鉄道に生きる

土井 優雄(30) どい まさお 博多新幹線列車区 車掌

マニュアルを超えたサービスで快適な新幹線の旅を提供する

車内巡回では、目線をお客様の高さに合わせながらきっぷの確認を行う。

どんなお客様にも安心快適にご利用いただきたい

 新幹線の車掌の業務は、車内を巡回しながら行う改札業務をはじめ、目的地や次の駅を伝える車内アナウンス、お客様が乗り降りする際のホームの安全確認、急病人が発生した時の救護など多岐にわたる。とりわけ新幹線は在来線と違い、駅間が長いので、それだけ車内においてお客様と接する時間も機会も多い。

 在来線から車掌の経験を積み、土井が新幹線の車掌になったのは8年前の2006年。現在は山陽新幹線の車掌長として、乗務のほか後進の育成にも取り組んでいる。

「新幹線は16両編成の場合、満席なら約1,300人のお客様が乗車されていますが、お客様ごとにご乗車の目的は違います。観光のお客様もいらっしゃれば、お仕事のお客様もいらっしゃいます。また帰省や冠婚葬祭など、多様な目的のお客様と触れ合うのは新幹線ならではです」。

 例えば仕事で新幹線を利用する場合と、観光で新幹線を利用する場合とではお客様の心持ちが違う。冠婚葬祭や、転勤など人生の大事な局面で新幹線を利用しているお客様も多い。さまざまな立場のお客様と接する上で、土井が心掛けていることがある。

「どのような目的で乗車されているお客様にも、安心して快適にご利用いただきたい、そのことを一番に考えています」。

車両がホームに入ってくる時は、パンタグラフの異常や、車両の行き先表示に間違いがないかなどをチェック。

団体のお客様の乗車区間の確認や、体の不自由なお客様の席の確認など、車両の状況をパーサーとも共有する。

親身に対応すれば、気持ちは必ず伝わる

 新幹線の車掌には、乗務に際して行うサービスのマニュアルがある。しかし、「そこから一歩踏み込んだサービスを提供したい」。そう語る土井には、一つの忘れられない経験があった。

「あるお客様がデッキでしゃがみ込まれているのを見かけ、声をお掛けしたら喘息の発作でした。ご本人は大丈夫と言われましたが、私自身にも喘息の経験があり、その苦しさは分かるので、ゆっくり休んでいただこうと多目的室にご案内しました。後日、そのお客様からおほめの言葉をいただき、とても感激しました。お客様に親身に対応すれば、気持ちは伝わる。この経験が、今に生きています」。

 身体の調子が優れないお客様を休める場所へ案内するのは当然のサービスかもしれない。しかし、親身になること、目の前のお客様の思いを共有することは、マニュアルから一歩踏み込んだサービスであり、ケースバイケースで車掌に判断が委ねられる。そのあたりを土井はどう考えているのか。

「できる限りお客様のご要望にお応えしたい。もちろん、ルールは守らなければなりませんので、自分で判断できない場合は、指令員と相談して決めることもあります」。やはり、「できない」「分からない」で済ませないという思いがその根底にあるようだ。

「新幹線の車掌になった時、お客様に丁寧に接する先輩の姿を見て、自分もそうなりたいと思いました」。そのためには、経験に加えて、自らの工夫とノウハウの共有が大事だ。

次の停車駅や乗り換え案内をアナウンス。乗客に伝わりやすいスピードや言葉を意識してアナウンスを行う。

マニュアルを超えたサービスを共有する

「車内放送にしても、ただ放送するだけなら簡単ですが、お客様に伝わる放送となると、スピード、内容、言葉を含めていろいろ意識します。特にダイヤが乱れた時など、専門用語をどう言い換えればお客様に伝わるか、どのように放送すれば良いかを考えて放送しています。他の乗務員の放送を参考にしたり、先輩乗務員に聞いたりしながら技術の向上に努めています」。

 またJR西日本では、車掌職場の中心的存在となる指導車掌の育成に取り組んでいる。新幹線の車掌だけでなく、在来線の車掌も集まり、ベテラン車掌のノウハウを土井のような若手指導車掌が吸収し、次の世代に継承することが目的だ。

「私たち新幹線の車掌グループは、『場面・状況別のこだわり集』を作成しています。各職場でベテランを中心に仕事における“こだわり”を直接聞いたり、アンケートを取ったりしたものを持ち寄って、誰でも一歩進んだサービスが実践できるように取り組んでいます」。

 一人ひとりの車掌の思いと経験を共有することで、新幹線の旅をさらに快適なものにしていく。

発車時はホームの安全確認を行う。もし危険と判断した場合は列車を止めることもある。

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