兵庫県の中央部、やや東に位置する山々に囲まれた丹波市。市内の西部に当たる氷上地域は、日本標準時子午線が通る町で、本州一低い中央分水界があることでも知られている。
稲畑人形は、その丹波市氷上町稲畑で作られている土人形で、江戸末期に、この地に暮らしていた赤井若太郎忠常が京都の伏見人形に模して作ったのが始まりと言われる。赤井粘土と呼ばれる、美しい青色できめ細かく粘りの強い良質の粘土を用いて作られた人形は、素朴で親しみがある。お多福や舞妓、金太郎など200余種もあり、代表格の「天神さん」は子供が賢く、健やかに成長することを願って作られたもの。丹波地方には初節句に天神などの土人形を贈る風習があり、近年では合格祈願に贈られることも多いそうだ。
明治時代の最盛期には、農閑期の副業として集落内の7、8軒で作られ、丹波地方だけでなく播州(兵庫県西部)や但馬(兵庫県北部)地方まで広く売られていたそうだ。現在は5代目の赤井君江さんが伝統を引き継いでいる。