鉄道に生きる

尾崎 修司 大阪総合指令所 副総括指令長

お客様に近い指令として情報伝達の質を高める

運転見合わせなどのトラブルが生じた際には、旅客情報指令長として情報配信専任者に指示を出し、ホームページなどでお客様に向けた情報をいち早く配信する。

安全・安定輸送に導く司令塔として

「指令の業務には筋書きがない」という尾崎。列車が時刻通り、安全に走行しているかどうか、常に緊張感を持って見守る。

 大阪総合指令所は、京阪神を中心に、西は播州赤穂、東は近江塩津に至るエリアを管轄し、各線区における列車の運行管理や設備監視業務を担っている。指令には「輸送」「施設」「電力」「信号通信」の4系統があり、列車に遅れが生じた場合などにはそれぞれの指令員が関係箇所に指示を出し、一刻も早く平常ダイヤに戻すための業務にあたる。尾崎が所属するのは、列車の運行を管理する「輸送指令」。列車が定時運転しているかを把握し、ダイヤが乱れた場合は復旧手配を行うなど、安全・安定輸送の司令塔の機能を果たしている。

 尾崎は、1982(昭和57)年に国鉄に入社。運転士として大阪環状線や関西本線(大和路線)に乗務した経験を持つ。2001(平成13)年に大阪総合指令所に着任した当初は、「いつ、何が起きるか分からない緊張感と戦う毎日」だったというが、輸送指令の中でも振替輸送などのお客様に関わる業務を受け持つ「旅客指令」を中心に経験を積んできた。現在は、輸送指令業務を全般にわたって指揮する副総括指令長の重責を担う。事故などの輸送トラブルがあった際には、お客様の安全を第一に、一刻も早い運転再開を目指してチームを率いている。

今、必要な情報を、タイムリーかつ正確に伝える

若手の指令員には、ミーティングを通じてさまざまな対応事例なども伝えていく。

 ダイヤが乱れた時には、早期復旧とともにお客様への情報提供が重要となる。約2年前まで、その役割は旅客指令が受け持っていた。しかし、列車に遅延・運休が発生すると、「状況確認のための電話応対や一斉放送など、復旧に向けた指令業務に追われ、遅延状況をホームページで配信するといったお客様への情報提供が後回しになり、歯がゆい思いでした」と、尾崎は当時を振り返る。お客様にとって、「いつ動くのか」という一番必要な情報を適切なタイミングで発信できずにいたのだという。「何とか、現状を改善しなくては」という思いでいた2014(平成26)年、それまでの旅客指令の業務から情報配信に関わる業務を切り離し、情報提供に特化した「旅客情報指令」が新たに設置された。尾崎は、その指令長に着任。早速、ホームページでの情報配信をはじめ、駅の発車標で運行情報をスクロール表示するなどの改善に取り組んだ。予測が難しい「運転再開見込み」についても、「例えば車両トラブルであれば、係員が現場に到着して作業にかからないことには運転再開はあり得ません。逆にいえば、その間は電車は確実に止まっている。お客様には、運転再開は作業開始以降の時間になると、まずはお伝えしています」と話す。指令の立場ではなく、お客様の目線で情報発信のあり方を考える。それが、旅客情報指令としての尾崎の信条だ。

 さらに尾崎は、お客様対応に忙しい駅係員や車掌にも配慮し、メールの文面をそのまま読み上げればお客様案内ができる「お客様向け案内情報」の配信にも着手した。今では振替輸送の情報なども盛り込み、案内漏れの防止にも繋げている。意識しているのは、メールを受け取る係員のその先にあるお客様の姿に他ならない。お客様に近い指令として、地道な取り組みを続けている。

連携によって情報のレベルを上げる

夜間の作業など、確認すべき事項を話し合う定例の指令間協議。緊急時には、復旧状況などを随時集まって情報共有する。

 改善への取り組みは、輸送指令だけでできるものではないと尾崎は言う。「運転再開見込み情報一つを取っても、指令間の連携がなければ精度は上がりません。4系統の指令が互いの役割を理解することでおのずと連携が強まり、成果に結び付いています」と分析する。事故の復旧状況などは館内の一斉放送でやりとりを行い、指令全体で情報を共有するとともに、各指令の代表が集まる指令間協議で検討し、再開時刻などを判断していく。現場から指令へ、さらにお客様へ。こうした情報の流れを理解するため、現場の情報収集を担当する指令員が、駅業務を体験する機会も設けているそうだ。「全指令が思いを一つに連携し、発信する情報の質を高めています」。

 尾崎は昨春、北陸新幹線の金沢開業に伴い、金沢指令・北陸新幹線指令と連携して、サンダーバード号が湖西線強風規制時に東海道・北陸本線経由で運転する際の運転整理手法の策定に取り組んだ。迂回運転で遅れが生じても、金沢到着時刻をあらかじめご案内し、新幹線にスムーズに乗り継いでいただくためだ。この取り組みにも、情報提供によってお客様をサポートするという、尾崎の熱い思いがうかがえる。「お客様に近い立場の指令として、役割を果たしていきたい」と語る姿は、使命感と誇りにあふれている。

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