九州、山陽新幹線の直通運転を目前に迎え、早くも大勢の利用客で賑わう駅売店に手嶋の姿があった。
「サービスの質は数値化できないのが難しいところです。笑顔の接客やお客様に不愉快な思いをさせないのは当然で、それ以上のサービスとは? といつも問いかけています」。手嶋は博多駅のキヨスクに配属されて以来、30年近くにわたって売店と共に歩んできた。昨年10月には、これまでの勤務実績や接客サービスが評価され、社内で新しく設立されたスーパーバイザーに任命された。
「スーパーバイザーという役職はそれまで当社になかったので、何をどうするべきなのか、まったくの手探り状態からのスタートでした」。手嶋の現在の主な業務は、新幹線博多エリア全13店舗の管理・運営・接客指導である。なかでも手嶋に求められているのは各店舗における接客サービスの向上。新しく配属される新人スタッフの研修や育成をはじめ、各店舗におけるサービスの向上がスーパーバイザーの肩にかかっている。
「新人スタッフが店舗に立った時の不安をどれだけ取り除くことができるかが重要で、一番難しいところです」。

各店舗のマネージャーたちとの販促会議。意見を言いやすい場を作ることが大切だという。
よいサービスとは何か。手嶋には忘れられない思い出がある。「かなり以前のことですが、私どもの不手際で、お客様がご購入された商品を入れ忘れて送付いたしました。後からお叱りの連絡を受け、すぐに商品をお送りしました。それから数日後、その時の対応が良かったと、お客様からお礼のお手紙を頂戴いたしました。さらに手紙には、“次からは必ずあなたのいるお店で買います”という、本当に嬉しいお言葉を頂戴いたしました。その時の感激は今も鮮明に覚えています」。この仕事は人と向き合い、人と関係を築いている。その出来事から手嶋は大きな教訓を得ることとなった。

おすすめ商品のディスプレイをチェック。女性ならではの繊細な心配りが、商品に彩りを添える。
「いつ頃からか、“お客様はどう思われるか”つまりお客様目線で考えることがサービスの基準だと考えるようになりました。それは経験や勤務歴とは関係なく誰でもできることだと思います。スタッフ一人ひとりの気づきや、お客様に対する心づかい、その積み重ねが全体としてサービス向上につながるのではないでしょうか」。

店舗の巡回では商品の陳列やディスプレイを常にチェック。思案されているお客様には積極的に声をかける。
手嶋には接客指導という仕事の他に、各店舗の運営管理という大きな責任もある。各店舗のサービス向上と合わせて、商品管理や販売技術の指導もスーパーバイザーの重要な課題だ。
「マネージャー時代から“これを売りたい”と思ったら、自ら目標を立てて、それを達成することを課してきました。ちょっとしたディスプレイの工夫で、売れ行きも変わります。自ら目標を立て、そして達成する。そうすると仕事はどんどん楽しくなるんです」。自身が経験からつかんだ仕事の楽しみを他のスタッフたちとも共有したい。たとえば手嶋が管理する店舗では、博多の味を詰めたオリジナルラーメンセットなどをスタッフたちと考案し、お客様から好評を得ている。
「お客様に喜んでいただける商品を届ける。“ありがとう”と言ってもらえる店づくりをする。そのためには連携プレーやチームワークが欠かせません」。
夢は“接客サービス日本一と言われるような博多駅の店舗にしていくこと”と語った手嶋。その思いはすでにスタッフ一人ひとりへと直通しているようだ。

新人スタッフにPOSレジの操作法をレクチャー。スタッフの不安を払拭することを心掛けている。

食品の賞味期限は厳重にチェック。食の安全を守ることは、すべてのサービスに優先される。

来春の九州新幹線博多駅乗り入れに伴って、新幹線中央改札内にオープンした大型土産店鋪「おみやげ街道博多」。