奥田 望(51) おくだ のぞみ 大阪総合指令所 副統括指令長

お客様を意識したチーム力で、安全な列車運行を司る

鉄道に生きる

問題が発生した場合は、運転士や駅員に電話や無線で連絡をとりながら、必要な指示を与える。

近畿エリアの列車運行を把握、管理する

 京都、大阪、神戸をはじめとした近畿圏の主要線区の列車の運行管理を担っているのが大阪総合指令所である。

「当指令所の管轄するエリアの特徴は、多くの線区の列車が複雑に直通乗り入れを行っている点です」。そう語るのは、輸送指令の副統括指令長として指揮をとる奥田。

 輸送指令は、列車が時刻通りに運転しているかリアルタイムで把握しながら、アクシデントが発生した時には駅員や乗務員に対して、必要に応じて運行計画の変更を指示しなければならない。さらに、乱れたダイヤを早期に正常なダイヤに戻すための手配を行う。いわば輸送指令は平常時から異常時まで、管轄エリアの全ての列車の運行を司る心臓部であり、その最前線に立つのが奥田だ。

「輸送指令は、お客様が乗車されている列車の運行を担っています。アクシデントが発生した場合は、何よりも乗車されているお客様の安全と安心を第一に考えながら、関係箇所へ迅速に指示しなければなりません」。

 例えば、ある路線でアクシデントが発生した場合、まず後続の列車を停止させるのか、あるいは次の駅まで進めるのかの決断が求められる。また、列車を停止させた場合は、車内のお客様にどこで降車していただくか、どうやって目的地までご旅行を継続していただくかという的確な指示を行わなければならない。

「安全を確保した上で、どのようにお客様へのご迷惑、ご不便を最小限に抑えるか、それが輸送指令にとって重要な課題です」。

列車が時刻通りに運行できているか、リアルタイムで全線の運行状況を把握する。

チーム力で、お客様への影響を最小限にとどめる

 管轄するエリアでは、異なる線区の列車が直通乗り入れを行っているため、お客様にとって乗り換えがなく利便性は優れている。反面、一部の線区で列車が止まった場合、他の線区にも列車の運休をはじめとしたダイヤの乱れの影響が及ぶことがある。

「京都駅を発車した列車は、大阪駅、神戸駅を経てさらに遠方まで運行しますが、例えば神戸地区でアクシデントが発生した場合、京都から大阪間をご利用のお客様にまでご迷惑をお掛けしたくありません。そのため、こうした列車の運行を途中の大阪駅などで打ち切り、折り返し、京都方面に運行させ、ダイヤが乱れる影響を最小限に抑えるようにしています。私たちはこれを“系統分割手法”と呼んでいるのです」。

 複雑な乗り入れがある中、系統分割手法を行っている指令所は全国的に見ても少ない。異なる線区の列車運用を即座に決定し、それぞれの線区に運行計画を指示することは非常に緻密な連携と、指令員の高いスキルが求められるからだ。

「それぞれの線区を預かる指令員が的確に即断即決する能力とチーム力。それらがあってはじめて系統分割手法が可能になります」。

 系統分割手法は、5年ほど前から本格的な取り組みが始まり、特にここ 2年ほどで着実に成果を上げるようになってきた。その背景には、指令員たちの意識変革があったと奥田は振り返る。

各線区の指令員と連絡会議。普段からのコミュニケーションを密にしておくことで、いざという時にチーム力が発揮される。

現場の声を聞き、お客様への思いを共有する

「指令所は通常、セキュリティの関係もあり外部から隔離されているため、現地の状況が無線や電話越しにしか分からない中で指示しなければなりません。そこでお客様に近い駅員や乗務員の声を聞くことで、お客様の思いやニーズを共有できるのではないかと考えたのです」。

 大阪総合指令所では、数年前から指令所に駅員を招いて意見交換会を月例で行っている。また、運転士や車掌の業務に付き添う列車添乗の機会を設けることで、彼らの業務を肌で知るようになったという。

「駅員、乗務員と指令員がお互いに顔を知ることで、意思疎通もしやすくなりました。何より、アクシデントが発生すると現地のことを思い、1分1秒でも早くダイヤを戻そうとの思いが強くなりました」。

 意識が変われば行動が変わる。行動が変われば結果が変わる。指令所で働く一人ひとりが、ご迷惑をおかけしているお客様のために全力を尽くすという思いを強くしたことで、チーム力が試される系統分割手法の実現など、目に見える成果を生み出してきた。

「駅員、乗務員から、あの時の指令に助けられたという声を聞くのが一番の励みです。これからも、若手と一緒になって過去の事例から学びながら、より優れた指令ができるよう研鑽を重ねていきます」。

「大阪総合指令所は世界一の指令所。そう呼ばれるようにします」と言って笑った奥田の顔は、自信と誇りに満ちていた。

臨時列車を走らせた時など、ダイヤに変更があった場合は運行記録をダイヤに記載する。この記録は振り返りの事例としても活用し、さらに指令の精度を高める。

ページトップに戻る
ローカルナビゲーションをとばしてフッターへ