日本海沿いの北条砂丘で育ったブドウを原料とする「北条ワイン」は、風土と土壌の特徴が風味に現れる。特に白ワインでその個性が楽しめる。

ブドウのチカラと、土地の個性が凝縮した醸造酒

ワイン 鳥取県東伯郡北栄町【北条ワイン醸造所】

雄大な日本海沿いに広がる鳥取県の北条砂丘。江戸時代後期、甲州から持ち帰った一本のブドウがこの地に根づき、鳥取県のブドウ栽培が始まった。その砂丘地帯にブドウ農園を持ち、ワインを醸造する、世界でも珍しいワイナリーを訪ねた。

北条砂丘は、鳥取県中部の日本海に面し、東西約12km、南北1.8kmに及ぶ広大な砂丘。中国山地の花崗岩が風化して砂となり、川に流れて海岸に打ち上げられ、風に運ばれて形成された。砂丘特有の朝夕の寒暖差によって味の良いブドウやスイカ、長芋などが栽培される。
(写真提供:鳥取県)

1944(昭和19)年の創業時から現在も使われているワイン貯蔵庫。歴代の酵母が壁に蓄積し、新しいワインたちの熟成を見守る。(山陰本線「下北条駅」から徒歩約15分)

メソポタミア文明から始まる、ワインの道

砂丘地帯に約21ha有するブドウ畑。土壌は手に取るとサラサラとした砂地。与える水は雨水だけというスパルタ栽培で、味も色みも濃厚なブドウが成長する。

枝1本に1〜2房を残して摘果。甲州、マスカット・ベーリーAをはじめ、赤ワイン、白ワインあわせて9種の地元産ブドウを栽培している。

収穫・選果した後、梗(こう)とよばれる実がついた硬い枝の部分を取り除く「除梗」を行う。酸味を柔らかくする乳酸菌を加え、ブドウの実を潰す。

「マセラシオン」と呼ばれる醸しの工程。天然酵母がついた果皮や種子を果汁に漬け込んでアルコール発酵を促す。

発酵中のガスで浮き上がってくる果皮や種子を櫂で押し込む。ピジャージュというこの工程で、ワインの味が決まる。

フレンチオークやアメリカンオークなど8種類の樽に詰めて熟成。12年ほど使う樽には酵母が棲みつき、味に奥行きが出る。

 ワインは、ブドウの果皮に付着する天然酵母や果実に含まれるブドウ糖がアルコール発酵して生まれる。果皮や果肉、果汁や種子を一緒にタンクに入れて発酵させた後、果皮と種子を取り除いて熟成させ、沈殿物(澱[おり])を濾過[ろか]して瓶詰めする。白ワインは、果汁だけで発酵させるので色がつかない。糖分をすべてアルコールに変えれば辛口に、糖分が残っているうちに発酵を止めれば甘口に仕上がる。

 文献上に初めてワインの醸造が登場するのは、紀元前5000年頃。メソポタミア文明最古の文学作品『ギルガメッシュ叙事詩』に、船の建造に携わった労働者にワインが振る舞われたと記載されている。古代エジプトの貴族の墓の壁画には、黒ブドウを収穫する人やブドウを踏み潰す女性たちの姿に加え、搾ったジュースを移す壺が描かれている。そして、王侯貴族のものだったワインは、ギリシャ文明で大衆化する。2〜3世紀頃にはブルゴーニュ、ボルドー、シャンパーニュなど、現在でも有数のブドウ栽培地に栽培技術が伝わった。ワインが神聖なものとされた1000年頃の中世ヨーロッパでは、当時の教会や修道院がワイン造りに注力。ビン詰めでコルク栓のワインは17世紀頃に登場する。

 日本でワインが誕生したのは1870年代。既に生食用ブドウの栽培が盛んだった山梨県の青年二人がフランスでワイン造りを学び、日本固有種の甲州ブドウで本格ワイン醸造を始めた。戦後、日本人の食生活の洋風化が進むと国内のワイン消費量も拡大。2010年代には、日本固有種の甲州とマスカット・ベーリーAが国際ブドウ・ワイン機構にワイン用ブドウとして登録され、EUへ輸出するワインのラベルに品種名を記載できるようになった。

砂丘地帯のワイナリーが醸す、太陽と海風を感じるワイン

ブドウの栽培からラベル貼りまですべてを担う、代表の山田さんとスタッフの皆さん。

北条砂丘産ブドウを100%使用して造られる北条ワイン。「量にはこだわらず、地元産ブドウにこだわり、価値のあるワインを造る」ことをモットーとする。やや重口の「北条ワイン 赤」、他県の甲州種にはない、塩味や香りを感じる「北条ワイン 白」をはじめ、スパークリングワインやヴィンテージワインなど、さまざまなワインが揃う。

 鳥取砂丘の西に広がる北条砂丘では、江戸時代末期からブドウ栽培が行われている。水はけが良く、照り返しの強い砂丘はブドウに最適な土壌だ。成長時期の7〜8月は日照時間が長く、葉が雨に濡れても海風が乾かすので病気にかかりにくい。砂丘に自社農園が広がる北条ワイン醸造所では、太陽と海風をしっかりと浴びたブドウの味を生かすため、基本に忠実な製法で醸す。醸しの工程では、何十万種とあるワイン酵母の中からその年のブドウに合うものを厳選し添加。10日から1カ月ほどかけてアルコール発酵させた後、圧搾を経て乳酸発酵を促す後発酵へ。瓶詰めした後もしっかり熟成させてから店頭に並べる。

 「ワインは、その土地の特徴を色濃く感じられる飲み物。ワインを通じて、鳥取県や北栄町[ほくえいちょう]にたくさんの人が来てもらえる流れを作りたい」と語る代表の山田和弘さん。海のミネラル分をたっぷり含んだ「北条ワイン」は、ほのかな塩みを感じ、海風のように後味爽やかなワインだ。

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