Blue Signal
March 2009 vol.123 
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鉄道に生きる
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鉄道に生きる【前田   満[まえだ みつる](37) 大阪工事事務所 大阪駅改良工事所 助役】
西日本最大のタ−ミナル・大阪駅が今、生まれ変わろうとしている。
大阪駅開発プロジェクトを綿密に計画し、推進する
駅や駅ビル工事のプロを訪ねた。
起こり得る事象を洗い出し危険の芽をすべて摘み取る
1日1500本の列車が行き交う現場
 2011年春の開業に向けて着々と工事が進む大阪駅開発プロジェクト。前田が所属する大阪駅改良工事所では、新北ビル工事をはじめ、大阪駅改良工事やアクティ大阪増築工事などを担っている。業務は行政との協議から施工計画の策定、安全管理、品質・工程管理まで多岐にわたる。

 「私たちの仕事場である大阪駅は、1日に1500本以上の列車が発着し、約90万人のお客様が利用される西日本最大のターミナル駅です。これだけのお客様や列車のすぐそばで工事をしているわけですから、一瞬の気の緩みがお客様に多大な迷惑をかけたり、事故を起こすことになりかねません」。そう語る前田の厳しい表情からは、この歴史に残る大きな工事と向き合う責任の重さが伝わってくる。

 「鉄道建築の専門知識やこれまで培った経験と想像力を駆使し、リスクアセスメントの手法を使って、事故につながる芽を徹底的に摘み取ることに自分のすべてをかけています」。
現場での嗅覚、想像力こそ安全の要
 前田の語るリスクアセスメントとは、危険予知の観点から、発生時の被害の大きさ、発生する頻度などを考慮した上でそれぞれのリスクを点数化し、点数の高いものから順に対処するもの。その最大のポイントは「業務の中からいかに事前に危険を洗い出すか」である。この危険の洗い出しにこそ、前田の言う経験と想像力が求められる。

 「お客様の安全確保と列車の運行を乱さないことが第一。たとえ小さなボルトでも120mの高所から落ちてしまったらどうなるか…現場での嗅覚、気づき、想像力が勝負です」。
 これまで京都駅ビルプロジェクトをはじめ、奈良線複線化プロジェクト、北陸線小松駅高架化プロジェクトなど、入社以来一貫して建設部門に所属し、大規模なプロジェクトに携わってきた前田。自らが携わった駅を利用するお客様から、「駅がよくなった」「使いやすくなった」という声を聞くと、うれしくて涙が出そうになると照れながら語る。その声を聞くため、前田はありとあらゆる危険を想定し、現場の指揮にあたる。
基本を知らずして、真似はできない
 「安全のためには、業務や工程の管理だけでなく、施工業者の方に無理をさせない、作業しやすい環境を作ることも重要」。かつて先輩からそう教えられたという前田は、実際に作業を行う協力会社の方々と安全への思いを共有するために、互いが納得いくまで何度も施工検討会議を重ね事前準備をしっかりと行っているという。また、自身が後輩を育成する立場となった今、次を担う若手には「マニュアルだけに頼らず、それができた経緯や意味、仕組みを考えなければならない」と繰り返し言っている。

 「私たちはあくまで建築基準法などの法令をはじめ、鉄道建築の専門知識を基本とし、その上で応用動作としてこれまで培ってきた経験を活用しています。応用動作だけを真似すれば失敗します。後輩に対しても、基本を知らずに真似はできないということをきっちり指導しています」。

 注目度も難易度も高い大阪駅開発プロジェクト。今年2月からは世界でも例をみないという大規模ドームの工事が始まった。

 「大変なプレッシャーを感じますが、その一方で、まだまだ学ぶことも多くやりがいのあるプロジェクトです。これからもプロジェクトの無事故完遂に向けて全力で取り組みます」。  2年後の春、「大阪駅がよくなった」という利用者の声を聞くために、前田の奮闘は続く。
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コンクリートを流し込むデッキプレートの検査。鉄筋が規定通り組まれているかチェックする。
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工事が進む大阪駅。
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アクティ大阪、新北ビル、屋上プラザ、そして橋上駅など賑わいに満ちた斬新な空間が2011年春に誕生する。
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一つひとつ工程を細かくチェック。わずかなミスも見逃さない。
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徹底して現場を見るのがモットー。小さな“気づき”が、大きな結果につながる。
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図面の変更箇所などをスタッフと念入りに確認し合う。
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