Blue Signal
September 2006 vol.108 
特集
駅の風景
出会いの旅
うたびとの歳時記
鉄道に生きる
花に会う緑を巡る
鉄道に生きる【村井 一夫[むらい かずお](55)高岡鉄道部 工務科長】
列車の安全と快適性を支える線路。
ただ頑丈なだけでなく、繊細で精度の高い構造物でもある。
環境の変化にも目を光らせる保線のプロを訪ねた。
ミリの精度で線路を保守する
相互協力で業務を推進
北陸本線高岡駅から山側に29.6km延びる城端線、海側に16.5km延びる氷見線。高岡鉄道部工務科では、この2つの線区の線路と信号の保守管理を行っている。

村井一夫は、38年間にわたって線路の保守一筋に歩いてきたベテランとして、工務科長の任務に携わる。

「城端線と氷見線をあわせて46kmの区間に、踏切が100カ所もあるんです。これだけ数が多い線区はなかなかありません。その踏切などを含めた線路と関連設備の保守管理を行うのが私たちの仕事です」と村井。線路関係を担当する「施設」、信号関係を担当する「電気」と、2つの部署に分けられてはいるが、相互に協力しあって業務を行っている。

「限られた要員の中で効率よく保守管理を行っていくためには、系統を越えたそれぞれの応援は不可欠です。お互いの仕事を理解し合ったうえで「保線」というひとつの目的に向き合います。互いに勉強会なども行っています」と、列車の安全運行を支えている。
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紙やパソコンの上を走るのではない
鋼鉄製のレールは、夏と冬の気温の違いによって伸縮が生まれる。そのため、レールの継ぎ目には遊間というすき間を設けているが、気温が上がりすぎると遊間以上にレールが膨張する場合があるため、レール温度が一定温度に達すると、村井たちは即座に線路巡回を行い点検をする。

「富山は夏と冬の気温差が大きいですし、山側の城端線と海沿いの氷見線でも環境の違いがあります。冬場は除雪作業もありますし、常に線路の状態を把握して対応しなければなりません。そのためには運転士との情報交換も大切です。私は常日ごろから後輩たちに“列車は紙やパソコンの上を走っているわけではない”と言っているのですが、自分の目でしっかり線路を見て、線路の状態を見極めることが大切です。たった1ミリの違いが安全を左右する場合もありますからね。私たちは、そのミリ単位の保守を行うのが仕事なんです」と村井は話す。
検査結果をどう判定するかが肝心
保線の仕事は、線路以外の周辺環境についても目を光らせる必要がある。豪雨などによる災害予知もそのひとつ。従来は流れるはずのない場所に雨水が流れていたり、逆に流れているべきはずの水が流れていなかったり、そういった予兆をチェックすることで土砂災害が回避される場合がある。

「たとえば、線路の近くに建物ができたために日照や風の流れが変化して、レールの温度が上がるということもあります。日常から線路の状態を把握していないと、この変化には気付けません。高岡鉄道部では各種の検査や作業を間に入れることで、1カ月に1回は線路を見られるようにして保線の精度を高めています。そして最も大切なのは、検査した結果をどう判定するかなんです。実は、そこからが本当の保線のプロの仕事なんですよ」と村井。

きめ細かく精度の高い検査はもちろん、その検査結果と、それを判断する「作業者の目」が両立してこそ、線路の安全と信頼を守ることができるという。保線のプロとしての責任と自覚の重さを表す言葉だった。
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線路の高低(レール頂面の長さ方向の凹凸)や軌間(レール間の幅)、水準(左右レールの高さの差)などの変位量を検査する高速軌道検測車を年2回走らせ、チャートによってミリ単位で線路状態を確認する。
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「自分の目で線路を見る力をつけること」若手社員にも日ごろからそう話す。
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線路の中でも最も精度の高い検査を要する分岐器(ポイント)部分。軌間・高低などの変位、レールの摩耗・傷・腐食、可動部分の密着度などの機能、部品を分解しての細密検査の4つの着眼点によって検査する。
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標準ゲージを手に線路の軌間や水準の変位を確認する。
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