鉄道に生きる

田川 陽一 中国統括本部 中国総合指令所 広島指令所 電力副所長

現場で培った経験を電力の司令塔として実践に活かす

誤って電気を送れば感電事故につながりかねない。安全確認の指差し、マウス操作の承認なども二人一組によるダブルチェックを徹底する。

 列車の安全運行を最前線で司る指令所は、「輸送」「施設」「信号通信」などの系統に分かれ、365日、24時間体制で任務にあたる。その中で、変電所からの電気の流れを監視するとともに、架線や駅舎への給電状況を管理するのが「電力指令」だ。田川は指令員16名を率い、電力設備を見守り、鉄道の根幹を支える。

電気一筋に技術の研鑽に励む

即断即決が求められる指令業務。研修や訓練、マニュアル整備にも取り組み、さまざまな事象への対応力向上を図る。

 学生時代、「電気工学」を専門に学んだという田川。2003(平成15)年に入社し、下関電気管理センターから電気技術者としてのキャリアをスタートさせた。架線の摩耗を測定する至近距離検査や電力設備の修繕などを行う部署で、まず徹底的に教え込まれたのは列車の見張り業務だったという。「列車の接近を知らせる見張員は、線路内での安全を担っています。見張りができないと、仲間の命を守ることができません」。新人の田川は、検査の段取りや勘所を学ぶと同時に、先輩の仕事ぶりから技術者の土台となる姿勢や心構えを身につけていった。

 その後、2007(平成19)年からの2年間はグループ会社への出向を経験。2009(平成21)年には、本社技術部(当時)に転勤となる。「どちらも、初めての経験で大変だった時期。特に技術部は、各系統が新しい技術を研究・開発する部署で、これまでの知識だけでは通用しませんでした」。論文を書き、学会で発表するなど、慣れない業務は辛くもあったが、この時に鍛えられた論理的思考は、後のさまざまな業務における課題解決に役立ったと振り返る。

互いの立場を理解し、信頼関係を築く

異常時には、資料をもとに関係する駅や線路の停電区間を確認。現場への的確な指示で早期復旧をめざす。

 2013(平成25)年、徳山電気区に異動になった田川は、係長として現場に戻る。初めて持つ部下に対しては、互いを知るために話を聞き、話をすることを心がけた。さらに、仕事を任せて成長を促すように努めたそうだ。「動機づけをしてやる気を引き出し、まずやらせてみる。信頼して任せてもらえると人は成長します」。コミュニケーションによって相互理解を深め、信頼し合える関係を築く。田川は、以降の配属先においてもその姿勢を貫いていった。

 中国地方が記録的な大雨に見舞われた2021年8月、山陽本線小野田〜厚狭駅間では線路の路盤が150mにわたって崩壊するという災害が発生した。当時、下関電気区で助役を務めていた田川は、復旧現場の最前線で指揮を執った。「いかに安全に、早期に復旧させるか。工程や工法を常に考えながら指示を出す毎日は、相当なプレッシャーがありました」。他系統と工事箇所が重複するため、土木や保線、信号などとの連携も必要になる。田川は、他系統との連絡を密にして工事の時間帯を調整。作業員には声をかけて体調管理にも努めた。「よく会話し、意思疎通を図ったことが1カ月弱での復旧に繋がりました」。初列車が無事に走行していく光景を、今も心に刻む。

正しく電気を止めるという使命

指令には知識・経験が豊富なベテラン社員が多い。田川は要所要所で意見を仰ぎ、技術の継承に繋げていく。

 現在、田川は、糸崎駅西より下関駅までの山陽本線、山陰本線などの広域を管轄する広島指令所において、電力指令の指揮にあたる。配属されたのは2023年6月。以来、指令員の教育・育成、職場改善などのマネジメント業務に従事する。「電力指令はクリック一つで電気を止めることも送ることもできます。間違いは人命に直結するため、誤送電防止には徹底して取り組んでいます」。二人一組で行う安全確認の基本動作ができているかどうか、夜間の実態を把握するため、当直業務も行っている。

 基本を守ることはもちろん、守りやすい環境づくりも大切と考える田川は、例えば業務が立てこんでいる場面では、電車を止めてでもルールを遵守するよう呼びかける。運転再開を焦ってしまうと思わぬミスに繋がるからだ。『無理するな・させるな』。判断に迷う時は、先輩から贈られた言葉が指針となる。「みんなが安心して働ける“心理的に安全”な職場をめざしています」。指令間のコミュニケーションを一層強化し、系統を超えた連携で鉄道現場のさらなる安全、安心の向上に挑んでいく。

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