旬膳暦

富山トマト

富山県富山市

ふるさとの夏に出会う珠玉の実り

立山連峰の勇姿をはるかに望む田園地帯。
都市近郊型の農業がさかんな八ヶ山[はっかやま]地区は、県内有数のトマト産地としての歴史を誇る。
建ち並ぶハウスの中では、地場産の「富山トマト」が色づき、収穫の時を待つ。
5月下旬から7月下旬、県内だけに出荷されるという地産地消の豊かな実り。
地域の食卓に夏を運ぶ富山トマトの旬を訪ねた。

鮮度が自慢の富山トマトは、身が締まり果肉は瑞々しい。食感とほどよい酸味を味わうには、サラダなど生食がおいしい食べ方。豪快に丸かぶりするのもおすすめだ。

共同体制から生まれた地域ブランド

 富山市八ヶ山地区でトマトの栽培が始められたのは、今からおよそ50年前。八ヶ山園芸生産出荷組合では、いち早くトマトの選果機を導入して集出荷体制を整え、八ヶ山のトマトとして出荷していたという。この地区は、米をはじめ、さまざまな野菜や果樹を生産する複合産地で、中心市街地の台所としての役割を担っているが、1975(昭和50)年には、国の農業構造改善事業を受けて連棟ハウスが建てられるなど、トマトの産地化が進められた。その後、富山市南部の地域にも栽培が広がる中、収穫されたトマトは八ヶ山で共同選果を行うようになる。こうして、1994(平成6)年、富山産トマトの品質向上を目指し、統一ブランド「富山トマト」が誕生した。現在、生産農家は15戸。総面積3haの施設栽培によって育てられた富山トマトは、地区や農協の垣根を越えて八ヶ山の選果場に一元集荷され、年間約240tが県内市場に出荷されている。

 富山トマトは、大玉トマトの代表的品種である「桃太郎」の系統で、酸味と甘みのバランスが良いのが特徴だ。生産農家は、品種の統一をはじめ、栽培方法や時期を合わせた生産に取り組むとともに、「富山地域施設園芸研究会」の会員として、生育状況を確認するためのハウス巡回や栽培管理研修などにも参加する。1年間の収量や品質を評価する“通信簿”もあるそうだ。さらなるブランド力向上へ、県の普及指導員、市場関係者らも含め、産地全体で技術研鑽に努めている。

鮮度にこだわるふるさと限定の味わい

 富山トマトは、ハウスによる半促成栽培※で育てられる。雪どけを迎えた3月、畑にビニールを張り、冬の間に種を撒いて育苗施設で育てた苗を定植する。曇天続きで日照量が少ない厳寒期を避け、太平洋側並みに日照量が増える春からの栽培適期に生育させることで、豊かに実をつけ、味わいも際立つそうだ。富山トマトの収穫が始まるのは、5月下旬。ひと足早い旬を彩る夏野菜は、7月の終わりまで期間限定の味を地域に届ける。

 八ヶ山で、40数年トマト栽培に取り組む澤瀉勉[おもだかつとむ]さんのハウスでは、7,900本もの苗が人の背丈に迫るほどに伸び、青々とした香りに満ちている。富山トマトの全生産農家は、「エコファーマー」として県知事から認定を受けている。澤瀉さんも牛糞や米糠[ぬか]などを混ぜた堆肥で土づくりを行い、殺虫剤を使わず畝[うね]の上に張った製剤テープで防虫対策をするなど、環境に配慮した栽培を実践している。ハウス内には、自然受粉に活躍するマルハナバチが放たれ、花から花へと飛び回る。水や肥料は自動灌水が基本というが、天候や葉の状態を見極め、手灌水でも対応する。また、大きく実らせるための「わき芽かき」や「摘果」作業など、1本1本の樹に手をかけ、愛情を注ぐ。食卓に上る時においしくなるよう、収穫も色づきを確認しながらの手作業だ。姿かたち、重さ別に選別された後、早ければその日のうちに食卓に並ぶという抜群の新鮮さ。地産地消ならではの味わいが、旬の意味を物語っている。

※生育の前半を加温、または保温して栽培した後、生育の後半はハウスの被覆を開放して自然の気象条件のもとで栽培することをいう。

連作障害を防ぐため、病気に強い品種を台木として植え、その上に本来育てたい苗を「接ぎ木」して栽培されている。

葉が上に伸びるように誘引する作業は、「日当たりを良くし、元気なトマトに育てるためのひと手間」と澤瀉さん。交配にはマルハナバチが活躍する。

オリーブオイルとワインビネガーで和えた「トマトうどん」は夏らしい一品。地元ではさまざまなレシピが考案され、カレーにも入れて風味を楽しむ。

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