Blue Signal
November 2009 vol.127 
特集
原風景を行く
出会いの旅
うたびとの歳時記
鉄道に生きる
美味礼讃
原風景を行く 小浜線
輝く海を車窓に、 御食国[みけつくに]若狭を往く 小浜線は、福井県敦賀駅と京都府東舞鶴駅までの 84.3kmを若狭湾に沿って走る。 沿線には、変化に富んだ海岸線の風景、 豊かな自然の恵み、そして若狭の歴史を 物語る史跡が数多く点在する。
三方五湖の絶景と鯖街道の宿場町
 若狭の歴史は古い。「わかさ」とは、朝鮮語の「往来」を意味する「ワカソ」が語源ともいわれ、古代から日本海を通じて、大陸や朝鮮半島と奈良や京の都とをつなぐ交流、交易の重要な中継地であったほか、朝廷や天皇に御贄[みにえ](食材)を献納する「御食国」とも呼ばれた。

 そんな歴史を秘めた若狭路を、小浜線の普通列車はのんびりと走る。起点は敦賀駅。単線で、北陸本線としばらく並走した列車はやがて西へと進路を変え、敦賀半島の付け根の山中を走る。トンネルを抜けると、車窓に水平線が見えた。青々とした若狭の海だ。まもなく美浜駅である。

 この辺りから変化に富んだ風景が次々に現れる。美浜駅を過ぎて気山駅、三方駅の間は電車が進むに従い、次々に三方五湖が湖面を見せてくれる。「若狭なる三方の海の浜清み…」と万葉歌にも詠まれる三方五湖は若狭の代表的な景勝地で、五湖を眼下に一望する梅丈岳からの眺めは格別の絶景だ。
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梅丈岳の山頂から見下ろす三方五湖
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三方五湖の夕景
 海岸線を離れて内陸へと向かう。周囲には田園風景がつづく。上中駅から南東に足を向け、南にひかえる山を越えると琵琶湖畔の高島市。街道は「鯖街道」の一つで、道中の熊川宿は江戸時代の宿場の景観がそのまま残っている。

 その先の新平野駅から松永川を辿ると、深い樹林の中に明通寺の国宝伽藍がある。若狭には名刹や重要文化財が数多く、寺社は130余もあって国宝を巡る古刹散策コースが人気なのだそうだ。敦賀駅を出発しておよそ1時間、電車は小浜駅に到着した。
 
 
 
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気比の松原は敦賀の代表的な景勝地。約1万7千本の松原は、日本三大松原の一つとして知られる。
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「けいさん」の愛称で親しまれる氣比神宮は702(大宝2)年の建立といわれ、北陸道の総鎮守。高さ11mの鳥居は重要文化財で、日本三大木造鳥居の一つ。
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熊川宿は若狭から京都を結ぶ重要な宿場。街を通る道筋は鯖街道の一つ。江戸時代の面影を残す街並みは上、中、下の街区に分かれている。
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小浜の明通寺。坂上田村麻呂が806年に創建したと伝えられている古刹。本堂、三重塔は国宝。
イメージ 若狭と奈良をつなぐ鵜の瀬。奈良東大寺二月堂の「お水取り」神事の水は、鵜の瀬から10日かけて二月堂の「若狭井」に湧出すると言い伝えられている。今も若狭では毎年「お水送り」神事が行われている。
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車窓一面に広がる「ワカソ」の海
 小浜は、若狭の中心都市である。若狭湾の内湾の小浜湾の奥に位置する港は、万葉の時代から変わらぬ天然の良港だ。しかも沖合の海は寒流と暖流がぶつかる魚種豊富な好漁場。この港が、交易と漁業の町の繁栄を支えてきた。駅前通りを北に歩くと港に出る。
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小浜漁港
 全国的に知られるのは若狭かれい、若狭ぐじ、鯖…。浜焼き鯖は港町ならではの絶妙な焼き具合だ。水揚げされた鯖にひと塩して夜を徹して京に運んだ「鯖街道」の起点が、商店街のなかに「鯖街道資料館」としてある。特産はほかに若狭塗、若狭塗箸やめのう細工。港に臨む古い家並みと寺の多い町の佇まいの中に、小浜の繁栄の歴史が見え隠れする。
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鯖街道資料館のある小浜市いづみ町の商店街通りは「鯖街道」の起点。鮮魚店頭で売られている浜焼き鯖はご当地名物。
 再び小浜線の旅をつづける。小浜駅を出てトンネルを抜けると、風景はそれまでと一転する。勢浜駅までの列車の窓一面に広がるのは、内外海[うちとみ]半島と大島半島に囲まれた小浜湾の海だ。気分が晴れ晴れするようなパノラマである。この海は日本海につづき、はるか向こうには朝鮮半島がある。古代のワカソの海の風景が、目の前にある。
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小浜駅を出発して山あいを走っていた車窓には、しばらくすると小浜の海が広がる。(小浜駅〜勢浜駅間)
 勢浜駅を過ぎると、静かに波うつ白砂の海浜が10kmにおよんで長々とつづく。白浜や和田浜などの海水浴場が点々とし、シーズンともなれば小浜線の車内は海水浴客で賑わう。行く手正面にピラミッドと見紛う姿をした青葉山が見えると、やがて福井県の西の端の青郷駅で、吉坂トンネルを抜けると京都府に入る。
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若狭本郷駅の駅舎は、「花の万博」で使用したSLの「風車の駅」を移築したもの。
 松尾寺駅の次が終着の東舞鶴駅。舞鶴は、かつて海軍の鎮守府が置かれた軍都で、当時のレンガ造りの倉庫や建物が歴史的建造物として町のシンボルになっている。敦賀から小浜を経て約2時間、小浜線の旅は若狭の海と歴史の旅である。
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舞鶴のシンボルは歴史的建造物である12棟の赤レンガ倉庫群。近代建築の貴重な遺産である。
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