旬膳暦

黄ニラ

岡山県岡山市

歳月と情熱をかけて育む黄金色の輝き

岡山市中心部から北へ約10km、旭川下流域の牧石地区は、「黄ニラ」の一大産地として名高い。
川沿い一帯に広がる畑では、採れたてのみずみずしい黄ニラが天日干しされる風景に出会う。
古くは、地元だけで消費されていたというが、今や高級食材として全国にその名を馳せる。
早春に味わいを増すという、黄ニラの旬に触れた。

錦糸卵の代わりに茹でた黄ニラを彩りよく散らした「黄ニラばら寿司」。黄ニラのほのかな甘みが酢飯と好相性の新しいふるさとの味。

適地適作ならではの品質を誇る

 黄ニラは、一般的な青ニラともとは同じ品種。ニラの葉には緑の色素と黄色の色素が含まれ、日光が当たると光合成によって葉が緑色になり、光を遮断し葉緑素の発生を抑えて育てると黄色の葉が成長する。この軟白栽培という方法で育った黄ニラは、青ニラよりも水分が多くやわらかで、ほのかな香りと甘み、しゃきしゃきした歯触りを特徴に持つ。主に、中華料理などの高級食材として流通しているが、生産量は青ニラに比べごくわずか。そのため、“幻のニラ”ともいわれている。

 全国生産量の7割を占める岡山県の中でも、岡山三大河川の一つ、旭川の下流に広がる牧石地区が黄ニラの主力産地。水はけの良い砂壌土[さじょうど]と水量豊富な旭川の伏流水に恵まれたこの地域では、約30軒の農家が県の生産量の大半を担う。歴史は古く、1872(明治5)年頃には栽培されていたという記録があるが、伝来の経緯などは定かではない。もともと、牧石地区では大根や人参が作られ、黄ニラは農閑期の冬場の作物であった。現在のような、ビニールハウスや遮光シートもなかった時代、1mほどの穴を掘って作った暗い「室[むろ]」の中に株を並べ、栽培していたと伝わっている。その頃は地域で消費されるだけであったが、周年栽培の技術が確立した約30年前からは出荷を開始。中華料理ブームの影響もあって良質の黄ニラは順調に販売量を伸ばし、今では岡山の特産品として主に関東方面や京阪神へと出荷されている。

丹精込めて育む黄ニラの個性

 日光を遮断して育てる黄ニラにとって、成長には株の養分が頼りになる。そのため、黄ニラの栽培は、まずは強くたくましい青ニラを育てることから始まるという。種を撒き、2年近くかけて青い葉を大きく茂らせ、株に栄養を蓄える。育った青ニラは収穫せずに枯れさせ、根元から刈り取った後、黒いシートをトンネル状にかぶせて光を遮る。その後20〜25日、太陽を浴びず株の養分だけで成長した葉は、淡い黄色をまとっている。この間、わずかな光が当たっただけで葉は緑色になるため、何重にもビニールをかけ、収穫の際も長く日光が当たらないよう、細心の注意を払う。美しい色と繊細な風味は、農家の地道な努力が支えている。

 香りがやわらかく、クセのない黄ニラは、他の食材の味を引き立て、和洋中どんな料理にも合う。産地では、そんな黄ニラの魅力をもっと発信しようと、作り手自らがPRにも乗り出す。その中心となっているのが、市農協青果物生産組合黄ニラ部会で副部会長を務める植田輝義[てるよし]さん。名刺の肩書きには「黄ニラ大使」とある。全身黄一色で農作業を行い、地域のイベントにも出向く。そのかいあって、郷土料理のばら寿司と黄ニラを組み合わせた「黄ニラばら寿司」は岡山の新たな名物料理に。さらに、サラダや卵とじ、湯葉巻きなど、多彩な食べ方も広がっている。

 通年おいしく食べられるが、2月〜3月が一番やわらかく、太くて甘い。日差しのように暖かな黄色が、春の食卓に華やぎを添える。

やわらかく繊細な野菜ゆえに収穫は全て手作業。ゆっくりと鎌を入れ、一株ずつ丁寧に刈り取る植田さん。その後、水洗い、天日干しへと慎重に作業を進める。

行儀良く並んだ黄色の束が、晴れの国岡山の青空に映える。冬は2時間、夏は30分ほど太陽の光を浴びると、緑の色素が壊れて黄ニラはいっそう色艶を増す。

軽く湯通しし、ポン酢で味わう「おひたし」は、独特の上品な香りやしゃきしゃきと小気味いい食感が楽しめる一品。

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