鉄道に生きる

内村 達也 新幹線鉄道事業本部 博多総合車両所 台車センター 係長

人と技術を育み、新幹線の安全を担う

部品が正しく取り付けられているか、ハンマーを使って音の違いで判断する。

 山陽新幹線の検査・修繕拠点である博多総合車両所。台車センターは、台車枠・ブレーキ装置・輪軸などで構成される「台車」のメンテナンスを行う。今、センターでは独自の取り組みで台車検修における技術の継承に力を入れる。その中心となり、技術系社員の育成を推進しているのが内村達也だ。

車両基地における幅広い業務を経験

安全走行のための重要な部品「ブレーキキャリパ」の取り付け作業を確認する。

 内村は、2011(平成23)年、39歳の時に既卒採用で入社した。前職は自動車整備のエンジニアで、自動車整備の専門学校で教鞭を執った経歴を持つ。当初は、台車枠の検査をする部署に配属され、検査や部品交換を担当していたという。「鉄道は、自動車以上に専門用語が多く、車体の大きさはもちろん、使う工具の大きさなどもまったく違うことに戸惑いました」と当時を振り返る。分からないことは、手順書を携えて新入社員と同じように聞いて回り、指導してもらったそうだ。機械設備を使いこなすと同時に、工具を使った細やかな手作業の技術が必要とされる現場。「しつこく尋ねているうちに顔を覚えてもらえるように。おかげで、技術や知識は、現場の先輩たちからたくさん吸収させてもらいました」。

 その後、2年目には現場から離れ、技術管理部門に異動。さらに、2016(平成28)年からは車両の品質や車両所運営を司る車両科で経験を積み、2018(平成30)年には総務科で社員教育を担当する。内村は、さまざまな部門で培ったこの10年間の経験をもとに、今、台車センターの未来を見据えた課題に取り組む。

人を育て、検修技術のバトンを繋ぐ

規定通りに部品交換が行われているかなど、定期的に巡回してチェックする。

 新幹線の安全を担う検査・修繕の現場において、技術をいかにして継承していくかは喫緊の課題になっている。あと数年すれば、国鉄時代からのベテラン社員が退職し、全員がJR発足後の社員になるからだ。現在、内村はセンターの技術管理グループで安全指導や教育関連業務に携わるとともに、培われてきた技術を途切れることなく継承していくための「匠育成」プロジェクトを推進する。

 2年前から始まったこの人財育成の取り組みは、まず、現場の技術者には入社10年目までに一通りの作業を経験させ、どの検修業務にでも従事できる「多能化社員」を育てていく。すべての業務を経験することで、台車全体を広い視野で捉えることができるようになってもらうためだ。さらに11年目以降は、台車検修全般のスペシャリストとして有事の際にも的確な状況判断ができる「匠」、台車枠や輪軸、あるいは検査に特化した「専門家」、多能化のレベルを高め「オールマイティに活躍できる技術者」の3つに分かれ、それぞれの適性に応じてステップアップをめざす。「新幹線を安全に走行させるためには、人を育てることが不可欠です。匠や専門家の候補も決まり、やっとスタートが切れたところ。先輩方が抜けられた後も技術を引き継ぐ若手が育っていけば、さらに次の世代にもバトンを繋ぐことができます」。内村は、5年後、10年後の台車センターの姿を期待を持って思い描く。

仲間を増やし、信頼関係を築くことで道を拓く

毎朝のスケジュール確認のほか、報告がある場合などは随時ミーティングを行う。

 内村には、仕事に行き詰まった時などにふと振り返る思い出深い業務があるという。2017(平成29)年3月のダイヤ改正に合わせ、「山陽新幹線ATC(自動列車制御装置)一段化切替」の準備を進めていた車両科時代のことだ。夜間滞泊も含め、山陽新幹線の全編成を一晩で一斉に新ATCに切り替えるという大掛かりな業務。博多総合車両所内のあらゆる部署から人や機材が集められ、内村もその一員として加わった。ただ、台車センター出身の内村にとって、ATCの切替作業は未知の世界。不安も多く、課題抽出のためにあちこちに出向く中で「台車センターの内村に本当にできるのか」と言われることもあったそうだ。「正直落ち込みましたが、その一言が“やってやろう”と奮起するきっかけにもなりました」。内村は、各現場に足を運んで関係者と連携を深めることに尽力し、働きぶりを認めてもらいながら、完遂に繋げていったと話す。

 この時の経験は、現在の内村の礎になるとともに、後輩へのアドバイスにも活かされる。「自分の味方が増えないとどんな仕事もうまくいかない。敵をつくらず、信頼しあえる仲間を増やすことの大切さを若手には伝えています」。新幹線の安全を担う検修技術は、互いを敬い、切磋琢磨できる環境の中で培われていく。

※新ATC導入により一段でブレーキ制御を行うことができ、従来の段階的なブレーキ制御よりも滑らかな減速が可能になった。

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