Blue Signal
November 2009 vol.127 
特集
原風景を行く
出会いの旅
うたびとの歳時記
鉄道に生きる
美味礼讃
鉄道に生きる【別所 雅章[べっしょ まさあき](49) 運輸部 運転士課 乗務員指導監】
運転士として培った
技術と経験をもとに、
次代に続く運転士を育む匠を訪ねた。
自身の経験と確信をもとに、 運転士の育成にあたる
ずっと理想の運転士を 問い続けてきた
 「小学生の頃にSLが走っているのを見て、将来は絶対に運転士になるんだと決めました」。そう語る別所が、夢であり憧れであった運転士になったのは今から25年前のこと。入社してから8年、整備係、機関助士、機関士の経験を経て、金沢運転所ではじめて運転士として乗務することに。

 「まだ運転士として見習いだった頃に、同乗していたベテランの運転士からブレーキに関するアドバイスを受けたことがあります。同じ運転台にいながら私が予測できなかった制動に関することをベテランの運転士は冷静かつ正確に把握していて、自分との技術の差に驚かされました。その経験があってから、運転の技術はもちろん、理想の運転士とはどうあるべきかを常に自分自身に問うようになりました」。

 見習い期間に受けた薫陶を糧とし、別所は運転士として15年にわたってハンドルを握り続けてきた。その間に培われた運転技術、知識が評価され、平成17年には運転士を指導する乗務員指導監に抜擢された。現在は金沢支社に所属する約450名の運転士たちの技術と知識向上のために、運転区のリーダーである係長や、個々の運転士たちの育成にあたっている。

イメージ
 
技術はもちろん、 知識、意欲も高めたい
 乗務員指導監の主な業務は、運転時にミスをしてしまった運転士に対しての再発防止教育、運転士の定期研修、フォロー研修、運転区係長の指導・育成などである。運転に関する技術的な指導はもちろん、安全に関する意識や責任感を養う安全教育にも技術指導と同様に力を入れて取り組んでいる。

 「運転士に求められる能力は大きく三つあります。一つは技術、もう一つは知識、それと意識です。この三つのトータルバランスを高めることが私の使命だと思っています」。例えば運転シミュレータを使っての技術指導や、車両に添乗して指導を行う場合、別所が最も注目しているのは運転士の目だという。「運転士の目を見れば、運転士がどこを見ているか、何を考えているかが分かります。注意配分、予測、行動のすべてが目に集約されるので、外から見えない運転士の意識(心)も目を見ることで把握できます」。
「がんばっています」 という声が何よりうれしい
 運転士となって間もない頃から、別所が自身に問い続けてきた理想とする運転士。その問いに終わりはないが、乗務員指導監となった現在、別所は指導する運転士たちに、自身の経験から学び、確信した二つのことを伝えている。

 「一つは自分を守れなくては、お客様を守れないということです。運転士は自分の健康を守り、仕事に対する誇りを守り、勤勉を守らなければならない。自分を守るとは、言葉を変えると自律ということになるかもしれません。食事や睡眠をしっかりとるなど、基本的な生活習慣を大切にすることも自分を守ることに直結します。もう一つは、運転士として、何でもよいので一つ光ることを探してほしいと言っています。一つ得意なことができれば、それが自信となり、さらに運転士としての成長に必ずつながります。じっくり、やれることを確実にやっていけば、顔つきや言動まで変わるものです」。

 指導を受けた運転士たちから、「その後もがんばっています」という声を聞くことが何よりうれしいという別所。運転台を降りた“運転の匠”は今、人を育て導くプロとして、その手腕を振るっている。
イメージ
列車の運転操縦について探究心旺盛な社員を集め、科学的な運転操縦理論を指導する「運転操縦理論セミナー」。新たな学問体系を鉄道界に定着させていこうとする、日本でも例のないこのセミナーにおいて、別所は講師を務める。
イメージ
運転シミュレータでのトラブル対応訓練では、輸送指令の役割を務め、実際の状況同様に運転士とやり取りをし、実践的な指導を行っている。
このページのトップへ