沿線点描【大阪環状線】大阪市

新しい大阪駅から大阪の街をぐるっと一周、大阪環状線の旅

大阪市内を内回りと外回りで、ぐるっと回る大阪環状線。
親しまれたオレンジ色の電車に乗って、
大阪の文化と街にふれる小さな旅を楽しんだ。

大阪城を背景に走る列車。
(京橋駅から大阪城公園駅)

「大阪ステーションシティ」の誕生で大阪駅が“まち”になる

ホームやコンコースを巨大なドーム屋根が覆う大阪駅。駅の北側と南側をつなぐ橋上駅も誕生し、より利便性が向上した。

 大阪市内を周回する大阪環状線。一周21.7km、19駅をオレンジ色の電車が約40分で走る。1961(昭和36)年に開業して今年で50周年。大阪市街の東西南北を数珠状につなぐ大阪環状線は通勤、通学のほか、大阪の観光にも欠かせない。

 大阪駅はいうまでもなく大阪の顔、西日本最大の駅だ。一日の平均乗降客数は80万人以上。その大阪駅が5月4日に「大阪ステーションシティ」として大変身を遂げた。ノースゲート、サウスゲートの両高層ビルを中心とした新しい駅の大空間には多彩な都市機能が詰まっている。なかでも目を奪われるのは駅を覆いつくす巨大なドームの屋根だ。見上げると、思わず「すっごいな」と歓声がついて出る。

 1874(明治7)年に「大阪停車場」として誕生し、「梅田すてんしょ」などの愛称で親しまれた初代大阪駅から数えて5代目。駅の北側では現在、再開発が急ピッチで進んでおり、大阪駅周辺はこれまでとまったく姿を変えてしまうことになるが、その中心となる新しい大阪駅に寄せる関西の期待は大きい。

 大阪環状線のホームは大阪駅の1番のりば(内回り/反時計回り)と2番のりば(外回り/時計回り)。大勢の乗降客に混じって外回り電車に乗った。次の駅は天満駅。たった一駅違いなのに、街の景色は一変する。林立するビルとビジネススーツのオフィス街から、普段着の大阪、生活の街にがらりと舞台が転換する。この差異はいかにも大阪らしい。駅を一歩出ると、にぎやかで派手な看板が並ぶ商店街だ。1丁目から7丁目まで約2.6kmも続く天神橋筋商店街は日本一長い商店街とも言われる。 

 「てんじんさん」で親しまれる商店街の歴史は平安時代にまで遡るそうだが、「天満宮」の参道として栄えた商店街の活気は今も変わらない。通りを歩くと、あちこちの店から「いらっしゃい!」「まいど!」「どうでっか!」と威勢のいい声が飛んでくる。男性なら決まって「社長!」「お兄さん!」。女性なら「若奥さん!」「お姉さん!」だ。そのあとに「さあ、買うてや買うてや」。気やすさについ店をのぞいてみたくなるほど街が生き生きしている。

角度の鋭いV字形のカットを施す薩摩切子に対して、U字形のなめらかなカットが特徴の天満切子。

天満駅を降りるとすぐに天神橋筋商店街に出る。人気のキャベツ焼きの店もあり、にぎやかな店頭のかけ声と人なつっこさに大阪の商売上手を実感できる。

天神橋筋商店街の四丁目近くで「天満切子工房RAU」を主宰するガラス職人の宇良武一さん。天満界隈は大阪ガラスの発祥地で昭和30年代までは工房や問屋が数多くあった。宇良さんは大阪ガラスの伝統を絶やさないようにと「天満切子」を創作し続けている。「天満はガラスの街やゆうのを多くの人に知ってほしいので、“天満切子”にこだわり続けています」と、技の伝承にも力を注いでいる。

 とにかく活気にあふれて、なんでもありそうな雰囲気。「なんでもあるでえ。ないのは飛行機くらいや、なんせ店に置かれへんからな」。なるほど、たしかに。こうして客を楽しませてくれるところが、さすが商売の街だ。電車は桜ノ宮駅を経て京橋駅へ。京橋の地名は“大阪から京都へ向かう際、最初に渡る橋”ということに由来する。駅から数分も歩くと大阪ビジネスパーク(OBP)の高層ビルが建ち並び、その背後に大阪城が見え隠れする。 

