Blue Signal
September 2004 vol.97 
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食歳時記 団子
団子
月見団子は三方に盛り、秋の収穫物とともに縁側などに飾られる。団子の数は、地域によって異なるが通常は12個、うるう年は13個用意するのが慣わしである。
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黒砂糖の艶と香り、さっぱりとした甘さが人気の「みたらし団子」は、参拝客の憩いの味。
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1本1本香ばしく焼きあげ、独特のとろみを持つ甘辛いたれにくぐらせることで、風味が一層増すという。
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里芋の形に一方をとがらせ、こし餡で包んだ月見団子。関東の丸型に対し、関西ではこの形が多く見られる。
夜空に輝く月を愛でる季節。日本の秋を象徴する月見の風習に欠かせないものとして、「団子」がある。穀物は、飯や餅のように粒のまま調理する食べ方と、まず粉状にしてから調理する食べ方とに分けられるが、団子は粉食の代表。米や麦、粟、黍[きび]といった穀物の粉を水で練ってから丸め、蒸したりゆでたりしたものの総称である。餅と並んで、神様や先祖のお供えとして用いられることが多く、神聖な食べ物として人々の生活に根づいてきた。団子の歴史や月見との関係について探ってみた。
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神人共食を今に伝える
日本で団子が作られるようになったのは、縄文時代からと推測されている。当時はクヌギやナラの実を粉にして水にさらし、それを煮炊き用の土器で糊状の粥[かゆ]にしたり、団子状のかたまりにして食べていたという。穀物が登場してからもこの食習慣はつづき、小麦・粟・稗[ひえ]・黍などは粉にして食べられた。粒食である米も水に漬けて粉にすることがあり、これがいわゆる「シトギ」と呼ばれる神饌[しんせん]である。神様に捧げる場合は、生のまま丸くまとめたものが用いられた。これらが団子の原型と考えられるが、時代とともに宗教的な意味合いは薄れ、串にさすなど形状も多様化し、江戸時代中期以降は庶民の菓子として定着していった。

団子の名の由来をたどると、奈良時代に中国から伝わった唐菓子[からくだもの]のひとつ「団喜[だんき]」に至る。団喜とは、米粉や小麦粉の皮であんを包み丸めたもので、中国では歓喜天[かんぎてん]をまつる時の供饌[ぐせん]菓子。『倭名類聚抄[わみょうるいじゅしょう]』(931〜938年)には他の唐菓子とともに名前が記されている。この「だんき」がなまって「だんご」になったとされるが、これには諸説あり、「団」には丸いという意味もあることから形状由来説や粉を集めて作る「団粉」から転じたなどと様々である。
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満月の夜の風流
旧暦の8月15日(2004年は9月28日)は、「中秋の名月」「十五夜」などと呼ばれ、月見の好時節として古くから詩歌や俳句の題材となっている。月見行事の起源は定かではないが、中国・唐代の「中秋節」が日本に伝来し、貴族階級に取り入れられたといわれている。平安時代に編纂された『日本紀略[にほんきりゃく]』、909(延喜9)年に宇多法皇が催した観月の宴が最初の史実とされているが、当時は池に舟を浮かべ、即興で和歌を詠んだり管弦を楽しむといった風流な催しであった。それがやがて秋の収穫をひかえて豊作を願う農耕行事と結びつき、一般にも広まっていった。

このようにして、月見は秋の実りに感謝する行事として発展し、里芋などの農作物を供えたことから、十五夜は「芋名月[いもめいげつ]」とも呼ばれる。さらに、芋よりも米の収穫が望まれ、米の粉から作った月見団子が稲穂にみたてたすすきに添えられた。江戸の風俗を図説した喜田川守貞の『守貞漫稿[もりさだまんこう]』(1837〜1853年)には、机の中央に三方を置き、その上に団子を盛った月見のお供えが記載されている。江戸時代には、月見団子を供えて月を観賞する習慣が定着していたようだ。
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厄除けへの祈りを込めて
京都で最も古い歴史を持つとされる賀茂御祖[かもみおや](通称下鴨[しもがも])神社では、中秋の名月には平安時代以来の伝統を受け継ぐ「名月管弦祭」がとり行われる。神事の後、古式ゆかしい舞楽や平安貴族舞などが奉納されるが、その日秋の収穫物や神酒とともに供されるのは「みたらし団子」である。下鴨神社祭礼の際の神饌菓子として、古くは氏子の家庭で作られていたというが、現在は門前の和菓子司「亀屋粟義[かめやあわよし](加茂みたらし茶屋)」の名物団子となっている。この団子は、ひと串に5つ。ひとつ目と下の4つとの間をあけて串にさすのが特徴である。その形は五体を象ったものといわれ、人形[ひとがた]として厄除けの意味を持つ。「加茂みたらし茶屋」では、竹串に通した団子を香ばしく焼き上げ、初代が考案したという黒砂糖を調合した秘伝のたれに浸して提供している。対して神事のお供えとするのは、上新粉を練って串にさしただけのもの。焼き色もたれもつけない35本の団子を三角に形づくり、奉納するのが慣わしとなっている。

このように、各地の寺社の門前には信仰とゆかりの深い名物団子が生まれてきた。色や形は様々であるが、それぞれの団子には、罪やけがれを払う厄除けへの祈りが込められている。邪気を払うとされるよもぎが多く使われるのも、そのためである。月見団子もまた、農耕の神に感謝を捧げるとともに、お下がりの団子をいただくことで、家族の健康や幸せを願うのである。今日では、菓子やみやげ物として親しまれている団子。素朴な味わいのなかには、人々の信仰心が息づいている。
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