旅の味めぐり 駅弁

近江牛としょいめし

◎東海道新幹線・東海道本線・北陸本線/米原駅

湖国の豊かな水源と肥沃な土壌環境で育まれる近江牛。日本の食肉文化の原点ともいわれ、400年もの歴史を誇る。サシが多く、甘く柔らかな肉質が特徴の地元名産と湖北の郷土料理を合わせたのが「近江牛としょいめし」だ。
醤油がほのかに香る飾らない味付けは近江の食の奥深さと旅情にあふれている。

近江牛の魅力を2つの味で楽しむ、贅沢な旅の友。

湖国自慢の味わいを箱に詰めて

米原市の三島池より伊吹山を望む。

 県中央に日本最大の湖が広がる滋賀県。その北東部に位置する米原は、古くから琵琶湖水運の玄関口であり、北国街道や中山道の宿場町として人や物、文化が行き交っていた。現在も米原駅は東海道本線・北陸本線および東海道新幹線の3線が合流。湖東平野部を横断する近江鉄道も乗り入れ、県内有数の交通の要衝として機能している。

 米原駅では、在来線や新幹線ホームなどにある6つの店舗で駅弁が販売され、旅行客や出張のビジネスマンの食を担う。その中でも、百貨店の駅弁大会をきっかけに2011(平成23)年12月に発売されて以来、根強い人気で名物駅弁になっているのが「近江牛としょいめし」だという。

 「しょいめし」とは、醤油で炊いたごはんのことで、湖北に伝わる郷土料理の一つ。かつては、祭りの時に出されていたことから、「わっしょい」の「しょい」から名付けられたとも、「しょうゆめし」が縮まったとも言われる。昔懐かしい素朴なごはんの上では、地元名産の近江牛が存在感を放つ。神戸牛、松阪牛と並び代表的な和牛に数えられる近江牛は、主に湖東地方の蒲生周辺(現在の近江八幡市、東近江市、竜王町など)で古くから生産されてきた黒毛和種のことを言う。食肉禁止であった江戸時代には、養生薬の名目で彦根藩から将軍家に献上されていたそうだ。琵琶湖東岸は、鈴鹿山脈からの伏流水に恵まれ、近江米をはじめ、その裏作になる麦類の栽培が盛んな地域。ミネラルを豊富に含んだ良質の水、豊かな土壌で栽培される米藁[こめわら]や大麦などを飼料として、近江ならではのブランド牛が育っている。

“よそにない味”で旅人をもてなす

 米原駅構内での弁当販売を一手に担っているのは、1889(明治22)年7月1日の東海道本線全線開通と時を同じくして駅弁屋を開業したという井筒屋だ。歴史は古く、創業は1854(安政元)年。水上交通が中心であった当時、湖北と大津を結ぶ長浜港の船着場前で旅籠井筒屋を営んでいたが、鉄道時代の到来とともに「米原停車場構内立売営業人」の許可を得、以来130年近くにわたって駅弁を作り続ける。列車のスピードや輸送量が飛躍的に進化した今も、伝統の味を守り、盛り付けまで一貫して手作業にこだわる老舗の姿は、「近江牛としょいめし」の滋味深い味わいと重なる。

 井筒屋では、契約牧場で飼育されるA4ランクの近江牛の駅弁を3種販売しているが、その中でも幅広い年代に支持されているのがこの駅弁。柔らかなもも肉のステーキと旨みのあるバラ肉を玉ねぎと炒めた2つの味で、特産の近江牛を楽しめるのが人気の理由だそうだ。ステーキは近江米の白ごはんの上に大葉やゴマを添えて、「しょいめし」にはさっぱりとポン酢風味に仕上げたバラ肉が乗せられる。脂を極力落としたバラの赤身のみを使うことで、醤油味のごはんとの相性も絶妙になるという。味の要は、湖北産の丸大豆を昔ながらの製法で仕込む地元の手造り醤油。「しょいめし」の味付けはもちろん、ステーキのたれにも使われ、豊かな香りとコクを生み出している。

 全体の味のバランスに試行錯誤し、開発にはおよそ1年を要したという井筒屋ならではの駅弁は、冷めてもおいしく近江牛を味わってもらうための心配りと味へのこだわりが光っている。

飾らず、実直な味わいで近江ならではの食文化を伝える

おこのみめし

だしが香る関西風炊き込みご飯に、鶏のくわ焼きや一つひとつ丁寧に味付けしたエビ、栗、しいたけなどの田舎料理を合わせた釜飯風駅弁。
〔価格:1,000円(税込)〕

琵琶湖の鮎氷魚ごはんと一夜干し

「氷魚」と呼ばれる鮎の稚魚の混ぜごはんの上には、開いた鮎の干物と彩りも美しい日野菜漬。エビ豆や赤こんにゃくなども添えられた郷土の味づくし。
〔価格:900円(税込)※季節限定商品(1月〜3月、7月〜9月頃)〕

〔価格は全て2017年8月20日現在〕

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