Blue Signal
September 2009 vol.126 
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うたびとの歳時記
鉄道に生きる
美味礼讃
鉄道に生きる【松岡 成康[まつおか まさやす](57) 鉄道本部 車両部 車両設計室長】
長年にわたり、在来線、新幹線の
車両設計を担ってきた匠を訪ねた。
安全性・走行性・快適性、車両の全てを設計する
車両における課題を見つけ、提示する
 JR西日本の在来線および新幹線の車両の基本設計を担っている車両部車両設計室。基本設計とは、たとえば在来線で新型の車両を導入する場合、「輸送量はどれくらい必要か」、「どのようなお客様に利用されるのか」といったニーズの検証をする。それを基に鉄道システムとして、外観デザイン、インテリア、走行装置、ブレーキ装置、保安装置など、ニーズの実現に向けた車両製作の基となる基本仕様を決定する。

 車両設計室長の松岡は、「いわば我々は車両に関わる課題を見つけ、提示する部門です」と語る。その課題は安全性、安定性はもとより、製造コスト、操作性、保守性、さらには快適性など実に多岐にわたる。

「課題を見つける上でなにより重要なのは、実際にご利用になるお客様や車両を扱う人の要望を、敏感に感じることができるかです」。このユーザーの要望を「敏感に感じる」という言葉には、松岡ならではの設計思想が込められている。

 「車両設計において自分は何を解決し、何を実現したいのか。設計という仕事は、他者に対する思いやりや感性、社会に対する視点が無意識に顕在化するものです」と、松岡は語る。

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各担当者から送られてくるさまざまな質問にも迅速に回答する。
 
利用者の願いを設計者として実現する
 車両の設計に携わること約30年、これまで幾つかの車両を除いて、在来線のほとんどの設計を手掛けてきた。平成10年に登場した『サンライズエクスプレス』も松岡の手掛けた車両のひとつだ。寝台車の個室は、電気配線や空調などの設備が部屋ごとに必要となる。ならば、部屋を作ることが専門のハウスメーカーと提携はできないか、と考えた松岡はハウスメーカーと交渉。結果、電気配線などの課題をクリア、さらにインテリアに木質系の材料を鉄道車両として初めて採用し、温もりのある空間を実現。同時に、新工法の導入によりコストも工期も大幅に短縮することができた。

 「列車で眠ることを前提に、違和感のない空間とはどうあるべきかを考えた時、木だと全然違和感がなかったんです。それに、夜空を眺められる大きな窓も欲しかった」。利用者の要望を敏感に感じること、『サンライズエクスプレス』にも松岡の設計思想は息づいている。
自覚と自信が、新しいアイデアを生む
 現在、車両設計室には43名のメンバーが在籍。設計を志し入社してきた若手のメンバーも多い。若手には、「社会人は答えを創らないといけない。答えは一つではない。自分で答えを創り、自分で決めてこそ、責任が持てる」と力説する。若手に限らず、設計室で常に言っていることがある。「よく調査・検討し、自覚して、判断し、それで責任を持つ。悪かったら直す、この5つを連続しろ」ということだ。

 設計という仕事について、「自分が考えたことが世の中で実現でき、しかも世の中の役に立つ、ものすごい仕事」と語る松岡。自分の考えが設計を通じて具現化される以上、自分の負うべき責任も重いということを設計室のメンバー全員に徹底して伝えている。

 「メンバー全員が責任を自覚し、自信を持って生きてくれたらうれしい。あいつはあんなことやったか、オレとは違うなって感心したい。それぞれが個人を確立し、自分のなかに自分を見つけて生き抜く、そこに独創的なアイデアも生まれてくるのではないでしょうか」。

 車両設計の匠の脳裏には、後に続く者たちが自分らしく活躍する未来が描かれている。

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設計室のメンバーと、車両に搭載されるシステムを図面をもとに検討する。
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東京〜高松間、東京〜出雲市間で運行している『サンライズエクスプレス』。寝台列車の魅力を追求し、 移動・睡眠・プライベート空間を同時に満たした。
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インテリアに木質系の素材を採用し、温かみのあるライティングで、落ち着きと親しみの空間を演出。
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在来線、新幹線の設計を行っている車両設計室。次世代の設計を担う若手のメンバーも多い。
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