江戸時代に中継貿易港として栄えた大崎下島の御手洗。風待ち・潮待ちの港町を象徴する「高燈籠」が当時の面影を今に伝えている。
行き先不明の不思議な列車が出発するのは、深夜零時の大阪駅。都会の闇の中を抜けて走り出す夜行列車には、それぞれ心に傷を持つ5人の男女が乗り込んでいた 。映画『旅の贈りもの0:00発』のオープニングは、不安や孤独を抱えながら、夜汽車に乗り込む旅人の姿が描かれている。その列車として登場するのが、長年お召し列車の牽引機として活躍した電気機関車やレトロな雰囲気を持つ1等展望車。スクリーンに映し出された名列車の優雅な姿は、鉄道ならではの旅情や郷愁を醸し出しストーリーを盛り上げていく。
翌朝、列車は「風町[かざまち]」という田舎の港町に到着する。「案内看板が立つだけの無人駅」という設定に選ばれたのは、山陰本線飯浦[いいのうら]駅(島根県益田市)。そして、旅人たちを温かく迎えてくれる「風町」のロケ地となったのは、大崎下島(広島県呉市)や真鍋島(岡山県笠岡市)といった古き良き時代の面影を残す瀬戸内の島々。旅人と住民とのふれあいなど、多くのシーンが撮影された大崎下島の御手洗[みたらい]地区は、江戸時代には北前船の風待ち・潮待ちの港として栄えた歴史ある町。劇中には、趣ある町並みをはじめ、高燈籠が立つ千砂子波止[ちさごばと]などの景勝地も登場する。山を抱き、海に臨む自然美あふれる原風景は、心温まる映画の舞台として物語を彩っている。

江戸時代の町並みが残る常磐町通りには、本瓦葺きと白い塗り壁の伝統的家屋が建ち並び、風情を醸し出している。

「風町」の駅舎に選ばれた山陰本線飯浦駅付近からは、日本海を望むことができる。
人が旅を通して自分自身を見つめ、再生していく姿を描いた本作品は、鉄道が重要な“役どころ”となっている。脚本段階から、制作側とJR西日本のスタッフで車両のイメージを膨らませ、決まったのが3両編成の特別臨時列車。旅客用電気機関車の最高傑作とされるEF58形150号と、戦前に特急「富士」の1等展望車として活躍したマイテ49形2号に、SLやまぐち号の明治風客車スハフ12形702号を連結させ、鉄道ファン憧れの編成が登場した。臨時ダイヤでの走行シーンが広範囲のため、大阪、広島や岡山のダイヤ作成担当者が集結し、撮影のために緻密なダイヤを数日かけて作成した。撮影の間は古いEF58ゆえ、ロケの合間に専任技術者によるメンテナンスが行われたことも、この映画ならではのエピソード。
飯浦へ向け、特別臨時列車が大阪駅を発車したのは、大阪駅が営業を終えたまさしく深夜。出発シーンは、カットなしの長い映像となるため、交通科学博物館(大阪市)でのリハーサルをはじめ、列車を動かすための安全確認要員の配置など、関連する沿線の支社をあげての協力体制となった。出発後、先回りした撮影スタッフによって主要駅のホームからも走行シーンを撮影。広島山間部、山陽本線本郷駅から河内駅間では明け方の美しい走行シーンが空撮によりカメラに収められた。ふたたび表舞台に立った名列車は、登場人物の一人となって旅の魅力を贈り届けている。
スマートな流線型のスタイルを持つEF58が、格調高いマイテ49を牽引して深夜の大阪駅を出発した。
新山口駅では車庫内に足場を組み、合成用ブルーシートを張って実際に走行する車両では撮影できないシーンを収めた。
飯浦駅では、臨時列車の到着シーンや通常車両を使っての帰りのシーンなどを撮影した。
- 監督:
- 原田昌樹
- 脚本:
- 篠原高志
- 出演:
- 櫻井淳子、多岐川華子、梔i英明、大滝秀治、樫山文枝ほか
- 公開:
- 2006年10月
- 配給:
- パンドラ
偶数月の第3金曜日、深夜0:00分に大阪駅を出発する“行き先不明”の列車。大勢の乗客でにぎわう車内には、悩みを抱えた老若男女が乗り込んでいた。翌朝、列車がたどり着いたのは「風町」という小さな港町。静かな佇まいを見せる古い町並み、そこで暮らす心やさしい人たちとの出会いによって、彼らの心も次第に変化していく…。鉄道の旅によって大切なものを手に入れていく物語。