ふるさとの祭り

笑いで福を呼ぶ伝統の奇祭 笑い祭(丹生[にう]祭) 体育の日直前の日曜日/和歌山県日高郡日高川町(2011年は10月9日に開催予定でしたが、台風12号の影響により中止となりました。)

白塗りに八の字眉という、
滑稽な化粧をした「鈴振[すずふ]り」に先導され、
祭り行列が「笑え、笑え」と見物人を囃し立てて練り歩く。
和歌山県中部、日高川町の丹生[にう]神社では
毎年秋の祭礼として「笑い祭」が繰り広げられる。
五穀豊穣を祈願する地域あげての祭りには、
笑いで邪気を祓うという信仰が息づいている。


清流日高川の雄大な自然美に恵まれた日高川町。町の中央部を東西に横断する川は、町名の由来にもなっている。

氏神様の伝承に由来する秋祭り

江川地区の入り口で行われる「鬼の出迎え」。丹生神社がある江川の鬼が他の地区の鬼を迎える儀式で、この後御旅所に招き入れ神事が行われる。

神輿は4地区から集まった白装束の氏子たちに担がれ、「エーラクシャ、ヨーラクシャ」のかけ声もにぎやかに、神社までの道中を練り歩く。

 青く澄んだ日高川が町の中央部をゆったりと流れる日高川町。秋の1日、自然豊かでのどかな町は、人々の笑い声と熱気に包まれる。町の南西に位置する丹生神社の祭礼は、奇祭「笑い祭」として知られる。丹生神社は、江川[えかわ]、山野[さんや]、松瀬[まつせ]、和佐[わさ]の4つの地区からなる旧丹生村の村社で、古くは八幡大神を主祭神とする江川八幡宮であったという。1908(明治41)年、それぞれの地区にあった祭神をすべて江川八幡宮に合祀し、社号も丹生神社と改め今日に至っている。かつては地区ごとに奉納行事があったが、合祀以降はすべて丹生神社の例大祭「丹生祭」として行われるようになった。その中の和佐地区の祭りが「笑い祭」である。

 丹生神社の祭神の一座には、丹生都姫命[にうつひめのみこと]が祀られている。丹生都姫命は、農耕や水を司り、赤土を生む神として敬われてきた。赤土には丹[に](水銀)が含まれ、かつて鉱山があったこの地域にとってゆかりの深い女神である。その昔、出雲の国では神有月(旧暦10月)の最初の卯の日に神集いが行われ、丹生都姫命も初めて出席することになっていた。ところが、当日朝寝坊してしまい、ふさぎ込んで神殿に閉じこもってしまったため、心配した村人たちが姫神様の邪気を祓おうと農作物を盛った福枡[ふくます]をお供えし、「笑え、笑え」と慰め勇気づけた。これが「笑い祭」の起源の一つとして伝わっている。

境内で披露される迫力ある幟(のぼり)芸も祭りの見どころ。使われている幟は最大五反もあり、各地区の幟差しが力と技を競う。(写真提供:日高川町まちみらい課)

笑いの連鎖が祭りの一体感を生む

 祭り当日の早朝、丹生神社では神輿に御魂を移す神前式が行われ、その後、神輿を担いで日高川の支流である江川川左岸にある御旅所[おたびしょ]へと向かう。御旅所には各地区から祭りに参加する氏子が集合し神事がとり行われるが、それに先立ち、宮元である江川の鬼が山野、松瀬、和佐の鬼を出迎える。双方の鬼が矛と簓[ささら]を響かせてにらみ合う勇壮な「鬼の出迎え」の儀式は、祭りの見どころのひとつ。

 「笑い祭」は、御旅所から丹生神社への還御[かんぎょ]の道中で繰り広げられる。神輿を先導するのは、カラフルな衣装に笑いを誘う化粧を施した「鈴振り」で、「エーラクシャ、ヨーラクシャ(永楽・家楽じゃ、世は楽じゃ)」のかけ声とともに「笑え、笑え」と鈴を振りつつ沿道の人々をけしかける。後ろに続く「枡持ち」12人(うるう年は13人)が、竹の串に刺した収穫物を入れた福枡を捧げ大笑いすると、見物人たちもつられて笑い出すのだ。さらに、「鈴振り」は手に持った宝箱の中のお菓子を投げ撒きながら笑いを振りまいていく。こうして、沿道を笑いの渦に巻き込みながら、お渡り行列は神社の境内に到着する。江川の奴[やっこ]踊りや山野の雀踊り、松瀬の竹馬、和佐の踊り獅子など、地区ごとの伝統演舞が奉納されると、観客は満面の笑みを浮かべ拍手を送る。笑いで心を和ませ、福を呼ぶという「笑い祭」の伝統は、連綿と地域に受け継がれている。

祭り当日にしか手に入らない「鈴振り」と枡をモチーフにした手作りグッズ。

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