旬膳暦

メバル【鮴/春告げ魚】

広島県江田島市

早春から初夏へとメバルの旬が地域の食を彩る

大きく張り出した眼が、名前の由来といわれるメバル。
春告げ魚の呼び名のとおり、3月頃から旬を迎え、身が締まり脂の乗りも良くなる。
どこか愛嬌のある容姿に対し、その味わいは淡泊で繊細。
釣り人も待ち焦がれる季節の幸を求めて広島湾に浮かぶ風光明媚な島を訪ねた。

天恵の海で育まれる天然の地魚

メバルは、瀬戸内海をはじめ日本近海に広く分布し、沿岸の岩礁域や藻場に生息している。よく似たカサゴと区別するため、瀬戸内沿岸の地域では「本メバル」と呼び、食味の良いことから人気の高い魚種という。特に、広島はメバル好きの土地柄といわれ、広島湾一帯で刺し網や小型定置網、一本釣りなどで漁獲されている。また、稚魚の放流も年間30万尾と全国一を誇るそうだ。一級河川 太田川が注ぐ広島湾は、特産のカキを中心にさまざまな魚種を育む豊かな海。点在する多くの島々の沿岸も、メバルにとって棲みやすい環境を提供している。

メバルは煮付けに限るといわれるほど、味わい深い料理法。酒、醤油、みりんで控えめに味付けし、煮過ぎないように仕上げるのがコツという。

 胎生魚のメバルは、1〜2月にかけて産仔し、仔魚は藻場やカキいかだにくっついて成長していく。体長17〜18cmの漁獲サイズになるまでには2、3年かかり、他の海域より成長が遅く小ぶりという。しかし、時間をかけてじわじわと大きくなることから、味わいに富んだ地魚として珍重されている。

 身近で、なじみ深い魚である一方、メバルが分類学上3種類に分けられたのはごく最近のことである。ヒレの軟条数や体色の違いなどから、種類が異なる可能性が議論されつつも、長い間メバルは一つの種類とされてきた。それが、2008年にアカメバル、クロメバル、シロメバルに分類され、ようやくそれぞれが独立した種と結論づけられた。市場での価格差はないというが、生態・行動などには種間差があるとされる。メバルは不思議な存在感で、地域の海に根付いている。

鮮度が誇りの「江田島めばる」

 広島湾に囲まれ、江田島・能美島と周辺に点在する島々からなる江田島市。穏やかな入り江を持ち、自然の岩場にも恵まれた島の沿岸は、天然メバルの好漁場である。水温が上がり出す3月、春告げ魚と呼ばれるメバルは漁獲シーズンを迎える。冬の産仔後の体力回復のため、メバルは餌をよく食べ、活発に動き回るようになるからだ。春から初夏にかけては、脂が乗り味わいも増す。おいしい時期と漁獲量が増える時期とが、ぴったり一致しているのもメバルという魚種の特徴といえる。クセのない淡泊な味を生かし、地元では薄味の煮付けや唐揚げなどにして食べられている。

 江田島では、刺し網漁や一本釣りが行われているが、うろこが剥がれるなど傷を負いやすいメバルにとっては、網で漁獲するより一本釣りの方が外傷を抑えることができるそうだ。釣り船は、岩礁帯など「根」のあるポイントを目指し、沿岸の漁場へと向かう。サビキや川エビを餌に釣り上げられたメバルは、生きた状態で水揚げされる。さらに、深江漁業協同組合では、呉市にある水産海洋技術センターが開発した技術を導入。希釈した海水のいけすで傷を癒やして元気にし、鮮度を保ったままで出荷する取り組みにも力を入れている。低塩分の海水が漁獲時に負った傷を回復させ、生存率が上がることが分かったのだ。誕生したのは、活きがよく見た目も美しい『江田島めばる』。江田島が誇るこだわりの地魚は、食のシーンに新たな価値を届けている。

メバルが連なって水中から姿を現す瞬間が、一本釣りの醍醐味。限られた水深にいるメバルを狙って、魚群探知機で確認しながら水深20m前後の棚へと仕掛けを入れる。

鮮度とシコシコした食感を楽しむカルパッチョは、地元ならではの味わい。また、一度煮たメバルを網で焼いて食べる「はぶて焼き」という郷土料理もあるそうだ。「はぶて」とは広島弁で「ふてくされる」の意味で、焼きにくいため、嫁が膨れ面になることからその名が付いたもの。

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