Blue Signal
July 2005 vol.101 
特集
駅の風景
うたびとの歳時記
大阪駅進化論
天守閣探訪
総社駅 駅の風景【総社駅】
古代吉備国へと誘う駅
古代、吉備国は大和朝廷に拮抗するほどの大きな勢力を有していた。
その吉備国の中心にあたるのが現在の総社市一帯。
古代史を体感できる巨大な古墳が無数に点在し、その風景は訪れる者をいにしえへと誘う。
吉備路は古代史の縮図
岡山駅を後にして、列車は吉備路をとことこと走る。小高い山々を背に吉備平野の肥沃な田畑が続き、たおやかな風景が気持ちよい。終着は古代吉備国の中心であった総社駅。

吉備路は古代を巡る旅である。「どこを掘っても古代、中世の遺跡が出てきます」と、総社の人は話す。いたるところに無数の古墳があり、なかでも造山[つくりやま]古墳は全長350m、高さ27mと全国4位の規模を誇る前方後円墳だ。発掘時には、内部に約6,000体もの円筒埴輪が並んでいたという。

また、こうもり塚古墳の巨石を使った横穴式石室は国内最大級とされる。我が国最大の前方後円墳は大阪府堺市にある仁徳天皇陵だが、造作は造山古墳のほうが古く、大和朝廷は対抗意識で仁徳陵を造ったという説もある。

点在する古墳群の風景は、古代吉備国が時の大和朝廷を脅かすほどの勢力と、巨大墳墓を造る豊かな財と土木の技術を備えていたことを物言わず教えている。
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岡山〜総社間を走る吉備線の起・終点である総社駅。また岡山〜倉敷を経由して山陰方面に通じる伯備線の中継駅として今も交通の要所である。
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夕焼けに佇むシルエットが美しい備中国分寺五重塔。奈良時代、聖武天皇の命で建立。なだらかな丘陵地に聳える五重塔(国の重要文化財)は吉備路を代表する風景。
イメージ 造山古墳は仁徳、応神、履中の3天皇陵に次ぐ、全国4位の規模を誇る前方後円墳。この巨大な墳墓からして、古代吉備国の強大な勢力がうかがえる。
地図
心やさしい原風景
総社の地名の由来になっている総社宮は駅から徒歩数分。平安時代、朝廷から派遣された国司には領内の神社を巡拝する習わしがあったが、その不便を省くために領内304社の神社をここに合祀し、この総社宮を中心とする門前町として成立したのが町の来歴だ。

総社宮から東に辿ると、吉備路のシンボル、備中国分寺の五重塔が見える。建立は奈良時代だが、焼失して江戸時代に再建された。周辺には建物がなく、ゆるやかな丘陵地にすっと聳える塔の姿がじつに美しく、古代の世界に迷い込んだようである。

「国分寺はここに暮らす人びとみんなの心の風景です」。そう話すのは国分寺近くの民宿の主人、横田清己さん。アマチュア写真家として国分寺の四季折々の風景を撮影し、何度も賞を受賞。そして土地に伝わる備中神楽の面師であり、社中を率いて神楽を舞い、ドイツやアメリカなど海外でも公演し好評を博した。

宿の向こうに、国分寺五重塔が見える。朝な、夕なで趣をがらりと変えて佇む塔の姿を横田さんは「いつ見てもいい。ずっと眺めていても見飽きることのない、すばらしい景色です」と語る。

確かにそれは古代より心に響く、懐かしくてやさしい風景だ。
「総社宮」は平安時代、備中国内にあるすべての神社を合祀した文字通りの「総社」。敷地内の三島式庭園は古代様式を伝える貴重な庭園。 イメージ
総社宮に隣接する「総社市まちかど郷土館」では総社市の歴史が一目でわかる。市内に現存する唯一の明治洋風建築で、元は警察署だった。 イメージ
民宿「かぐらや」の主人、横田清己さんは神楽の面師であり舞手でもある。宿の隣には面工房を構える。 イメージ
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史跡が積み重なるまち
備中国分寺の近くで、一軒の蔵元に立ち寄った。酒蔵の古い覗き窓の正面にも塔の姿があった。「万葉の気分でしょ。この窓から覗くと現代ではない気がします。ずっと残しておきたい眺めです。他所では見られない吉備の風景を守るために、近隣のみなさんが力をあわせています」と、三宅酒造の小沢道子さんは語る。

そして、「どこを掘っても遺跡…」ということばが、単なる形容でないことに納得した。「裏庭を掘っていたら弥生時代の土器の破片が出てきました。今もどこかを掘れば出てくるでしょう」と小沢さんはさらりといい、土器片をいくつか見せてくれた。この土の下には、古代吉備国の深遠な歴史が幾層にも積み重なっているのだろう。

古代遺跡のみならず、吉備路には各時代の史跡が数多く残る。国分寺からそう遠くない赤浜は、画聖・雪舟の生誕地。柱に縛られ涙で鼠の絵を描いた逸話が残る井山宝福寺は、総社駅から北へ少し行った山中にある。戦国時代、羽柴秀吉の大軍に包囲され一カ月にも及んで水攻めにされた備中高松城跡。その折、川を塞き止めるために築いた土塁の一部が、備中高松駅近くに残っている。

さながら歴史をひもとくような吉備路の旅は、浪漫が尽きない。
豪渓は奇岩、絶壁、渓谷美で知られる県下屈指の自然景観。史跡、遺跡だけでなく吉備路は自然美も魅力。 イメージ
画聖・雪舟が幼少時代を過ごし、涙で鼠の絵を描いたという逸話が残る臨済宗の巨刹、井山宝福寺。鎌倉時代の創建で、山中に静かに佇む姿は凛として威厳と風格がある。 イメージ
高松城水攻めの折に、羽柴秀吉軍が川を塞き止めるために築いた堤防の一部が残っている。 イメージ
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