ふるさとの味

島根県鹿足郡津和野町 うずめ飯

山あいの小さな盆地に、石見地方特有の赤瓦の町並みが続く津和野。 昔ながらの面影を残す城下町には、一風変わったもてなし料理が伝わっている。 土地の食材をご飯の下に埋め、伏し目がちに出したことから その名がついたとされる「うずめ飯」。 里に伝わる歴史と伝統の味には、津和野の人々のつつましさと豊かな食の知恵が息づいている。

ご飯の中に隠された山里の幸をもてなしの心とともに味わう。

山里の風土を映す素朴な味わい

江戸時代には、すでに特産として名高かったといわれる津和野の根わさび。

 山陰の小京都と呼ばれる津和野町。折り重なる山々に囲まれ、ゆったりと蛇行する津和野川に沿った谷間に、風情ある家並みが広がっている。島根県の最西端、山口県との県境に位置するため、古くから隣県とのつながりが深い。津和野の夏の風物詩、伝統ある「鷺舞[さぎまい]」は、京都八坂神社の祇園会の神事が山口へと伝わり、それが津和野に受け継がれたとされている。

 山あいにありながら、江戸時代には「魚町」という魚市場と宿場が軒を連ねていたという津和野は、山、川の恵みはもちろん、海の幸もふんだんに取り入れた多彩な食文化を持つという。そうした中でも、里の人々の暮らしに根づいてきたのは、津和野の風土が育んだこの土地ならではの素朴な味わいであった。

 代表的な郷土料理のひとつ「うずめ飯」は、見た目は汁の中に白いご飯がよそってあるだけの簡素なもの。しかし、ご飯の下には、周辺に自生するわさびやせりなどの山菜、しいたけ、豆腐、かまぼこなどの具材が埋まっている。この料理の来歴はさまざまに伝わる。具が粗末なものばかりで恥ずかしいから、高級品のわさびを上にのせると客が遠慮するから、また、贅沢を嫌った津和野藩主の目を気にしてなど。

 いつ頃、誰がつくり始めたのかも定かではないが、地域の組が集まって氏神様に参拝する「春神楽[はるかぐら]」という正月の風習で、祝宴の最後に出されるもてなし料理が「うずめ飯」だったという。それがいつしか1年を通じて食べられるようになり、津和野の郷土食として観光客の人気も集めるようになった。

狭小な谷底平野に佇む津和野の町。

わさびが香り立つぜいたくな風味

 「うずめ飯」のつくり方はいたって簡単である。町内で「季節料理とくまさ」を営む徳政克人[とくまさかつと]さんに手順をうかがうと、まずは茶碗にすりおろしたわさび、せりや柚子の皮など、香りのものを入れておく。さいの目に切った具材をだしで煮て、お吸い物くらいの味をつけたらだし汁ごと茶碗に注ぎ、それをご飯でふたをするように“うずめる”とできあがる。家庭によっては、干ししいたけを使い、具材から出る味だけでだしは取らない場合もあるそうだ。

 ありあわせの材料でつくるものながら、「うずめ飯」にはもてなし料理としての基本があるという。酒宴の後などに手早く出すことができ、食べる時にかき混ぜることで、閉じ込められていた具材の香りが立ち上り、中から現れた具による驚きもあり、目でも舌でも楽しませるご馳走と なる。時代を超えて受け継がれている理由はそのあたりにあるようだ。

 香りの主役ともいえる根わさびは、津和野地方の特産品。水に恵 まれ、冷気に育まれることが条件のわさび栽培が、山麓の高冷地などで行われている。特有の粘りと香り、辛さの中にほのかな甘みを持つ良質のわさびがあってこその「うずめ飯」。飾らないひと碗には、津和野の 風土を誇る里人の心も隠されている。

わさびなどを盛りつけた上に、煮た具をだし汁とともに入れる。

すべての具を隠すように上からご飯をよそう。

 

ご飯ですっぽりと具を隠すのが本来の姿といわれるが、近年ではわさびや海苔をご飯の上にのせることも多い。

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