Blue Signal
May 2004 vol.95 
特集
駅の風景
食歳時記
鉄道に生きる
陶芸のふるさと
見上げるガラス張りの大天井の下に広がる巨大な空間の京都駅ビル。171段の大階段はまるで天にも昇る雰囲気がある。 駅の風景【京都駅】
平安京の時代から変わらない都の玄関口
平安の時代から1200年の歴史を刻みつづける京都。
伝統を積み重ねつつ、つねに新しいものを創造しつづけるのが都であり、京都の地はまさしく進行形の都なのである。
京都駅ビルの斬新さはそんな京都の顔にふさわしい。
伝統の中に現代が見え隠れする京都駅周辺を歩いてみた。
日本文化の原形 世界屈指の古都
平安京が置かれたのは794(延暦13)年。その後、1000年以上にも及んで京都は日本の首都でありつづけた。京都とは本来「首都」という意味だが、あまりに長く都であったために固有の地名になってしまったという。

町の歴史が1200年を超える都市というのは世界的にも珍しい。戦災を免れ、数多くの寺社仏閣、老舗の建物が残り、間口の狭い独特の木造家屋が軒を連ねた古い家並みが古都の風情を伝える。旧家が多く公家や武家以外にも「600年以上続いている家は珍しくない」というあたりがいかにも京都たるゆえんだ。

日本の伝統、文化、風趣が日常に生きづいている京都は、町それ自体が日本的なるものの語り部であるといってもいい。自然や風景、建物や芸術、侘や寂などの日本の精神、そういうものが人々をこの町に呼び寄せるのではないだろうか。

そこには平安から室町、戦国から幕末へ、そして現代にいたる長大な歴史物語があり、多くの歴史上の人物たちが生きた風景がある。
京都駅ビルは現代に蘇った羅城門
そんな京都の玄関口の役を、1876(明治9)年以来担いつづけているのが京都駅だ。当時も今も観光シーズンには改札口に人が溢れる光景は同じだが、1997(平成9)年に現在の京都駅ビルが誕生して古都の顔は一変した。建物は見た目にも斬新でモダンで、ほとんどの人が近未来的なガラス屋根の巨大な空間に目を奪われる。駅ビルとしては日本最大スケールで、とくに171段の「大階段」とそれにつづく「大空広場」は、京都の町並みを望める新しいスポットとして人気が高い。

しかし視点を変えて京都駅を見ると、たちまち歴史の奥深さを知らされる。駅構内の線路の一部は桃山時代に豊臣秀吉が洛中と洛外を区分するのに築いた土居(土塁)の跡を利用して敷設されたものだというし、時代をさらに遡れば、京都駅周辺は平安時代から都の門口としての役割を担ってきた。

朱雀大路[すざくおおじ]の南に位置し平安京の正面門であった羅城門は京都駅のすぐ西にあった。今は碑だけが残っている。京都駅ビルはいわば現代の羅城門だといえる。
現代と隣り合わせで歴史がいまも生きている
平安時代、外国からの使節は羅城門から入京したといわれる。現在では外国人観光客の大半が京都への第一歩を印すのが京都駅。

八条口の改札を出てすぐの総合案内所にある「京都SGGクラブ」は、京都を訪れる外国人のための通訳やガイドを行うボランティア団体だ。1984(昭和59)年から活動を始め、会員は約80人。「京都の良さと、良い思い出を残していただきたくて」という趣旨で、メンバーの一人は「観光相談のほか、交通費など必要経費だけで京都を案内しています」と話す。

京都駅界隈では駅の北側すぐのところに堂々たる大屋根を見せる東本願寺、その西側に位置する西本願寺は世界文化遺産。京都の人はそれぞれ「お東さん」「お西さん」と親しみと敬愛を込めて呼んでいる。その間に挟まれた一角は、寺院の境内に形成された寺内町で仏具や仏壇などを売る老舗が密集している。

さらに西へ少し足を伸ばせば、倒幕の志士や新選組が酒盛りをして騒いだと伝えられる島原の花街が往時を偲ばせる。こうしてそぞろ歩きをするだけで、京都駅周辺には1200余年を自由に行き来できるタイムトンネルの入り口がそこかしこにある。
地図
このページのトップへ
イメージ
平安京の目抜き通の朱雀大路(現在の千本通)の南には都への正面玄関として豪壮な構えの羅城門があった。現在は公園に碑が建っているだけ。
イメージ
京都駅ビルは地上16階、地下3階建。観光案内所やホテル、レストラン、劇場などの複合施設として人気を集めている。
イメージ
現在の駅は4代目。
イメージ このページのトップへ
特急「はるか」は京都駅と関西国際空港を結ぶ。
イメージ
東と西の本願寺に挟まれた一帯は寺の境内にできた町、寺内町。細い通りを歩くと仏壇や仏具の店が軒を連ね京都らしい独特の風情がある。
イメージ
【島原大門・角屋】
江戸の時代に隆盛を極めた京都唯一の公許の花街。角屋は“揚屋”、今でいう料亭の代表格で西郷隆盛、久坂玄瑞、坂本龍馬などのほか、新選組の隊員らが連夜、酒宴を開いて乱舞したという。
イメージ このページのトップへ
歴代の蒸気機関車を保存する梅小路蒸気機関車館。