Blue Signal
January 2010 vol.128 
特集
原風景を行く
出会いの旅
うたびとの歳時記
鉄道に生きる
美味礼讃
原風景を行く 岩徳線
錦川を渡り山間の旧街道に沿って周南の海へ 岩徳線は旧山陽道をたどるノスタルジックな旅。 天下の名橋、錦帯橋がシンボルの岩国藩の城下町から 瀬戸内海へといたる沿線には、街道の宿として賑わった 家並みや風情が今も残っている。
山、川、橋… 絵画のような風景
 山口県岩国駅と櫛ケ浜駅の43.7kmを結ぶ岩徳[がんとく]線は、瀬戸内海沿岸を往く山陽本線と分岐し、岩国駅から旧山陽道に沿って山間の田園地帯を走る。駅は15駅、約70分の行程だ。

 岩国は毛利家の支藩、吉川[きっかわ]家13代の城下町。町のシンボルは、城山の麓を流れる錦川に美しい5連のアーチを連ねる錦帯橋。最寄駅は西岩国駅だ。錦帯橋のアーチを模した風格のあるレトロな駅舎は、昭和初期の洋風駅舎の姿を今にとどめる。駅から城下町の風情を残した町並みを抜けると、錦帯橋のたもとに出る。

 一幅の絵画を見るごとく背景にとけ込み、見事に均整のとれた錦帯橋は木造アーチ橋では世界最長で世界でも例がない。江戸時代には「天下の名橋」とうたわれた。岩国出身の作家、宇野千代は「橋の中ほどに立ったとき、川と橋と山が一つの絵になっているのを見る」と記しているほどに、風景は絵画的である。
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1929(昭和4)年開業の西岩国駅の駅舎。1979(昭和54)年に復元改装され、国の登録有形文化財に指定されている。 正面入口のアーチ部分は錦帯橋を模したデザイン。
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錦川に架かる名橋、錦帯橋。
 その錦帯橋を架けたのが三代藩主吉川広嘉である。岩国藩にとって「流されない橋」を錦川に架けることは長年の悲願だった。城域と城下の間を流れる錦川は優雅な名とは対照的に、雨期や台風時には濁流と化して橋を流し、洪水のたびに城と町とを分断した。そうした長い錦川との闘いの末、完成したのが不落の橋、錦帯橋である。
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吉川広家が築城した岩国城。現在の城は昭和37年に再建されたもので、天守閣からは岩国市内を一望できる。
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川西駅近くにある岩国出身の女流作家・宇野千代の生家。
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櫛ヶ浜駅の南、太華山から瀬戸内の夕景を望む。夕日に照らされた島々が美しい。
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旧山陽道の面影をめぐる
 錦川の鉄橋を渡ると、列車は山麓にさしかかり上りこう配となる。この先は、旧山陽道屈指の難所といわれる欽明路[きんめいじ]峠だ。この峠は「周防なる磐国山を越えむ日は 手向けよくせよ 荒しその道」と、万葉集にも詠まれている。欽明路とは、欽明天皇が御幸の折に一服された縁起を寺号にしたと伝えられる欽明寺に由来するという。
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西岩国駅を出発するとすぐに錦川を渡る。 川を越え、川西駅を過ぎると岩徳線は山中に入っていく。(西岩国駅〜川西駅間)
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その昔、欽明天皇が休息をとったことが寺号の由来といわれる欽明寺。境内には欽明天皇が腰をかけたと伝わる岩が残っている。
 列車は3kmにも及ぶ欽明路トンネルを進む。トンネルを出ると、山間とはいえ明るいのどかな田園地帯が広がる。北側には中国山地の小高い山々が壁のように迫り、列車は旧山陽道と絡みあうように進む。周防高森駅は岩徳線のほぼ中間に位置し、旧山陽道の宿場町として栄えた場所であり、米どころ、畜産地としても知られる。町はずれにある高森天満宮は周防三天神の一つだ。高水駅の北6kmほどに位置する周南市八代地区は、特別天然記念物のナベヅルの越冬地である。初冬にはシベリアから海を越え、暖かいこの地で越冬するために渡ってくる。
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欽明路トンネルを抜けて欽明路駅へ向かう列車。(柱野駅欽明路駅間)
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周防高森駅近くにある高森天満宮。防府、柳井と並び周防三天神のひとつとされる。
 
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高水駅の北の山中、周南市の八代地区は本州では唯一のナベヅルの越冬地であり、秋から冬にかけてナベヅルが飛来する。 写真提供:周南市観光政策課
 
 花岡もまた旧山陽道の宿場の名残をとどめる風情のある町だ。藤原鎌足が建立したと伝わる花岡八幡宮には、国の重要文化財である多宝塔がある。内部には大日如来が安置され、仏像を残す数少ない多宝塔として知られる。
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周防花岡駅のすぐ北にある花岡八幡宮。境内にある多宝塔は国の重要文化財。花岡は八幡宮の門前町、そして旧山陽道の宿場町として賑わったという。
 櫛ケ浜が近づくと、目の前に巨大なコンビナート群が迫ってくる。日本の高度成長を支えたエネルギッシュな風景は工業都市、徳山のシンボルでもある。岩徳線の終点は山陽本線と連絡する櫛ケ浜駅だが、すべての列車は徳山駅まで乗り入れ、コンビナートを車窓に映しながら旅を終える。
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コンビナートが建ち並ぶ徳山港。夜には色とりどりの光が灯り、幻想的な風景をつくる。
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