大川に架かる橋梁からの車窓風景。川の向こうに見えるのは大阪ビジネスパーク(OBP)の高層ビル群。(天満駅から桜ノ宮駅)

飾らない大阪を体験できる鶴橋と通天閣界隈の風景と味

 車窓に大阪城を眺めて大阪城公園駅、森ノ宮駅、玉造駅を過ぎると鶴橋駅だ。ホームに降り立つと、辺りに香ばしい匂いが漂う。「かおり風景100選」にも選ばれる匂いの正体は、焼肉の旨味ダレ。大阪では「焼肉といえば鶴橋」という人も多いのではないだろうか。コリアンタウンとして全国に知られる鶴橋駅界隈には約900店舗からなる一大マーケットがある。

キムチと焼肉のメッカ、鶴橋駅界隈のコリアンタウン。軒を連ねる店それぞれに味を競う。キムチと一口に言っても奥が深い。

 ガード下の市場には本場のキムチを売る店が連なる。いかにも辛そう…「キムチにもいろいろあるよ。 韓国のキムチが辛いっていうのは、勘違いやで。日本人はエビを入れたソウル風のあっさりしたキムチが好きやね」と教えてくれたのは韓国人の店員さんだ。

 桃谷駅、寺田町駅の次は大阪の南の玄関口、天王寺駅。奈良県や和歌山県とを結ぶターミナル駅で、聖徳太子創建の四天王寺も近い。天王寺公園、動物園を通って坂道を下ると通天閣がある。そのお膝元の「ジャンジャン横丁」の串カツは、お好み焼き、タコ焼きと並ぶ大阪のグルメ。串カツ店のお兄さんが「女の子が一人で東京から食べにきてくれるわ」というほどの人気で、朝から行列ができる。余談だが、現在の通天閣と東京タワーは同じ設計者なのだそうだ。

 天王寺駅から環状線は大阪の西に沿って走る。新今宮駅、今宮駅、芦原橋駅、大正駅、そして弁天町駅。ここには交通科学博物館がある。新幹線、ディーゼルカー、蒸気機関車などが常設展示されていて、誰でも楽しめる。ちょうど「大阪環状線開業50周年記念企画展」(5月29日まで)が開催中だった。環状線とともに歩んだ大阪の歴史や沿線のスポットが一駅ごとに紹介されている。

 次の西九条駅は、ユニバーサルシティ駅のあるJRゆめ咲線との乗り換え駅で、休日にはホームに人があふれる。中央卸売市場のある野田駅、最近おしゃれスポットとして若者に人気の福島駅を過ぎると環状線の旅も終わりだ。環状線でぐるっと一周した大阪は一駅ごとに、どこも気さくで人なつっこく、おおらか。そしてなによりも話好きな人がいっぱいだった。

コリアンタウンの“名物娘”豊山さん姉妹。ここのチヂミは行列ができるほどの人気。おすすめは「すじコンチヂミ」とのこと。

大阪のミナミを代表する通天閣界隈。名物の串カツを目当てに、全国から観光客やグルメたちが訪れる。 通天閣のお土産として人気の高い「ビリケン人形」。幸福を呼ぶお守りとして求める人が多い。

交通科学博物館の学芸員、飯田一紅子さんは「大阪環状線開業50周年記念企画展」のために環状線各駅の「街、人、店」を見て歩いたという。「ほんの一駅の違いで街のようすがガラッと変わるのが面白い。大阪の街中を走る環状線のオレンジ色の電車は、大阪の人にとっては街の風景の一部になっているのを実感しました」と話す。

交通科学博物館には、交通の歴史が学べたり、鉄道模型のジオラマや鉄道の歴史遺産が常設展示され、多くの人に親しまれている。

車窓から眺める安治川の風景。(弁天町駅から西九条駅)

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