鉄道に生きる

宗安 豊 岡山支社 倉敷保線区 総社保線管理室 助役(室長)

より安全な保線業務のためにチーム一丸で取り組む

列車見張り員を配置し、作業員の安全を確保した上での点検が基本。現場では、「点ではなく、線や面で線路を見る」という、異常を見逃さない視点を若手に伝える。

 朝8時30分、総社保線管理室長の宗安は、出勤してきた社員たちと前日の仕事の進捗状況や今後の予定、時には家族のことなどさまざまな話題でコミュニケーションをとる。緊張感を伴う保線※1現場に向かう前の心和むひととき。「いい仕事をするための環境づくりが自分の役割」と、1日の安全を願いメンバーを送り出す。

技術とチームワークの基本を学ぶ

工事のデータ作成など、若手社員の業務にもきめ細かくアドバイスする。

 宗安は山口県出身。岩徳線の沿線にある玖珂町[くがちょう]で育った。学生時代、トンネルの前や線路脇で作業する人たちの姿を通学中の車内から興味を持って見ていたのが、JR西日本入社の原点という。

 最初の配属先は、神戸保線区の兵庫管理室。土地勘がないため、まずは駅や踏切、線路の分岐器などから覚えるようにし、現場では先輩の後ろをついて、無我夢中で線路を歩いたという。現在、1年目の社員は「線路技術訓練センター」で半年間検査の着眼点や手順を学ぶことができるが、宗安の入社当時は「技術は見て盗んで覚える」時代。職人肌の先輩が多い中、叱られながら道具の使い方や点検の要点を習得していった。レール交換など夜間に行われる大規模工事も、自ら進んで見学に出向いたそうだ。「自分の目で見て初めて、どういう準備をすればいいか、なぜこの手順で行うのかが理解できます。疑問点は箇条書きにし、調べたり、聞いたりしながら解決しました」。同時に、日々の清掃などを通じて、職場における気配りの大切さも学んだという。「保線業務はチームワークが第一。普段の気配り、声かけが作業中の仲間への安全の確保につながります」。

揺るぎない安全への思い

 中でも、ベテラン社員から何度となく教え込まれたのが、「段取り八分」という仕事の進め方だ。危険と隣り合わせの保線の現場。無事に仕事をやり終えるには、準備段階で徹底して安全性に配慮した計画を組むという、安全対策への姿勢が言葉の背景にある。宗安自身、入社2年目に山陽本線朝霧触車事故が発生し、同じ年代の仲間を失うという衝撃的な経験をした。その後、2006年1月には伯備線触車事故が起こった。その翌月から施設部管理課(当時)に異動になった宗安は、採用担当として、伯備線触車事故で亡くなった1年目の社員の出身校を訪問し、再発防止や安全対策への取り組みを誠心誠意説明したそうだ。「福知山線列車事故の翌年であり、どんな厳しい意見にも真摯に向き合い、自分ができることをやっていくしかないという思いでした」と当時を振り返る。

 この時の思いは、その後、施設部保線課において、事故を防止するためのハード対策の実施へと活かされる。宗安は、技術部(当時)が開発した「GPS式列車接近警報装置」の導入にあたり、安全推進部と電気部とともに列車の見通しの悪い線区を中心に進めていった。手元の端末が鳴動することで列車の接近を保線員に知らせるこの装置は、「命を守るツール」として現場で作業にあたる仲間たちに安心感を与えている。

グループの総力を発揮して復旧を果たす

備中広瀬〜備中高梁駅間をはじめ、伯備線は沿線各地に甚大な被害を受けた。1日も早い復旧をめざす中、沿線住民の方たちの励ましの声が大きな支えになった。

 今年7月、近畿や中国、四国地方を中心に、西日本の広範囲を記録的な豪雨が襲った。各地で河川の氾濫や土砂崩れが相次ぎ、その影響はJR西日本の各路線にも及んだ。伯備線の区間もあちこちで斜面が崩壊して土砂が線路を覆い、また高梁川の水位は堤防の高さを超え、濁流が街を飲み込んだ。砕石が流されレールと枕木の間にできた人が入れるほどの空洞、線路上に横たわるトラック。被災状況を把握するため、2日間現場を歩いて点検したときには、「とても1カ月程度では復旧できない」と、覚悟をしたという。JR西日本グループ会社やパートナー会社の協力を得て工事を開始したが、今度は連日の猛暑が追い打ちをかける。MTT※2などの重機械も使用することから、宗安は日々現場に詰め、熱中症やケガを発生させないよう、復旧作業の安全を見守った。「工事が遅れても復旧はできますが、命は復旧できません。異常時だからこそ、“無理はしない”を徹底しました」。

 8月1日、懸命の作業が実を結び、伯備線は26日ぶりに全線で運行を再開した。「作業員の中には、自身も被災し避難所から通って来てくれた人もいた。早期復旧を果たせたのはこうした協力体制も含め、復旧に携わった方々の底力が発揮できたから」と、宗安は感謝と誇りを口にする。「一人ではできないこともチームで考え、議論を重ね、ともに取り組んでいきたい」。災害現場の経験を糧に、さらなる線路の安全を見据えている。

※1.列車走行や自然状況などにより生じる線路の軌道やレールの不具合を定期的に保守し、安全性や乗り心地、走行安定性を常に保つ。 ※2.マルチプルタイタンパー。軌道の歪みを修正し、乗り心地の良い状態にするための大型機械。
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