと思ってんのよ!!」とムチャクチャ元気だ。

 結局、鉄人にはちゃんと会いにいった。すごくよかった。来てよかった!!とその時もいっていたが、今もツマはいっている。「神戸、いったねー。鉄人、カッコヨカッタねー」そうだな、よかったなと私も思ってる。

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