延近  勝人(51) のぶちか かつと 岡山支社 輸送課

安全と快適を軸に、ダイヤを作成する

鉄道に生きる

ダイヤを輸送計画システムに入力し、矛盾や間違いがないか検証する。

1,139本の列車の運行を計画する

 岡山エリアを走行する在来線の列車は、一日1,139本。それら列車それぞれの運行を決めるダイヤ(列車運行図表)を作成している部門が輸送課である。ダイヤを作成する専門家は、複雑なグラフ状の線(筋)を引くことから“スジ屋”とも呼ばれ、“スジ屋”によって管内の列車をどう動かすのか、普通列車から特急列車まで全ての列車の動きが秒単位で計画される。

「基本的には前年度のダイヤをもとに、年に一度の改正という形でダイヤを作成します。改正の主な目的は列車の乗り換え時間の短縮、混雑の解消など、お客様にとってより利便性の高いダイヤにすることです」。

 そう語るのは輸送課に所属する延近勝人。10年以上にわたり岡山エリアのダイヤを作成してきたベテランの“スジ屋”だ。延近は主に山陽本線を担当し、その他の赤穂線や吉備線、瀬戸大橋線、伯備線など全11路線のダイヤを総括的に監修している。年に一度のダイヤ改正のほかに、時にはダイヤの一部修正を手掛けることもある。たとえば遅延が発生しやすい列車があると認められた場合などだ。

 「遅延の理由がダイヤから読み取れない場合は現場に出向いて原因を調べます。現場に行ってみると、想定されていた乗降客数に誤差があるため乗降に時間がかかっていたり、乗り換え時間が少し短かったりと、必ず原因が見つかります。そして原因が分かればダイヤを作成し直して、問題の解消に努めます」。

列車ダイヤに潜むリスクなどの洗い出しとその解消方法を、各線区の担当者と調整し、共有する。

自分の目で確認し、リスクへの先手を打つ

 岡山支社輸送課では現在、“足元を固める”をスローガンに「安全性」「CS(お客様満足度)」「技術・技能」の向上に一丸となって取り組んでいる。「安全性」の面では、列車ダイヤに潜むリスクを全て洗い出し、先手の対策を講じることで事故を未然に防ぐことに重きを置いている。

「単線の駅でホームに行く際に、構内の踏切を渡らなければならない駅があります。そうした駅で上りと下りの列車が同時に駅に停車した場合、通勤・通学などのお客様が多い時間帯では、お客様が発車直前に踏切を横断する危険性が指摘されていました。私たちは現場に赴き、上りと下りのどちらの列車を先に発車させた方がより安全を確保できるかを検討し、接触事故などのリスクを回避できるようダイヤを作成し直しました」。

 また、「CS」の面ではお客様の待ち時間や混雑をいかに減らすことができるかを念頭にダイヤを作成。この場合もやはり延近をはじめ輸送課の社員自らが現場に赴き、各駅の混雑状況などを確認した。

「お客様の乗車人数などの調査はしています。しかし、調査された時期によっては違いが出るので、やはりデータだけに頼るのではなく実際に現場に出向き、自分の目で確認する、駅員や乗務員など現場の人と対話することを大事にしています。現場からの提言を受け流さない、現場と一体になって安全・CSへの感度を高めることが、よりお客様のためのダイヤにつながることは間違いありません」。

 ダイヤを作成する作業は机上のみで完結すると思われるかもしれないが、実際はスジ屋たちが現場に赴き、現場の声に耳を傾けながら一本、また一本とスジを引いている。

ダイヤをもとに遅延の発生がないか、乗客数の見込みに間違いがないかなど、自分の目で確かめる。

『現場でスジを引くスジ屋』を育てたい

 秒単位で刻まれる緻密なダイヤは、一見システムを駆使して作成されるイメージだが、そうではないと延近は言う。

「ダイヤを輸送計画システムに入力し、チェックやシミュレーションなどを行いますが、システムはあくまでダイヤ作成のための支援システムという位置づけです」。人が作成するからこそ、個人の技量が問われるダイヤ作成。後進の育成が、これからもより安全で、よりお客様の立場に立ったダイヤ作成に重要である。

「よく分かっていない者が知らない者に教えると、100%伝えなくてはならないことが50%も伝わらないかもしれません。だからまず自分自身の“足元を固める”ことが必要だと考えています。私の目標は、一日に岡山エリアを運行する在来線の列車、一本一本のスジが持つ意味を記した『列車カルテ』を作成し、後進に継承すること。それを継承できるシステムを作ること。そして、絶えず変化する現場の状況に即応できる『現場でスジを引くスジ屋』を育てることです。そのためにも私自身がさらにレベルアップを図り、ダイヤづくりの職人を目指していきたいと考えています」。これまでスジを引き続けてきた職人は、後進を育てるための道スジもすでに用意しているようだ。

ダイヤ改正時など列車の時刻が大きく変わる時は、運行を管理する上で問題が発生していないか、指令員と確認を行う。

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